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なぜオシャレ業界にブラック企業がはびこるのか? 若者を我慢させる「虐待型管理」
『ブラック企業2「虐待型管理」の真相』(文春新書)
精神を病み、そのあげく自殺や過労死……世の中に横行するブラック企業の悲惨なニュースは事欠かない。しかし、悲惨なニュースを前に、「嫌なら辞めればいい」「そもそも入らなければいい」とインターネットでつぶやく人も多い。被害者の多くがブラック企業に積極的に入社し、また、自ら「辞めない」で働いているのはいったいなぜなのか?
「なぜ、若者は我慢するのか」という謎に迫ったのが、『ブラック企業2「虐待型管理」の真相』(今野晴貴/文春新書)だ。ベストセラーになった『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』に次ぐこの第2弾では、「わかっていても入ってしまう」「ブラック企業で我慢してしまう」ように仕向けるブラック企業の手口に迫っている。
まずは契約段階で騙す手口だ。全国30店舗以上、海外にも展開するなど急速な拡大を続けるエステ・サロン「ベル ルミエール」のケース。
「ホームページの広告には、タレントの小倉優子氏が使われている。経営しているのは、『グッドスタイルカンパニー』」
「求人票には、月給20万円以上(固定給20万円+報酬金)と表示されていた。だが、実際に採用されたエステティシャンたちは、提示とは全く異なる働き方をさせられていた。同社では、雇用契約書の交わされない人が多く、労働条件通知書もない。女性は、給与明細を渡されて初めて賃金を知ったのだが、固定給15万円+残業手当5万円だった。(略)そもそも残業手当5万円は、45時間分の固定残業代であるようだが、実際にはもっと多くの時間働いており、タイムカードに記された労働時間すらまともに賃金に反映されていなかった。出勤時刻は朝の9時20分頃で、業務終了後に練習を課され、早くて22時、遅い時は24時過ぎまで勤務していた。1日の残業時間は少なくとも4時間程度」(同書より)
契約段階で騙す手口として多いのが、この「固定残業制」だ。虚構の「好待遇」を売り物にして、大量に新卒や若者を採用する。当然ながら、残業手当に対応する時間を超えれば残業代を追加請求できるのだが、残業代をあらかじめ「基本給」に含めることで、「いくら(=何時間)働いた分にいくら支払われる」という基本的な関係をあいまいにするのだ。エステ業界に限らず、この方法はITや介護、小売り、外食などに広くいきわたっている。
「新卒が、内定段階や本採用後に『騙された』ことがわかったとしても、他の就労先を再度探すことは難しいから、やむなく『同意』してしまう」
「また、『我慢』せずに裁判に訴える場合は立証責任と係争費用の負担が生じる。使用者は『事前に説明していた』と偽証したり、同意書を偽造するなどする場合もある」「新卒や若い労働者が、このような『虚構の事実』に証拠を集めて反論し続け、請求を実現することは極めて困難だ」(同書より)
そして、契約後には「無限の要求」が降り注ぐ。
「入社後には『昇進』や『評価』を巡って、契約書には書いていない『業績』が求められる。もちろん、こうした評価制度はどの会社にも存在しているが、その求められる要求があまりにも過剰で際限がなく、予測不可能なのがブラック企業である」
「次々と無理な目標を設定されてしまうことで、仕事内容が無限大に拡大していってしまい、『もともと入社したときの契約』が実質的に無効になってしまうのだ。(略)入社後に、いったいどんな“無茶ぶり”がされるのかは、やはり『ブラックボックス』なのである」(同書より)
「昇進できる」「成功できる」という若者の期待と向上心に付け込むのだ。大きな反響を生んだ「たかの友梨」の事件はその典型だ。「不二ビューティ」が経営するエステ・サロン、『たかの友梨ビューティクリニック』はエステ業界のパイオニアであり、全国120店舗以上を展開し、1000人を超える社員を抱えていた(その9割以上は女性だ)。エステ業界の中では「技術のたかの」と呼ばれ、技術力・育成力に定評があるはずだった。
「たかの友梨では、新人は先輩と一緒に練習の計画を立てて、技術を覚えていくことになっている。練習は新人が“自主的”に先輩にお願いするものだとされていて、練習の度に先輩に『お礼メール』をすることが決まりとされている。こうした“自主練習”に対しては、一切残業代が支払われていなかった」「朝7時半に来てエステの練習をし、10~20時まで通常営業。終わったらまた練習はザラで体調を崩して倒れる子も」いたという(同書より)。
練習は会社の業務上の必要性から行われていることから、法的には残業代の支払い義務が生じる。
「ところが同社では、『先輩が面倒を見てくれている』『自分はまだ何もできないのだから、一人前になるまでは仕方がない』という理屈が労働者に浸透しており、残業代が支払われていなかった」(同書より)
しかも、「一人前」になっても、「無限の要求」はとまらない。
「『たかの友梨』では、社員に対し積極的に店長やその上の役職を目指すことを勧めている。同社では、役職のないエステティシャンに始まり、店長、マネージャー、ディレクターなどと呼ばれるステップアップのランクがある。ベテランや中堅のスタッフに限らず、入社してから1年も経っていない新人に対しても、『いつまでも店長になることを目指すの?』などと上司が尋ねてくるという。(略)ステップアップを目指さない社員に対して、社内にプレッシャーがあったと感じている」(同書より)
「店長になると、通常に輪をかけてプライベートを犠牲にすることが必要になり、休日も予約が入ったらシフトを変更して常に出勤できるようにしているというケースが多い。出社しない日は月に1、2回といった店長もいる。こうした長時間労働と出世プレッシャーは、結婚・妊娠・出産・育児という女性の多くが通る道と矛盾している。(略)ブラック企業の『無限の要求』は生活を蝕み、本人のみならず、社会が必要とする出産の機会さえ奪うのだ」(同書より)
また店頭にある美顔器などの器具の売上げにはノルマが課せられていて、売上げを達成させるために「実質的には手取り月10万程度で、給与の約半分は会社のために使う」こともあったという。
「ブラック企業では正常でない状態が『常態』となり、労働に駆り立て続けている。それはまるで『虐待』にも似ている。いくら人員が不足していても、目標の数値が無謀なものであっても、妥協はしない。それどころかもっと少ない人員で、もっと高い数値を、常に追い続けなければならないのである」
つまり、ブラック企業は「虐待型」の精神管理を行ない、社員を「使い捨て」にしているのだ。その後、「たかの友梨」はブラック環境を告発したエステ・ユニオンとの間で労働協約が複数にわたり締結され、職場環境は改善しつつあるが、このケースは氷山の一角だ。
2013年、全国300人以上の弁護士を擁して立ち上げられた「ブラック企業被害対策弁護団」に立て続けに寄せられた相談も、エステ業界で働く人からのものだったという。
(小石川シンイチ)
最終更新:2017.12.23 06:57
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