世界に知れ渡った「歴史修正主義ホテル」APAの正体(後編)

「南京虐殺はなかった」アパホテル反論の“嘘と詐術”を検証する! そして、安倍首相とのただならぬ関係とは?

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 ウェブマガジン「ChinaFile」12年6月12日付に、その論文と思われる朱教授の文章が、英訳で引用されている。これによれば、中国では、長らく大衆が南京事件について議論することを禁じられており、それが許されたと思ったら、地方自治体がすぐさま虐殺の記念碑を造りだして、大衆の前に“30万”という数字が出てきた。一方、真珠湾の記念館やベトナム戦争の記念館ではすべての犠牲者の姓名が刻まれており、とてもディティールに富んでいる。朱教授はこう述べる。

〈30万を殺すことは虐殺であるのに、20万から10万あまりであれば虐殺ではないのか? それが1人か2人ならば、命ではないのか? 私たちの目の前にある“30万”は曖昧な概念であり、(犠牲者個人が思い浮かぶような)ディティールのある数字ではない。そして、概念では人々を納得させることはできない。かわりに、人々に猜疑を芽生えさせ、日本に言い逃れのための口実を与えさえする。私たちは決定的な数字を使うべきであり、最も良いのは、具体的に個人の名前を刻むことだろう。そうしたときだけ、私たちは他者を畏敬させ、国際社会から敬意を得ることができる。〉(編集部訳)

 つまり、南京事件では多くの人が犠牲になって、追悼するに十分な理由があるのに、世界から敬意を払ってもらえていない。それは、中国政府がもち出す30万という数字だけでは、犠牲者ひとりひとりの人間像が表れないからだ。朱教授はそう指摘し、犠牲者の名前を掲載しない中国政府の態度を批判しながら、追悼のために犠牲者個人の名を刻むことを求めたのである。そして、上っ面の数字にこだわると、犠牲者の命という本質を忘れてしまい、歴史修正をされかねないと警告までしている。

 こんな発言で辞職にならないのは当然だろう。いったいどこをどう読めば、「南京虐殺はでっちあげであり、存在しなかった」という根拠になるのだろうか。

 元谷代表は続けて、日本軍による南京占領後に起きた市民の虐殺は、実は中国側の敗残兵の仕業だったという無茶苦茶な持論まで展開している。

〈上海事変で勝利した日本軍は、敗走する国民党政府軍を追撃し、国民党政府の首都であった南京を攻略し、同年十二月十三日に南京占領。このとき敗残兵が住民に対して略奪、虐殺を行った。それらの敗残兵が民間人の衣服を奪って便衣兵(ゲリラ)となったことから、日本軍は便衣兵の掃討作戦を行った。便衣兵(ゲリラ)の殺害は国際法上認められているものであり、一般住民を虐殺したのはこの敗残兵達(督戦隊が撃ち殺したのは、逃亡中国兵であった。)であった。しかし、こうした事実が歪められて、情報謀略戦として、「南京三十万人虐殺説」が流布されたのである。〉(『理論 近現代史学 本当の日本の歴史』より)

 いったい、このワンマン経営者はどういう妄想を書き連ねているのか。当時は日本兵が便衣兵と民間人を正確に区別することは困難で、保守派の歴史学者である秦郁彦氏も〈便衣兵の摘発に際しては、憲兵、通訳、中国人も加えて査問する建前になっていたが、実際には「良民ト便衣兵ノ区分困難ナリ」(歩三八連帯行動表)とか、「青壮年ハスベテ敗残兵又ハ便衣兵トミナシ」(歩六旅団の掃蕩要領)となってしまっていたようだ〉(『南京事件 増補版』中公新書)と書いている。

 また、陥落直後の南京で、撃墜された日本軍機の搭乗員の遺体捜索活動に従事した奥宮正武氏(第一三航空隊分長)は、「(南京陥落直後では)私の知る限り、彼ら(=便衣兵)のほとんどは、戦意を完全に失って、ただ、生きるために、軍服を脱ぎ、平服に着替えていた。したがって、彼らを、通常いわれているゲリラと同一視することは適当とは思えない」(『私の見た南京事件』PHP研究所)と記している。

 それを、全部、自分の都合のいい風に解釈しなおし、悪質なデマゴギーをふりまくのである。

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