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月9『民衆の敵』で篠原涼子が政治参加を呼びかけた演説が素晴らしい! でも、フジ上層部の圧力で放送延期に
フジテレビ『民衆の敵』番組サイトより
総選挙の投開票翌日10月23日にスタートした、フジテレビの月9ドラマ『民衆の敵〜世の中、おかしくないですか!?〜』。篠原涼子演じる40歳の子持ち主婦・佐藤智子がお金欲しさに市議会議員に立候補するという、政治を題材にしたドラマなのだが、前評判は「いかにもフジ的な荒唐無稽ストーリー、安易すぎる」「政治ネタなんて誰もドラマで見たがらない、大コケ必至」と散々だった。
でも、23日に放送された第1話を見てみると、これが予想外におもしろかったのである。たしかに、ストーリーは荒唐無稽ではあるのだが、ディテールがリアリティを感じさせるし、何より現在の日本社会が抱える問題点や、政治と市民の意識の乖離など、本質を突くような描写がいくつも盛り込まれていたのだ。
とくに素晴らしかったのが、篠原涼子の演説だ。同時に仕事をクビになった夫と2人きりで、手探りで選挙活動を始めた篠原。当然選挙カーもなくトラメガひとつで「安心して子育てできる街の……」などとテンプレの話をしていたのだが、そこに大きな選挙カーで、高橋一生演じるライバル候補・藤堂誠が元総理とともにやってくる。祖父は大臣、父も兄も国会議員で、大学院で政治を学び、コロンビア大学にも留学という華々しい経歴の高橋一生を、元総理は「生まれながらの政治家」「政治家に生まれるべくして生まれたのが、この藤堂誠くん」と応援演説する。
それを聴いていた篠原は、テンプレのメモを捨て、地べたからトラメガでこんな演説をぶつのだ。
「わたしは、高校中退です。父親はギャンブル狂いで、母親は男にだらしないホステス。生まれるべくして生まれた、高校中退です。だから、17のときから、必死でがんばって働いてきました。もちろんグレそうになったときもありましたけど、それでも、しあわせになりたい、って。
で、結婚して、子どもも生まれて、やっとしあわせになれました。時給950円のしあわせなんだって。うちの息子、卵焼きをステーキだと思って食べてるんです。
上を見ちゃダメ、下を見てればしあわせなんだって、ずっとそう思って生きてきました。でも、もうヤだ!
だって、それって、本当にしあわせなんですか? ずっと、ずうっと、ふざけんな!って思ってたんです。
だって、おかしくないですか? 生まれた時点で自分の人生決まっちゃうなんて、おかしくないですか? 時給950円の生活も知らない奴らが、市民のしあわせ、語るな! 自己責任? ワケわかんない! 卵焼きはどうがんばったってステーキじゃないんだよ。
本物のステーキが食べたい!!! 誰にだって、ステーキ食べられる権利、ありますよね? あるでしょう、あるんです!
だから、しあわせなフリは止めて、本当の、本当に、しあわせになりましょうよ!」
「誰にだってステーキ食べられる権利、ありますよね」
本物のステーキが食べたい! ステーキを食べる権利は誰にだってある! これって、要するに憲法25条の「すべて国民は健康的で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」のことだ。
生きる最低限の衣食住ではなくて、ほんの少しの贅沢。この演説に対し「働かないヤツには、ステーキ食べる権利、ねーよ」と批判する声もネットではあったし、たぶん生活保護受給者がステーキ食べたいと言ったら「贅沢だ」などとバッシングされるのかもしれない。
家族が仲良しで、卵焼きをステーキと想像して食べることの豊かさももちろん、ある。だけど、ステーキくらい食べる権利は、誰にだってある。自分も、やっぱり本当は、本物のステーキが食べたい。現実を受け入れて、仕方ないとあきらめて、これでしあわせなんだと思い込むのは止めよう。「しあわせなフリはやめて、本当のしあわせになろう」と篠原涼子は呼びかけるのだ。
この演説を通りがかりにたまたま聴いた、石田ゆり子演じる保育園のママ友・平田和美は、この篠原の演説に心動かされ、選挙活動を応援させてほしいと協力を申し出る。
石田ゆり子は、新聞記者で政治部経験もあったのだが、産休から復帰後は、閑職にとばされてしまっていた。
「ヒドいけど、仕方ないの。いまの社会がそうなんだから、って納得しちゃってたの。でも、納得しちゃいけないんだよね。智子さんの演説きいて、そう思ったよ。『しあわせなフリは止めて、本当の本当にしあわせになりましょう』って」
「わたし家のなかとかめちゃくちゃなの、いまの仕事もやりがいのあるものじゃないし。でも、こんな世の中だからってあきらめて、しあわせなフリをしてたの。ねえ、智子さん、自分ががんばってもどうしようもないことって多いじゃない? それをなんとかするのが政治家だって思うの。だから、みんな期待してるのよ、あなたに」
そうして、ママ友たちを中心に篠原を応援する輪はどんどん広がり、最初は「中卒で政治家なんかできるの」とバカにしていたママ友も協力するようになる。そして、最下位繰り上げながら当選し、見事市議会議員になる、というところで第1話は終わる。
上層部のツルの一声で、第一回の放送が総選挙後に
政治の知識も経験もない主婦が市議会議員に立候補し当選するなんて現実にはあり得ない、ご都合主義と展開を批判する声もあるし、そういう雑な部分もある。それでも、あの演説をしてそれがSNSで拡散すれば、当選だって十分あり得る話だと思わせられるくらい、篠原の演説は胸を打つものだった。視聴者にとってもこの演説を聞くだけでも、初回を観る価値はあったといえるだろう。
しかし、そう考えると、返す返すも残念なのは、このドラマの放送開始がずらされしまったことだ。すでに報道されているように、この『民衆の敵』は当初、10月16 日にスタートすることになっていた。ところが、突然の解散によって、10月10日公示、22日投開票で、総選挙が行われることになったため、1週遅れの23日スタートに変更になったのだ。
たしかに、16日初回放送だと、選挙戦のまっただなかになる。しかし『民衆の敵』は政治ドラマとはいっても、ノンフィクションでもなければ、実在の政治家や政党をモデルにしたようなストーリーですらない。これは明らかに過剰な自主規制だろう。
「制作現場はもちろん、編成も当初はそのまま16日に放送するつもりだったようですが、上層部のツルの一声で選挙期間中を避けることが決まったようです。制作現場は、回数にも影響するので抵抗したらしいんですが、“公選法違反と言われたらどうするんだ!”という恫喝で押し切られてしまったらしい」(フジテレビ関係者)
まったくなにを言っているのだろう。前述したように、このドラマは(少なくとも初回については)、特定の政治勢力や政策にくみするものでなく、普段、政治に関心のない人たちに政治への参加意識を喚起するものだった。もし、この政治ドラマが予定通り、16日にきちんと放送されれば、投票率があがった可能性もある。
国民の政治参加啓発のための大きなチャンスを過剰な忖度でみすみす葬り去ってしまうのだから、フジの上層部こそ、民主主義の敵ではないか。
しかし、そう考えると、初回、素晴らしい内容だったこの『民衆の敵』だが、その今後には、大きな暗雲が漂っているともいえる。
最近、「フジ月9「民衆の敵」での“安倍総理をバカにする”演出に批判殺到!」などという、いちゃもんとしか思えないネット記事が出ていたが、このドラマがまっとうなメッセージを届けようとしても、ものように安倍応援団やネトウヨたちが「偏向だ」と騒ぎ、上層部が忖度して内容が歪められる可能性が考えられるからだ。
いやそれどころか、視聴率も初回9パーセンとふるっていないし、もしかしたら、月9としてありえない途中打ち切りという可能性もなくはないかもしれない。
(本田コッペ)
最終更新:2017.10.30 09:36
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