若者は受診せず家で寝てろ! 背後に岸田政権の怠慢 検査能力は菅政権時代からほとんど増えていなかった

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首相官邸HPより


 もはや狂気の沙汰としか言いようがない。政府の新型コロナ専門家組織が「若年層は検査を実施せず臨床症状のみで診断をおこなうことを検討する」と言い出した挙げ句、「若者は医療機関を受診せず、自宅療養も可能」などという提言を国に提出したことだ。

 まずは経緯を簡単に振り返ろう。一昨日20日におこなわれた厚労省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの会合において、政府の分科会メンバーを含む専門家らが「基礎疾患がない50代未満の多くは症状が軽い」「今後、感染者が急増した場合には検査を実施せず、症状だけで診断することも検討すべき」とする提言案を提示。会合後におこなわれた会見では脇田隆字座長も「このまま感染拡大が進めばそういった状況になる可能性もある」と語り、「感染が急拡大している地域では検査の需要が急増しているが、検査のキャパシティには限界があるためバランスに注意する必要があり、優先度の高い検査が確実にできる体制が必要」「(若者を中心に急激な感染拡大が続いた場合は)健康観察や自宅療養者への対応、軽症・中等症の医療提供体制が急速に逼迫する可能性がある」と述べた。

 朝日新聞20日付記事によると、こうした案は20日以前から政府の専門家のあいだからあがっていたらしく、「基礎疾患のない若い世代は、症状が軽ければ検査や受診を急がず自宅で安静に過ごすことを検討」することによって、「社会経済を回すことで感染者が増えても、医療機関に過度な負担をかけずに済むという期待」があるという。

 絶句するほかないが、ようするに「検査キャパにも限界があるし医療逼迫するから、基礎疾患のない若者は検査も受けさせないし、受診せず家で寝ていろ」というのである。こんな暴論を、よりにもよって政府の専門家たちが持ち出しはじめたのだ。

 当然、この暴論には反発が起こり、昨日21日、専門家有志が政府に提出した提言では〈若年層で重症化リスクの低い人については、必ずしも医療機関を受診せず、自宅での療養を可能とすることもあり得る〉とし、「検査しない」という部分を削除するにいたった。

 つまり、「若者は検査しない」という提言を取り下げたのは当然の話とはいえ、「若者は病院に行くな、自宅で寝ていろ」という専門家の考えは変わっておらず、若年層の医療を受ける権利を制限しようというのである。

 しかも、この提言を政府が採用する可能性は高い。実際、専門家組織の提言案について、21日午前、後藤茂之厚労相は「現時点では体調が悪い場合には受診や検査をしていただく必要がある」「(脇田)座長からも、『今すぐではない』という発言があったと承知している」としながらも、「(今後、感染が急拡大した場合は)患者の症状などに応じた適切な療養確保ができるように、専門家の意見やオミクロン株に関する知見を踏まえて検討・対応していく」と発言。ようするに、「若者は検査しない」「という提言案を否定することもなく、感染が急拡大すれば検討・対応すると述べていたのだ。

 コロナ発生から2年以上経つというのに、いまだに検査キャパが足りないだの受診抑制をしようだの、そんな先進国がほかにあるだろうか。もちろん、この「若者は病院に行くな、自宅で寝ていろ」というとんでもない方針は言語道断の危険極まりないもので、まったくもってありえない。

「若者は受診せず家で寝ていろ」とトンデモ棄民方針を打ち出したコロナ専門家たち

 まず、「病院を受診するな」ということによって、症状が軽い場合は検査を受けることもなく日常生活を続行させ、さらに感染を拡大させる原因になるだろう。また、専門家は「オミクロン株では若年層は症状が軽い」などというが、40度もの熱がつづいたり激しい咳に襲われても「軽症」に分類されているのがこの国の現状だ。当然、重症化することや死亡にいたる事態も十分考えられるのに“基礎疾患のない若者”だというだけで「自宅で安静にしていろ」というのは、あまりに危険すぎる。その上、「若年層」というが、その実態は「50代未満」なのだ。

 さらに重要なのは後遺症の問題だ。昨年、東京都世田谷区がおこなった調査によると、軽症患者のうち60%が後遺症を訴えたというように、コロナ後遺症に苦しんでいる人は多い。しかも、『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)によると、オミクロン株では療養期間中は症状が軽くても、療養期間後に「かなり強めの倦怠感」を訴える患者が多いという。若者が病院への受診を控えることで検査の機会がなくなり、コロナの確定診断がつかなかった人に後遺症が出た場合、適切な治療が受けられないだけではなく、コロナ後遺症だと認められず適切な補償を受けられないというケースも出てくるのではないのか。

 このように問題を挙げだせばキリがないが、このまま「若者は黙って家で寝ていろ」というこの危険方針が現実化すれば、通常なら回復できた人が亡くなってしまうという最悪のケースを生み出すことも十分考えられる。しかも、こんなトンデモ方針を専門家が打ち出した背景には「社会経済を回すことで感染者が増えても、医療機関に過度な負担をかけずに済む」などという期待があるというのだ。感染症の専門家や医師は人命第一で物事を判断すべきはずだが、これではたんなる政府・経済界の手先ではないか。

 実際、それでなくても政府分科会は「人流抑制より人数制限」などと打ち出し、尾身茂会長も「ステイホームなんて必要ない」と言い出す始末。だが、感染防止策がとられた飲食店において、ワクチン2回接種済みかつ少人数で会食した人たちの感染例があるように、人数制限だけで感染拡大を食い止められるはずがない。それどころか、「ステイホームなんて必要ない」という発信のアナウンス効果によって、さらに人流が増えて感染を促進する恐れさえある。

 しかも、経済の専門家として分科会メンバーとなった小林慶一郎・慶應義塾大学教授にいたっては、21日放送の『モーニングショー』で「みんなが家から出なければ感染は収まるが、経済を止めることによって生活に困窮して亡くなる人が出る」と発言。これに玉川徹が「経済を動かして生活困窮者を守る以外に、国が所得などの補償をするという方法は考えないんですか?」と追及すると、「急に病床を増やせないのと同じで、自殺しそうな人を発見して財政的な支援をするというのも急にはできない」などと口にしたのだ。

 この期に及んで感染拡大を食い止めることよりも経済を優先させ、ついには「若者は病院を受診するな、家で寝ていろ」とまで言い始める──。コロナ初期からこの国の専門家たちは検査・受診抑制を仕掛け、「GoTo」や東京五輪開催など感染拡大の要因となったキャンペーンやイベントにも正面から反対することもなく是認してきた連中ではあるが、「若者は検査しない」という狂気の提言案を含めた今回の一連の言動はあまりにおぞましく、到底許容などできないだろう。

 だが、こうした動きはけっして「専門家の暴走」と片付けられるものではない。根本的な問題は無論、政府、岸田政権の無策にあるからだ。

「検査拡充」を喧伝する岸田首相だが、検査キャパは菅政権とほとんど変わっていなかった!

 脇田座長は前述したように、「若者は検査しない」「病院を受診せず家で寝ていろ」と言い出した理由のひとつとして「検査のキャパシティには限界がある」と語ったが、その元凶は岸田文雄首相の失策だ。

 岸田首相はあれだけ「検査の拡充」を総裁選時から掲げていたというのに、実際には、政権発足後から現在にいたるまで検査のキャパはほとんど伸びていない。事実、「岸田政権になって検査キャパが増えていない」という問題は、前厚労大臣である田村憲久氏も認めている。

 というのも、19日放送の『報道1930』(BS-TBS)では、日本共産党の小池晃・参院議員が「現在の検査キャパは38〜39万」「検査キットが足りなくなってきている」と指摘した際、田村前厚労相は「1日の検査能力という意味からすると、私が大臣だったときから比べると数倍、十倍近くになったと思う。私が大臣だったときは5〜6万だった気がする。かなり増えている」と強弁したのだが、小池議員はすかさず「田村さんが大臣終わる頃、1日いくつだったんですか?」と質問。すると、田村前厚労相は「……30数万です」と答えたのだ。

 そして、これは事実だ。岸田政権は昨年10月4日に発足したが、厚労省が発表した同日の「1日あたりのPCR検査能力」は33万5815件だった。対して最新のデータである1月18日時点の「PCR検査能力」は、38万5181件。つまり、たったの5万件しか増えていないのである(さらにいえば、直近である1月21日の空港・海港検疫含むPCR検査実施人数は約19万件なので、実際におこなわれた検査数は検査能力よりもずっと少ない)。

 つまり、岸田首相は「検査を拡充する」と喧伝してきたというのに、それは口だけで、PCR検査のキャパシティを抜本的に増やそうともせずサボってきたのが実態なのだ。その結果、この感染拡大の最中に「若者には検査させない」という暴論を生み出し、さらには「受診せずに家で寝ていろ」という事態に陥りそうになっているのである。

 検査だけではない。感染が拡大している自治体では保健所業務がパンクし、大阪府では重症化リスクが高い人以外は濃厚接触者を特定する調査を取りやめるなどの動きが出てきている。これは自治体が保健所職員の増員を含む体制拡充を怠ってきた結果でもあるが、前出『報道1930』では、小池議員が「(国の)来年度予算では保健所にほとんど手当がついていない」「これまでの仕組み以上のものはない」と指摘。つまり、岸田政権は感染拡大を見越した対策のための予算措置もしてこなかったのだ。

 前述したように、分科会メンバーの小林氏は「みんなが家から出なければ感染は収まるが、経済を止めることによって生活に困窮して亡くなる人が出る」と述べて分科会の「人流抑制より人数制限」という方針を正当化したが、この問題にしても、そもそも生活困窮者を自殺に追い込んでいるのは、手厚い補償や迅速な支援をおこなおうとしない岸田首相の失策であり、完全な政治責任だ。

 安倍・菅政権の酷さと比較して「岸田政権はまだまし」などと評価する声は大きいが、まったくそんなことはない。専門家の暴走を生み出した大元に岸田政権のコロナ失策があることは、もっと強く批判されるべきだ。

最終更新:2022.01.22 05:41

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