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家父長制復活狙う日本会議が「サザエさん」を使い家族条項新設を喧伝! でも「サザエさん」ってフェミなんですけど
フジテレビ『サザエさん』番組ページより
安倍政権と一体化し、日本を戦前の体制に戻すための運動を展開している極右団体・日本会議だが、このところ、憲法9条改正や緊急事態条項よりも力を入れているのが、憲法24条改正、いわゆる家族条項だという。
日本会議の意向を強く反映した自民党の改憲草案にある「家族は互いに助け合わなければいけない」という条項をまず新設させようというのだ。
毎日新聞11月3日付によると、日本会議の政策委員を務める伊藤哲夫氏も9月に開かれた埼玉県内の講演で、改憲テーマのひとつとして第24条を取り上げ、「家族の関係を憲法にうたうべきだ」と力説。これと連動するように、安倍首相は先月5日、国会で「家族は社会の基礎を成す基盤。憲法にどう位置づけるかは議論されるべきだ」と答弁した。
「たしかに、最近、安倍首相の周辺と日本会議は一番、国民に抵抗感のなさそうな家族条項を突破口にする、という作戦を考えているようですね」(全国紙・政治部記者)
この家族条項、一見、当たり前のようなことを言っているようにみえるが、背後には、ジェンダーフリーバッシングをはじめ、「行き過ぎた個人の尊重や男女平等が日本をダメにした」などと主張してきた日本会議が、個人の自由、とりわけ女性の権利を著しく制限する旧来的な家族像を憲法で規定しようという意図が透けて見える。しかも、こんなものが憲法に定められてしまえば、国家が担うべき社会保障がすべて家族内の自己責任に押しつけられることになるのは確実だろう。
ところで、日本会議はこの家族条項を啓発するために意外なキャラクターをもちだしているらしい。なんと、それはあの『サザエさん』だ。3世代同居のサザエさん一家を日本の家族の理想として持ち出し、そういう美徳が失われていると警鐘を鳴らしているらしいのだ。
そういえば、百田尚樹が製作総指揮という改憲DVDにも、このサザエさんネタは登場する。
DVDで家族条項に話が及んだとき、憲法学者の百地章がいきなり、「『サザエさん』が今も高い国民的な人気を得ているのはなぜでしょうか?」と語り出す。そして、「父・波平さんを演じていた声優の永野一郎さんは、生前このようなことを語っていたそうです」というと、こんな吹き替えが入る。
「戦後の日本は自由や個性という名目のもとに家族という形を捨てた。そんななか、『サザエさん』だけは、決して形を失っていない」
そして、百地は「サザエさん一家は3世代7人の大家族です。昔は日本のどこでも見られた光景です」などと、古き良き家族像としての『サザエさん』を強調するのだ。
だが、『サザエさん』は本当に、日本会議が宣伝するような保守的家族観を表した作品なのか。たしかに、『サザエさん』を巡っては、保守層からは“古き良き日本の家族観が守られた理想的アニメ”として称賛され、他方、一部のフェミニストたちからは“家父長制の象徴的作品”として槍玉にあげられてきた歴史がある。
しかし、『サザエさん』にはまったく違う一面がある。本サイトでは、実はかつてサザエさんが男女同権を主張したり、ウーマンリブの活動に参加するような場面もあることを紹介したことがある。
以下に再録するので、日本会議のマンガ・アニメ利用がいかに安易で浅薄か、改めて知っていただきたい。
(編集部)
********************
放送開始から45年が経つご長寿アニメ『サザエさん』(フジテレビ)。最近では、ワカメの同級生である堀川くんがサイコパスすぎるとネット上で評判を呼んだが、じつは一方で、炎上騒動も巻き起こしていたことをご存じだろうか。
問題となったのは、4月26日放送の一話『スーパーのお姉さん』。この回では、専業主婦のサザエさんがスーパーマーケットにパートとして働きに出、実演販売を行うのだが、「子どもが寂しそうなのと、2日間立ちっぱなしで疲れる」という理由で、たった2日間でパートを辞めてしまった。これに対してネット上では、「パートを辞める理由がひどすぎる!」として炎上。「社畜より専業主婦が勝ち組だとようやく気づいたか」という意見の一方、仕事と育児を両立する女性たちからも「憤りを覚えた」という怒りのコメントが寄せられた。
たしかに、「子どもが寂しそう」という理由で仕事を辞めて“めでたしめでたし”とされたら、世の仕事をもつ母親たちは立場がないだろう。これまでもワーキングマザーは「子どもに犠牲を強いてまで働くのか」という批判も受けてきたが、この回の『サザエさん』も同じ誹りに乗っかったオチと言えよう。
じつは、今回に限らず『サザエさん』を巡っては、保守層からは“古き良き日本の家族観が守られた理想的アニメ”として称賛され、他方、一部のフェミニストたちからは“家父長制の象徴的作品”として槍玉にあげられてきた歴史がある。
たとえば、サザエさんを文化史から捉えた『サザエさんからいじわるばあさんへ 女・子どもの生活史』(樋口恵子/ドメス出版)では、〈古風な伝統主義者たちはたいてい「サザエさん」が好きだ〉といい、サザエさんがそれらの層からウケる理由として、以下のようなキーワードを挙げている。
〈木造の日本家屋、カツオくんのイガグリ頭、三世代七人の雑居型大家族、出入りの商人・職人たちの戦前のような律儀さ、都市にも存在した地域社会の年中行事と緊密な人間関係、粗忽ながら折り目正しい礼儀作法〉
そして、保守層から愛される最大の理由は、サザエさんが専業主婦である、という点だ。
〈洋裁・編みものの内職をしたほかは、パート経験といってもごく短期間家事手伝いに出かけた程度、家庭と地域を守る古式ゆかしき主婦なのだ。父と母、磯野波平・フネ夫婦と、フグ田マスオ・サザエ夫婦と、二代続いて「夫は外で働き、妻は家を守る」性別役割分業型の伝統的家族である〉(同書より)
だが、著者はそうしたサザエさんの保守性を指摘しながらも、〈別な側面から見ると、「サザエさん」からは、フェミニズムというべき香りが立ち上がってくる〉と述べる。
家父長制度の名残が色濃く残る一家のなかで専業主婦として存在するサザエさんが、フェミニスト……? 疑問に思う人もいるかもしれないが、ここは具体例を漫画から拾ってみよう。
まず、1947(昭和22)年に発行された記念すべき漫画の第1巻では、「男女同権トウロン会」にて壇上で「男性ヨ 女性ヲ カイホウ スベシ」と拳を突き上げて叫んでいるサザエさんが登場。さらに翌年に発売された2巻では、サザエさんがハロー社という出版社に就職するのだが、そこでもサザエさんは“傷害事件”を起こしている。
その事件とは、社内である女性社員が学生服姿の青年に「給仕のくせになんだい!給仕のくせに」と叱りつけているのだが、それを見た男性が、「みんしゅ的ではないっ!」と女性をステッキで殴打。が、その場面を目撃したサザエさんは「男女同けんにもとる!」と言って、今度は傘で男性を叩くのだ。
これらの漫画が描かれたのは、戦後間もない時期。社会では男女同権を主張する“強い女性”への風当たりもまだ強かったはずだが、作者の長谷川町子はそれを揶揄するのではなく、物語の主役に男女同権を謳う役割を担わせたのである。
ほかにも、女性を「オイ、コラ」と呼び止める警察官に対して、サザエさんが「オイ、コラ」とは何事かと詰め寄り、呼び止めた女性が警官の妻だとわかると“妻に向かって「オイ、コラ」とは何事か”と怒りのボルテージを上げるというオチの作品もあるし、男が料理することをけしからんと非難する波平をカツオが「古い思想」と斬り捨てる作品もある。しかも70年代には、「ウーマンリブ御一行様」と札が下がったバスに、サザエ自身が乗り込んでいるシーンも出てくる。
まさかサザエさんがウーマン・リブの活動家だったとは……これだけでも度肝を抜かれるが、漫画ではそれだけでなく、大きなカップで飲み物を飲み干して大音量で用を足したり、すかしっ屁をかましたりするサザエさんも描かれている。──女性の権利を高らかに謳い、女性らしさに縛られない自由なキャラクター。サザエさんはそういう見方もできるのである。
しかし、どうしてサザエさんはこのような伸び伸びとしたキャラクターとなったのか。前述の『サザエさんからいじわるばあさんへ』では、その理由を〈サザエさんが「嫁」でないからである〉としている。保守層はサザエさんを三世代大家族の専業主婦という点に重きを置きがちだが、じつは彼女は〈嫁の役割から免責された女性〉である。もしもこれが夫の実家に嫁に入った女性の物語であれば、これほどまでに支持されるキャラクターにはなり得なかった、というわけだ。
一見、伝統的家族に見えるものの、内実はそうでもないサザエさん一家。大衆文化研究者であり哲学者である、かの鶴見俊輔も、サザエさんの物語をこう評している。
〈この一家は、軍隊増強、アジアへの帝国主義的進出に夢をかけているのではない。戦前の天皇制を復活することへのあこがれなどはもっていない。むしろ戦後二十七年間、うむことなく、家庭内のメンバーの対等性を主張してきたことをとおして、さらにひろく日本の社会全体にとって対等性をつらぬかれることを求めている〉(『漫画の戦後思想』文藝春秋/73年)
『サザエさん』が描く対等性──。そう考えると、アニメ版における「子どもが寂しそう、立ちっぱなしで疲れる」という理由で仕事を辞めるサザエさんは、漫画版の彼女とはずいぶん解離している。漫画版サザエは体力をもて余しているようにも見えるし、何よりタラちゃんの面倒は実母・フネに任せるのではないか。だいたい漫画版サザエは、一家の枠におさまるような器の人間には到底思えない。
ただ、そんな“活動する女”である漫画版サザエにも、保守的な部分はある。それは性の問題だ。
この点を指摘しているのは、作家の故・寺山修司。寺山は「映画芸術」70年11月号に寄稿した「サザエさんの性生活」と題した論考で、〈サザエさんのエロチシズムへの無関心と「家」への忠誠が、一日一妻の死ぬまでのものだとするあきらめから出発していることが、この漫画の最大の特色であると考えている〉と批評。サザエとマスオの性生活をこのように分析するのだ。
〈サザエさんは月にほんの一、二回、正常位で性行為をいとなんでタラちゃんを生み、その後は聖書でいましめるように「出産を目的としないようなセックスの快楽」からきっぱりと足を洗い、もっぱら食欲の方に生甲斐を向けるようにした。しかし、こうしたことから、結婚そのものが「社会の生産手段の私有化としての経済基盤だけを問題にする」ようになっていき、形骸化したサザエさんとマスオの夫婦生活を作りあげるにいたったのである〉
もちろん、タラちゃん誕生の体位が正常位か否かを長谷川が描写しているわけもなく、完全なる寺山の妄想なのだが、ここから〈手淫常習癖のマスオを性的に解放〉する〈一夫一妻という権威主義家庭の抑圧から自由になってセックス・レボリューションを体現〉するための処方箋まで提示している。
漫画の『サザエさん』が連載スタートしたのは、1946(昭和21)年のこと。時代の空気を著者の長谷川はその折々に漫画へ反映してきたが、現在放送されているアニメ版はパートの一件をとっても、そうした時代性の反映に失敗しているようにも思える。いや、『サザエさん』というフォーマットに時代のエッセンスを加えること自体が、もうすでにムリな話なのかもしれない。
なのであれば、堀川くんのような脇キャラで歪みを演出するくらいなら、漫画版においてサザエさんが見せた“行動する女”像を、いまこそアニメでも取り入れたらどうか、と思うのだ。そして、最大のタブーたるサザエさんのセックス・レボリューションも描いたら、それこそ現代性が生まれるのではないか。……まあ、サザエさんの性事情をどれだけの人が知りたいと思っているかは謎ではあるのだが、堀川くん以上に盛り上がることは間違いない。
(大方 草)
最終更新:2018.10.18 04:35
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