景気失速!実は安倍政権がこっそりアベノミクスに見切りをつけていた!

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自由民主党公式サイトより


 9月29日放送の『ニュースウオッチ9』(NHK総合)に出演し御嶽山の噴火による被害者について「激励申し上げる」などと発言したことがインターネットで話題になっている麻生太郎副総理・財務大臣。だが、同番組の中で、麻生は景気についても驚くような発言をした。

 消費増税の反動が夏に回復すると思われたのが、一向にその兆しがなく、経済成長の見通しが下方修正されたことについて問われ、「7月、8月は季節外れのめちゃくちゃな雨がふったから」「ビール会社もビールの売り上げはむちゃくちゃ悪かった」「ゴルフ場でも300人、400人がキャンセルになってる」と、異常気象のせいにしたうえで、「景気の回復基調は続いている」などといいはったのだ。

 天気のせいって、それが財務相の発言か、と疑わしくなるが、これまでも麻生は同様の発言を繰り返している。来年10月の消費税率10%引き上げを決めるためにはそうとでもいうしかないのだろう。なにしろ消費増税は増税派の財務省にとっては「国際公約」。予定通り増税をして、市場への財政再建への強い意思を示す必要があるためだ。

 しかし、麻生財務相がどう取り繕おうと、景気は明らかに失速している。日本銀行が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)でも、最近の景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた「業況判断指数」(DI)の代表的な指標「大企業・製造業」の DIは「プラス13」と、前回調査(6月)の「プラス12」から1ポイント上昇し、2四半期ぶりにわずかに改善したほかは、「大企業・非製造業」のDIは前回に比べて6ポイント低下し、2四半期連続で悪化した(「プラス13」)。

「中小企業・製造業」は2ポイント低下の「マイナス1」、「中小企業・非製造業」は2ポイント低下の「ゼロ」なのだ。円安は輸出中心や海外拠点のある大企業には有利とされているが、資材や部品の多い中小企業を中心に円安が逆風になり、人手不足に悩まされていることがわかる。

 また、消費者の財布も冷え込んでいる。9月26日に発表された8月の全国消費者物価指数(総務省)は、価格変動の大きい生鮮食品を除く指数が103.5となり、前年同月より3.1%上がった。前月から伸び幅が0.2ポイント縮小したとはいえ、高水準が続いている。それでも、働き手の給与が物価上昇に見合うだけ増えていればいいのだが、同日に発表された国税庁の民間給与実態統計調査では、民間企業で働く会社員やパート従業員らが2013年に得た平均給与は前年比1.4%増に過ぎないのだ。円安による食品や燃料の物価押し上げ圧力に、今年4月の8%への消費増税のダブルパンチが消費者に襲いかかっている。

 本来は、アベノミクス効果で、今頃、日本経済は8%への消費増税の駆け込み需要の反動減をモノともせず、景気は回復していたはず。しかし、現実には、好調なのは、海外投資家が主役となっている東京為替市場くらいだろう。

 そもそもアベノミクスは、「異次元緩和」という第一の矢を放ち円安にする。第二の矢「公共事業拡大による国土強靭化」を行ない内需を底上げ、8%への消費増税の駆け込み需要もあり景気が拡大する。その間に円安により、輸出中心や海外拠点のある大企業を中心に追い風が吹き、国内景気全体を引っ張っていく。さらに、「成長戦略」という第三の矢で次々に規制緩和を行ない、今頃は、新しい産業が次々と出てきているはず……、いったいどこでアベノミクスは失敗したのか。

 服部茂幸・福井県立大学経済学部教授(専攻・理論経済学)が書いた『アベノミクスの終焉』(岩波新書)は、客観的なデータで、「アベノミクスによって日本経済は回復しつつある」というシナリオのいくつもの“つまずき”を明らかにしている。

 その“つまずき”の1つとして挙げているのが、第一の矢による、円安の下での輸出拡大の失敗だ。

「金融緩和の目的の1つは円安によって輸出を拡大させることであった。浜田(宏一・米エール大名誉教授(内閣官房参与))も岩田(規久男・日銀副総裁)も日銀が金融緩和によって円高を防がないでいることが、日本の製造業の国際競争力を損ね、苦境を作り出していると述べていた。安倍首相も、二〇一三年四月の党首討論で、一三年度の経常収支が間違いなく四兆六〇〇〇億円の黒字になる。そして、それは間違いなく賃金に変わると断言した」(同書より/カッコ内は引用者による)

 しかし、現実には輸出が増えることで増加するはずの13年度の経常収支は8000億円の黒字にすぎなかった。

「黒字ではあるが、安倍首相の約束と比べれば遥かに小さい。しかも、一四年第一・四半期の経常収支(季節調整値)は一兆四〇〇〇億円の赤字である。一年に換算すると、五兆円を超える大幅な赤字である。(略)円安にもかかわらず、輸出が伸びず、円安に加えて経済成長率が低迷しているのに、輸入が急増しているのが現状である。深刻な状況といえよう」(同書より)

 同書では、輸出が伸びない理由に、中国をはじめとする世界的なバブルの終焉をあげているが、そのほかに「海外での現地生産が進んでいる」ことが大きな要因だと最近の新聞各紙でも分析されるようになった。

 つまり、円安のメリットはアベノミクス推進論者が喧伝していたほど大きくはなかったことがわかる。4兆6000億円の黒字が賃金に変わるという安倍首相の約束はどこに行ったのか!?

 さらに同書では第二の矢による「公共事業拡大による国土強靭化」は自民党を支える建設業界を潤わせただけで、「今後、供給能力が不足する建設業界で需要を拡大させても、生産の拡大には結び付かない」。第三の矢「成長戦略」は始まってもいないという。いや、始まってもいないというか、おそらく始まらない可能性が高い。どうも、アベノミクスはすでに「終わっている」ようなのだ。

 実は、政権自体も、三本の矢のアベノミクスに見切りをつけた可能性が高い。9月29日の臨時国会冒頭の首相の所信表明演説。安倍首相は演説の中で、臨時国会の重要課題と位置付ける「地方創生」と「女性が輝く社会」を強調したが、その一方で「三本の矢」という言葉を使わなかった。

「三本の矢は世の中の空気を一変させた」(昨年10月の所信表明演説)
「日本経済も三本の矢によって自信を取り戻しつつある」(今年1月の施政方針演説)

「三本の矢」は首相が政権の経済政策をアピールするのに使ってきたキラーフレーズだったのに、今回の所信表明では一言も発せられなかったのである。

 東京新聞は9月30日付紙面で「首相所信表明『経済』進まず『地方』前面」と題し、「成長戦略がうまくいかない局面で『地方』を持ち出して、国民の目先を変えようとしている」という政府関係者の解説を紹介している。

 しかも、冒頭の麻生財務相の発言のように、安倍政権はなお、消費増税を断行する姿勢を崩していない。この状況で消費税が10%に引き上げられることになったら、消費はさらに落ち込み、日本経済が奈落に落ちていくのは目に見えているではないか。

 実は日本の消費税増税については世界的にも疑問の声が噴出している。英経済紙のフィナンシャル・タイムズ(アジア版)は8月29日の社説“Abe must keep his project on track”で、米紙のニューヨーク・タイムズは9月11日の社説“Fixed for Japan's Economy”で再増税の延期論を展開した。

 さらに、これまで『そして日本経済が世界の希望になる』(PHP新書)などで、アベノミクス(安倍政権の経済政策)を支持してきたノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン(プリンストン大学教授)までもが「日本経済は消費税10%で完全に終わります」と警鐘を鳴らし始めた(現代ビジネス,「経済の死角」9月16日付)。

 アベノミクスを終わらせるのは勝手だが、日本経済を終わらせて、国民生活をさらに逼迫させる暴挙だけはやめてもらいたい。
(小石川シンイチ)

最終更新:2015.01.19 05:12

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アベノミクスの終焉 (岩波新書)

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