キムタク『検察側の罪人』の安倍政権風刺がキレキレ! 山口敬之事件や安倍昭恵、日本会議を想起させる描写も

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映画『検察側の罪人』公式サイトより

 木村拓哉と二宮和也の共演で話題の映画『検察側の罪人』。木村、二宮のみならず、松重豊、大倉孝二、酒向芳など演技派の俳優たちによる演技バトルが話題を呼び、興行通信社による初週の全国週末興行成績(8月25日、26日)は、動員31万8000人、興収4億1600万円で1位、2週目も連続1位とヒットしている。

『検察側の罪人』は、東京地検刑事部に所属する最上毅(木村拓哉)と沖野啓一郎(二宮和也)を中心とした物語。二人は蒲田で発生した老夫婦惨殺事件の担当となるのだが、彼らにとっては日常的に起きる事件のひとつに過ぎなかったその案件は、捜査線上に松倉重生(酒向芳)が浮上したことから急展開する。

 松倉は23年前に起きた荒川女子高生殺害事件で容疑者の可能性が高いと目された人物だったが、証拠不十分のため逮捕にまではいたらず、女子高生殺害事件は時効となっている。事件当時、被害者と親しい間柄だったこともあり荒川の事件に特別な思いを抱いている最上は、蒲田の事件を通じてなんとしても松倉を罰したいと考え、証拠の捏造や隠蔽にまで手を染めるなどだんだんと暴走していく。

 本サイトとしては、厳罰主義や恣意的捜査を肯定するようにも取れるストーリーなど首肯できない点もいくつかあるが、『検察側の罪人』にはメインストーリー以外の部分で注目したい箇所がある。安倍政権に対する皮肉が随所に込められているのだ。

 たとえば、検察庁舎内で、キムタク演じる最上検事が捜査について上司と打ち合わせをしている場面。すぐそばで、若手女性検事が上司とある事件をめぐってやりあっているのだが、「襲われたのに10日も経って警察に行くのはおかしい」「ショックですぐに警察にいけないことはある」「起訴させてください」などと性暴力事件の取り扱いをめぐって、紛糾している。そのうち若手検事がこんなことを言い出すのだ。

「高島グループのブレーンだから、警察もひるんでいるんです!」

 高島グループというのは、次期首相と目される与党の大物議員・高島進が率いる政治グループ。ようするに、事件の容疑者が次期首相のブレーンだから、忖度しているという会話で、山口敬之氏の性暴力事件をモチーフにしているとしか思えないのだ。そして、「次期首相の高島」というのは、「次期」ではあるが、安倍首相のことだろう。

 実際、「高島」が安倍首相をモデルになっていると思われる部分はほかにもいっぱい出てくる。

 たとえば、キムタク演じる最上の学生時代の同窓生・丹野和樹(平岳大)は高島の娘と結婚し、自身も衆議院議員として活動しているのだが、その妻は「世界極右会議」なる団体と急接近し、極右的な思想に染まりつつある。

 これも、微妙に設定を変えているが、昭恵夫人や「日本会議」のパロディだろう。ちなみに、劇中、キムタクらはこの団体を「ネオナチ」と表現して批判している。

「奴らは太平洋戦争を正当化しようとしている」のセリフも

 歴史修正主義批判も出てくる。実は最上の祖父はインパール作戦から奇跡的に生還した経歴をもっており、そのときの経験をもとにした反戦小説はベストセラーにもなったという設定。そして、最上もまた、戦前の日本に戻そうとする高島グループに強い危機感を抱いていた

 そして、最上と丹野の間では、高島グループが牛耳る日本の現状についてこんな会話もかわされる。

「民主主義は壊されようとしている」
「検察の上層部も高島グループとつながっている。三権分立がなってない」
「日本の報道の自由度は、北朝鮮よりちょっとマシなくらい」
「奴らは太平洋戦争を正当化しようとしている」

 まさに、ど真ん中の安倍政権批判である。

 また、丹野が宿泊するビジネスホテルから妻に電話するくだりがあるのだが、このビジネスホテルの経営者は、「世界極右会議」なる団体と急接近している妻のお友達という設定。そして、丹野は電話で妻にこんな皮肉を言う。

「いまお前の友だちが経営するホテルにいる。お前たちの頭のなかのようにおぞましい部屋だ」

 これは、安倍首相の“ビッグスポンサー”である元谷外志雄が経営し、南京大虐殺を否定し歴史修正主義を喧伝する書籍を客室に常備しているアパホテルを意識したものだろう。

 さらに、ラスト近くで、自殺した丹野から高島グループの金銭疑惑に関する資料を託されたキムタク検事が「高島グループの資金は戦争国家に戻すために使われている!」とその疑惑を明るみにする意欲を、ニノに熱弁する。

 こうしたセリフはもちろん、山口敬之氏や、安倍昭恵氏、アパホテルを想起せずにはいられない設定、インパール作戦の部分は、文藝春秋から刊行されている雫井脩介氏の原作小説には一切登場しない。本筋には関係ない要素を入れたことに、とくに原作ファンの観客からは賛否両論も巻き起こっている。

 ただ、今作を担当した原田眞人監督には、そうした批判が出るのを覚悟してまで、どうしても原作にはない、社会風刺の要素を入れたいとの強い思いがあったようだ。

 原田監督は「キネマ旬報」(キネマ旬報社)2018年8月下旬号のインタビューで「今の日本が危険な状況下にある以上、現代社会を反映させた要素を僕はどんどん打ち出していきたい」と、上記のような要素を入れざるを得なかった心境を説明している。

 また、インパール作戦についても「僕が思うには、ああいった日本の悪しきシステムは、平成のいまも日本の社会のなかにまだ根深く残っている、そういうことを静かに伝えなければと思いました」(『検察側の罪人』公式パンフレット)と、70年以上前の昔話ではなく「いま」の問題であると強調。そのうえで、「例えば、アドルフ・アイヒマンを描いた映画はドイツで毎年のように作られ続けています。でも日本でいま、そういう映画はない。けれども、どこかで語られ続けなければいけない」(前同)とも語り、「映画」というメディアを使って過去の教訓を伝え続ける必要性を語っている。

原田眞人監督はインタビューで「僕は百田尚樹じゃない」と

 原田監督はけっして、政治性の強い作品ばかりをつくっていたわけではないが、数年前から、日本をもう一度、戦争の出来る国にしようとする安倍政権に対して、強い危機感を抱くようになっていた。

 原田監督は2015年に『日本のいちばん長い日』のリメイクを担当している。これは、1945年8月14日の正午から8月15日正午までの24時間に政府や軍隊内で起きていた様々な衝突を描いた群像劇で、1967年に公開された岡本喜八監督版は日本映画史に残る傑作と評価されている(庵野秀明監督は『シン・ゴジラ』内で岡本喜八版『日本のいちばん長い日』の演出手法を下敷きにしている)。

 このリメイク版『日本のいちばん長い日』公開時に原田監督は、「週刊金曜日」(2015年8月7日号)のインタビューに答えてこう語っている。

「天皇の位置づけを明治憲法のように戻すのは反対だし、僕自身は憲法改正自体に反対なんです。安保法制も軍を作ることにも大反対です。日本は軍をなくすことで国を残した唯一の国なんだから。原爆を投下されてるわけだし、今の世の中がどう動こうと、そこのところを前面に押し出していかないといけません」

『日本のいちばん長い日』は、超党派の議員向けに憲政記念館で試写が行われているが、そのことに関して「安倍首相も観るでしょうか?」と問われた原田監督は「安倍首相が観たら、彼は自分なりに都合のいい解釈をするでしょう」と、歴史修正主義者の安倍首相に対して強烈な皮肉を飛ばし、また、「利用される恐れは」との問いにも「別に僕は百田尚樹じゃないから(笑)」と、2013年公開『永遠の0』を意識したと思われる皮肉を返していた。

 このとき原田監督は『日本のいちばん長い日』だけで戦争に関わる映画づくりを終わらせるつもりはなく、「憲法を作るプロセスの映画もやりたい。憲法も、僕はGHQの押しつけだと思っていません。これは日本人の意思だよ、ということを伝えたい。そして、そのことを今の政治家たちは理解しなくちゃいけない。だから、ポツダムと日本国憲法についても作って、戦争映画のトリロジー(三部作)みたいな感じにできたら一番いいですけどね」と語っていた。

木村拓哉は「監督の目をつぶらないぞという意志表示」と賛同

 今回の『検察側の罪人』に出てくる政権批判的要素は、こうした原田監督の危機感が反映されたものなのだろう。

 実は、この原田監督の思いを意外な人物が受け止めていた。ほかでもない、主演の木村拓哉だ。キムタクは映画の公式パンフレットで、こう語っている。

〈原作にはない“インパール作戦”という戦争の要素を、原田監督が脚本のなかに練り込んできていて、正直驚きました。僕の考えでは、監督に膨大な量の知識があって、そのなかでもこれは監督個人において、一つの情報として置いておくことは許せない事項だったんじゃないかと思ったんです。その姿勢は今回のストーリーともリンクしているんですけど、要するにいまの社会にあって、ダメなことに目をつぶろうと思えばできますが、絶対そうしないぞという意志表示。それを脚本から感じましたね〉

 昨年夏、インパール作戦を特集したNHKスペシャル『戦慄の記録 インパール』が大きな反響を呼んだが、ちょうど『検察側の罪人』撮影の最中に、キムタクもちょうどこのNスペを観ていたという。

 9月3日、映画のヒットを記念して、木村と二宮ふたりそろっての舞台挨拶が行われたが、そのなかで、「また2人が共演するとしたらどういう設定で、どういう役で演りたいか?」というファンからの質問に、キムタクは「二宮が明智光秀で、自分が織田信長」と回答したのだが、その理由として「求められることに対して(作品を)作る、という作業が今の流れになってるでしょ? 時代ものって求められていない気がするんです」とマーケティングで作品を作るのが主流になっている現在、時代ものが作られづらくなっていると分析。そのうえで、こう語った。

「時代ものとか太平洋戦争の事実とか、(メジャーな存在である)自分たちしかできない」

 SMAP解散騒動では、キムタクに批判的だった本サイトだが、この姿勢は高く評価したい。

 いずれにしても、『検察側の罪人』での政権批判やインパール作戦の描写は、批判を受けるリスクを背負っても原田監督が伝えたかったメッセージでもある。ぜひ、映画館に足を運んでもらいたい。

最終更新:2018.09.05 01:14

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