「安倍首相が米朝会談開催地を進言」が本当なら大失態! シンガポール・セントーサ島は日本が朝鮮人慰安婦を連行した場所

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「シンガポールに決めさせたのは首相」と伝える6月8日付産経新聞記事(「産経ニュース」より)

 明日12日、シンガポールで開催される米朝首脳会談。これに先駆け7日、米国でトランプ大統領との首脳会談を行った安倍首相は、拉致問題への言及の確約を取り付けたと嘯くが、この間、米朝韓と中国を中心に進められた対話路線への交渉から完全に“蚊帳の外”に置かれたことを考えれば、会談が終わるまでどうなるかは依然不透明だ。

 そんななか「外交の安倍」なる虚像をこしらえようと必死なのが、ご存知、“政権御用紙”こと産経新聞。昨日10日もカナダで行われたG7サミットについて「安倍首相が議論主導」し、議長国であるカナダのトルドー首相も「最後は安倍首相を頼ってくる」、トランプ米大統領は「シンゾー、どう思う?」「シンゾーの言うことに従う」を連発し、メルケル・ドイツ首相は「安倍首相にウィンク」などというにわかには信じがたいヨイショ記事を出していたが、このヨイショぶりは米朝会談についても同様だ。

 たとえば8日付東京版の記事では米朝会談に関してこんなふうに記していた。

〈トランプ氏を説得できる数少ない人物として国内外で知られる首相への米政権や米議会の期待も高い。
 米朝首脳会談の開催場所をめぐり、南北軍事境界線がある板門店での開催に傾いていたトランプ氏を翻意させ、シンガポールに決めさせたのは首相だ。それも米政権内から「首相から大統領に言ってほしい」との要請があったほど。
 今回の日米首脳会談に関しても、米側は日本側にトランプ氏に影響力のある首相への期待感を伝えてきている。〉

 記事を書いたのは、最近、名物記者の阿比留瑠比氏から「安倍首相に最も近い産経記者」の“2代目”を襲名したともいわれる田北真樹子記者だ。「蚊帳の外」のイメージを払拭したい意図がプンプンしてくるが、それにしても「シンガポールに決めさせたのは首相」というのは、かなり信じがたい。

 そもそも、記事を読めば瞭然だが、情報源が完全に不明だ。普通なら「政府高官によると」とか、それが難しくても「政府関係者によれば」などと最低限の情報源を明記するところを、あえて地の文で断言しているのである。さすがにこれは怪しすぎるだろう。

 たしかに、最初に米朝会談開催が正式発表されたすぐ後から、「安倍首相がシンガポールを薦めた」なる真偽不明の話がマスコミの間で飛び交ってはいた。しかし、安倍首相は生出演した5月11日放送の『プライムニュースイブニング』(フジテレビ)で、反町理・フジテレビ報道局解説委員長から「総理としてトランプ大統領に対してシンガポールがいいんじゃないかと推薦されたっていうまったくの未確認情報なんですけど、これ薦めたことあるんですか」と訊かれ、「具体的なことは控えさせていただきたいと思います」と否定も肯定もしなかった。

 ようするに、応援団や取り巻きに情報操作をさせる一方、自分は後から米国から正式に否定されることを恐れているから何も言えないのだろう。今回の産経記事にも“司令”が下ったのではと勘繰りたくもなるではないか。

米朝会談の舞台は旧日本軍が朝鮮人慰安婦を騙して働かせた慰安所のあった場所

 いずれにせよ、安倍応援団の産経がどんなに糊塗しようが、米朝会談に向かうこの間の国際社会の流れに安倍政権だけが置いてけぼりをくらったのは、まぎれもない事実である。そのうえで言うが、もしも、本当に安倍首相が開催地を指定したのならば、日本政府は、とりかえしのつかない失態を演じたことになるだろう。

 というのも、会談の舞台であるシンガポールのセントーサ島は、戦中の日本軍が朝鮮人の女性を騙し、慰安所に連行したことが明らかになっている場所だからだ。

 周知の通り、日本は太平洋戦争で東南アジア各国を侵略、傀儡政権を樹立したり、軍の統治下に置くなどの支配を進めていった。イギリスの植民地だったシンガポールもそのひとつだ。

 1941年12月8日、日本軍は真珠湾攻撃と同時に英領マレーへ奇襲上陸し、翌年2月にシンガポールを占領。シンガポールを「昭南島」なる名称に変え、日本語の使用を強制するなど圧政を敷き、華僑を抗日運動の中心とみなして粛清(虐殺)した。「大検証」と呼ばれるこの華僑粛清の実態は、トラックで島内の人目のない場所に運び、取り調べや裁判もなしに機銃掃射したり、一軒家を襲撃して華僑を見つけ次第殺害するなど、ほとんど無差別虐殺であった。終戦まで続いた日本統治時代は、いまでも“The Dark Years”と呼ばれている。

 そうした侵略のなかで、日本軍は各地に慰安所をつくった。華僑粛清の直後には日本軍の宣伝班の下で刊行された新聞に慰安婦募集の広告が出ている。慰安所には、大勢の朝鮮人女性も動員された。このことは「16歳の時にシンガポールの慰安所に連れて行かれた」という朝鮮人元慰安婦の証言だけでなく、近年発見されたビルマ(現・ミャンマー)とシンガポールの慰安所で帳場の仕事をしていた朝鮮人男性の日記からも明らかになっている。また、独立自動車第四二大隊にいた元日本軍兵士も「トタン塀」と呼んでいた慰安所には「娼妓は朝鮮人が多かったが、マライ人もいた」と証言している。

 そして、米朝会談が行われるシンガポールの南端、セントーサ島(旧称・ブラカンマティ島)でもまた、朝鮮人女性たちが慰安婦として働かされていた。しかも、彼女たちは別の仕事だと騙されて連れてこられたのだ。

 当時、東南アジアで通訳として従軍していた永瀬隆氏が証言している。永瀬氏は、日本が戦中につくらせたタイとビルマを結ぶ泰緬鉄道で陸軍の通訳をしていたことで知られる日本人男性だ。日本軍による泰緬鉄道建設にあたっては、数万人のアジア人労働者や連合国軍の捕虜が非人道的な扱いを受け犠牲となっている。永瀬氏は戦後、反戦平和の立場から個人でその慰霊と償いの社会活動を続け、2011年に亡くなった。

 その永瀬氏が生前、月刊誌「MOKU」(黙出版)1998年12月号での高嶋伸欣・琉球大学教授(現・名誉教授)との対談のなかで、セントーサ島での体験を語っていた。シンガポールでも数か月の間、陸軍の通訳として勤務しており、その時、慰安所の女性たちや軍の部隊長と話をしたことをこのように振り返っている。

「(セントーサ島には1942年の)十二月中旬までいました。十一月になって隊長が僕を呼んで、『実は朝鮮の慰安婦がこの部隊に配属になってくるんだが、彼女たちは日本語がたどたどしいから、日本語教育をしてくれ』というんです。僕は『嫌なことをいうな。通訳はそこまでしなきゃいけんのか』と思ったけど、その隊長はもう島の王様気取りでおるんです。仕方がないから、慰安婦の人たちに日本語を三、四回教えました」

 永瀬氏は「そのうちに、僕は兵隊じゃないから、慰安婦の人も話がしやすいんだな」と思ったという。そして、朝鮮人女性たちに慰安所にきた理由を聞くと、騙されて連れて来られたというのだ。

「それで僕も『あんたたちはどうしてここへ来たんだ』と聞いたら、『実は私たちは、昭南島(シンガポール)の陸軍の食堂でウエイトレスとして働く約束で、支度金を百円もらって軍用船でここへ来たんだけど、着いた途端に、お前たちは慰安婦だといわれた』というんです」

産経が「安倍が進言」と報じたセントーサ島が拉致問題解決の障害に

 つまり、日本軍は、彼女たち朝鮮人女性に性的労働をさせることを告げず、まして嘘の説明で騙してシンガポールの慰安所に連れて行ったのだ。永瀬氏の証言はこう続いている。

「それを聞いて、ひどいことをするなと思った。いま考えてみても、強制的に連行して慰安婦にするよりも、そうやって騙して連れてきて慰安婦にするほうが、僕は罪は深いと思います。
 とにかく、それから島の中に慰安所ができたんですが、隊長が慰安所の兵隊にくだしおかれる前に、慰安婦を毎晩代わりばんこに次から次へ味見しているという話を聞きました」

 繰り返すが、金正恩委員長とトランプ大統領が首脳会談を行うセントーサ島は、戦中、日本軍が朝鮮人女性を騙して慰安婦にした場所だったのである。

 安倍首相はかつて、自民党の若手勉強会で慰安婦の強制連行否定論をがなりたて、「韓国ではキーセンが日常」「元慰安婦=キーセンハウスで働く売春婦=強制性のない商業的行為(ビジネス)だから問題なし」という趣旨の発言をしていた。一方、北朝鮮国営の朝鮮中央通信は日朝関係について、慰安婦問題などをあげながら「朝日関係は本質的に、被害者と加害者の関係であり、加害者が被害者に謝罪と賠償をしなければならないというのは、問題の初歩だ」と強調している。安倍首相の歴史認識の欠如は以前からだが、こんな初歩的なことも知らないでシンガポール開催を進言したというのだろうか。

 前述の永瀬氏との対談者であり、東南アジアの近代史に詳しい高嶋琉球大名誉教授は、本サイトにこのように語る。

「朝鮮半島の人々にとってシンガポールは、捕虜に対する監視・労働強制などの役割を日本兵の下で押し付けられた朝鮮からの徴用による軍属の人々が戦後のBC級戦犯裁判で有罪判決を受け、チャンギ刑務所で処刑されたケースも少なくない因縁の場所です。しかも、シンガポール中に多数設置していた慰安所に大勢の朝鮮人女性が騙されて連れてこられていたという事実が再び思い起こされる。もし、安倍首相がトランプ大統領にシンガポールでの会談開催を薦めたり賛成したのであれば、改めて安倍首相とその側近たちの歴史に対する無知と無神経さを露呈させた“事件”になろうとしているように思えます」

 高嶋名誉教授はまた、拉致問題を巡る交渉の上でも、セントーサ島での会談は大きなマイナスになる可能性があると指摘する。

「こうした歴史背景を無視したまま、安倍首相の要望通りにトランプ大統領が拉致問題を提起すれば、北朝鮮側から『この場でそのようなことを話題にするとは恥知らずにも程がある、と日本側に伝えるべきだ』などと返されることは十分に考えられます」

 産経新聞や応援団の「安倍首相が米朝会談開催地を進言」報道がいつものごとくの安倍首相の嘘なのか、歴史に無知な結果なのはよくわからないが、いずれにしてもこのままいくと、米朝会談のあと、安倍首相と日本が国際感覚の欠如をさらすことになるのは目に見えているということだろう。
(梶田陽介)

■主な参考文献
「シンガポールの日本軍慰安所」(林博史)/「戦争責任研究」No.4(1994年夏季号/日本の戦争責任資料センター)所収
「華僑粛清(シンガポール、マレー戦線)」(高嶋伸欣)/『歴史問題ハンドブック』(東郷和彦、波多野澄雄・編/岩波書店)所収
『旅行ガイドにないアジアを歩く シンガポール』(高嶋伸欣、鈴木晶、高嶋道、渡辺洋介/梨の木舎)

最終更新:2018.06.11 12:24

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