JRでタブーになった「リニア新幹線」慎重論…「新幹線の父」の意見も封印

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■元総裁も!国鉄出身者からあいついだリニア慎重論

 それにしても、世界に先駆けて高速鉄道の営業を実現したにもかかわらず、後年になって島がスピード競争を批判したのはなぜか。東海道新幹線の本来の目的を知れば、それも納得がゆく。その建設の目的は、あくまでパンク寸前にあった東海道本線の輸送力の増強のためであり、時速200キロというスピードはその最適解として導き出されたものにすぎなかった。ようするに、スピードはあくまで手段にすぎず目的ではなかったのだ。

 ひるがえって、リニア中央新幹線の建設には、東海道新幹線の輸送力増強に加え、将来大地震が起こったときの代替路線といった役割も課せられている。だが、最高時速500キロのリニアは果たしてその最適解といえるのだろうか? これについて、まだ議論し尽くされたとはいいがたい。

 じつはスピードに関していえば、リニアはすでに鉄輪式の鉄道に対し絶対的優位の立場にはない。たしかに日本でリニアの開発が始まった1960~70年代には、鉄輪式の鉄道で出せる速度はせいぜい300キロが物理的限界で、営業運転では250キロ程度が限界だとのデータが前提としてあった。だが、その後の技術開発により、日本のほか各国で300キロ以上での営業運転が実現し、フランスの走行実験では500キロを超す記録も出ている。同じスピードが出せるのであれば、べつにリニアにこだわる必要もないともいえるのだ。ただし、いずれの方式を採るにせよ、500キロの営業運転のためには、騒音やエネルギー消費などクリアすべき多くの問題があることに変わりはない。

 元国鉄総裁の仁杉巌は、2002年に行なった講演で中央新幹線の早期実現の必要性を訴えつつも、リニアには慎重論を示した。その理由として仁杉はまず、リニアの走行や浮上にはかなりのエネルギーが要るであろうことをあげている。それに加えて、一つの国のなかに高速鉄道のシステムが二つあることになれば、鉄道の線路幅や電気の周波数などのケースと同様、不便なことが起こるのではないかと疑問を呈した。《非常に優秀な、しかも経済的な交通手段としてマグレブ[リニアモーターカーの英名――引用者注]があるならそれを使うべきであろう。しかし、もし同じぐらいのことならば、むしろシステムとしては[引用者注――従来と]一緒のものにしておいたほうがいい》のではないか、というのだ(仁杉巌『挑戦』交通新聞社、2003年)。

 仁杉と同じく国鉄で長らく技術畑を歩いたのち、JR東日本の副社長、会長を歴任した山之内秀一郎も、リニアへの直接的な言及ではないものの、その警鐘ともとれる言葉を残している。このうち《鉄道においては、スピードばかりを競うような考え方はだめだし、そんな思想の技術者もだめだ》とは、島秀雄の考えとも通じる。

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