ビリー・アイリッシュの言葉を日本のネトウヨや中立厨に聞かせたい! 黒人差別抗議デモを攻撃する「ALL LIVES MATTER」を完全論破

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ビリー・アイリッシュInstagramより


 ミネソタ州ミネアポリスでアフリカ系アメリカ人男性ジョージ・フロイドさんが警察官に首を足で押さえつけられるなどの暴行を受け死亡した事件から1週間。アメリカ各地で広がっている黒人差別抗議デモはますます勢いを増している。

 一部で暴力行為や略奪などが見られることから、トランプ大統領はツイッターでデモ参加者を「このチンピラども(These THUGS)」と罵倒し、「略奪が始まったら銃撃するぞ(when the looting starts, the shooting starts)」などと武力行使もちらつかせ脅してみせた。

 さらにトランプは米軍投入も辞さない姿勢を示したり、またホワイトハウス周辺で平和的に抗議していたデモ参加者を機動隊が催涙ガス弾で排除するなど、中国政府による天安門事件や香港弾圧を彷彿とさせるような動きすら見せている。

 しかも、唖然とするのは、こうしたトランプの弾圧を批判するのでなく、「暴力を振るっているのだから当然」「あんなものはデモじゃない」と抗議デモを批判する声が数多くあがっていることだ。

 多くの参加者たちはデモに乗じた暴力・略奪行為を諌めている。むしろ警察のほうがデモ隊に向けて発砲したり警察車両で突っ込んだり、暴力を引き起こしているのだ。にもかかわらず、一部の暴力行為をもって抗議デモ全体を否定し、弾圧を正当化しようというのは、倒錯としか言いようがない。結局、アメリカでも日本や中国と同じように、差別や弾圧を正当化するネトウヨ的な詐術が浸透しているということだろう。

 しかし、アメリカには日本と違って、大きな救いがある。それはトップアーティストたちが堂々とこうした倒錯状況に抗する声をあげていることだ。

 アリアナ・グランデが抗議デモに参加し、リアーナやビヨンセ、レディ・ガガ、ジャスティン・ビーバーらもSNSで差別への抗議の声をあげ、テイラー・スウィフトにいたってはツイッターでトランプにメンションを飛ばし、こう批判した。

〈大統領になってからずっと白人至上主義と差別主義に火を点けて煽っておきながら、自分のほうが道徳的であるかのようなふりをした上で暴力で脅すってどういう神経をしているのか?「略奪が始まったら銃撃するぞ」って??? 私たちは11月の投票であなたを落選させる〉(5月29日)

 さらに注目したいのが、ビリー・アイリッシュのメッセージだ。ビリー・アイリッシュといえば、現在18歳で、昨年リリースした「bad guy」は全世界で2000万枚近く売り上げ、グラミー賞も受賞した。その音楽や映像表現の先進性はもとより、現代の10代が抱える生きづらさを代弁し、ボディシェイミングに代表されるルッキズムやセクシズムへのアンチテーゼを発信する、そのメッセージ性が絶大な支持を得ている。

 ビリー・アイリッシュは、人種差別と今回の抗議デモ攻撃について、5月30日にインスタグラムで長文のメッセージを公開。そのなかで抗議デモを批判する者たちが使う「ALL LIVES MATTER(すべての人の命が大切)」というスローガンを強く批判しているのだが、それがまさに日本のネトウヨや冷笑系・中立厨にもそっくりそのまま聞かせてやりたい話ばかりなのだ。

ビリー・アイリッシュが差別抗議デモ批判「ALL LIVES MATTER」を徹底論破

 ビリー・アイリッシュは、この問題にどんな言い方で発言するか、敬意をもった言い方をしなくてはなどと考えていたが、もうそんなことはどうでもいいからとにかく話すと前置きし、こう切り出した。

〈あと1回でも白人の人が「ALL LIVES MATTER(すべての人の命が大切)」と言うのを聞いたら、頭がおかしくなりそう。マジで黙れ! 誰も白人の命が大切じゃないなんて言ってない。誰も白人の生活がハードじゃないなんて言ってない。
「ALL LIVES MATTER」って言うことで、話をすり替えようとしているけど、あなたたち白人は必要に迫られていない、あなたたち白人は危険に晒されていない〉

「ALL LIVES MATTER(すべての人の命が大切)」というと一見いいことを言っている言葉のようにも見えるが、実はこれは今回のデモでも掲げられている「BLACK LIVES MATTER(黒人の命が大切)」というスローガンを否定するためのアンチテーゼの言葉。黒人の命だけじゃなく、すべての人間の命が大切だと主張することで、黒人が受けてきた差別を矮小化しようとするレトリックなのだ。

 たとえばトランプも、「BLACK LIVES MATTER(黒人の命が大切)」について、「分断を煽る差別的な言葉」などと批判したことがあると言えば、「ALL LIVES MATTER(すべての人の命が大切)」がどういう人間がどういう目的で使っているかよくわかるだろう。今回の抗議デモに対しても、黒人差別に反対する声をかき消そうと、この「ALL LIVES MATTER」の言葉が投げつけられている。

 ビリー・アイリッシュは、この「ALL LIVES MATTER」に対して、何回も「FUCK」という言葉もまじえながら、激しい調子で、でも丁寧に、その欺瞞を暴き出し反論していったのだ。

〈もし友だちが腕にケガをしていたら、「すべての腕が大切」だからって、まずすべての友だちにバンドエイドが渡されるまで待つの? 違うだろ。そのコを助けるだろ、だってそのコが痛がってて、そのコが助けを求めてて、そのコが血を流しているんだから!〉

〈もし誰かの家が火事で人が取り残されていたら、「すべての家が大切」だからって、まずそのブロックのすべての家に消防署を来させるの? 違うだろ。必要ないんだから!〉

 なんの罪もない黒人が警察官に命を奪われたのに、「ALL LIVES MATTER(すべての人の命が大切)」と叫ぶこと。それは、腕にケガをし血を流している友だちがいるのに「すべての腕が大切」だからと他のすべての友だちにバンドエイドを配ることや、火事で人が取り残されている家があるのに「すべての家が大切」だからとそのブロックの家すべてに消防車を呼ぶことと同じくらい、無意味で馬鹿げたことだと切って捨てた。

白人の武装デモは支持し黒人が差別に抗議するとチンピラ呼ばわりするトランプ大統領

 そして、一人ひとりの白人個人が抱える困難と、黒人全体が置かれている困難な状況とはまったく異なるということを、ビリー・アイリッシュは訴える。

〈あなたが望む望まないに関わらず、あなたは白人であるっていうだけで社会から特権を与えられている。白人の人だって貧しいかもしれないし、苦労しているかもしれない。そうだとしても、あなたの肌の色はあなた自身が自覚しているより、ずっと大きな特権を与えている(それはあなたが他の人よりも優れているって意味ではないよ)。ただ、白人は肌の色のおかげで、生が危機に晒される心配をすることなく、自分の生活を送れているんだ! 白人のあなたは特権を持っているんだ!!!〉

「特権」というのは、“(実際はそうでないにも関わらず)移民や黒人が差別に抗議することで不当な「特権」を得ている”として、白人貧困層などがそのはけ口に移民や黒人を攻撃する近年のレイシズムの特徴を意識しての言葉だろう。しかし、黒人は黒人であるだけで生存そのものが脅かされることがある。自分では気づいていなくても、現実に「特権」を与えられているのは白人だとビリー・アイリッシュは訴える。

〈もしすべての人の命が大事だと言うなら、なぜ黒人は黒人であるというだけで殺されなくてはいけないのか?〉〈なぜ移民は迫害されているのか?〉〈なぜ白人は他の人種には与えられないたくさんのチャンスが与えられているのか?〉と、人種差別の理不尽をたたみかけ、こう突きつけた。

〈なぜ白人はステイ・アット・ホームに抗議して銃を持つことまで許されるのか? なのに、なぜ黒人は罪なき人が殺されたことに抗議したら「THUGS(チンピラ)」などと呼ばれなきゃいけないのか? なんでかわかる? それが白人のクソ特権!〉

 これは明確にトランプ大統領とその支持者への批判だろう。新型コロナウイルスの影響による外出制限やロックダウンに反対し解除を求める抗議デモがアメリカ各地で行われ、なかでもミシガン州では銃を持ち武装した市民が州議事堂に押し入るというケースもあった。しかし、トランプ大統領はこうしたデモを批判するどころか支持・煽動していた。一方で、今回の差別抗議デモに対しては「THUGS(チンピラ)」と罵り武力制圧までちらつかせる。白人は銃を持ち出しても許され、黒人が差別に抗議するとチンピラ呼ばわり。ビリー・アイリッシュは、このトランプらの暴力批判のダブルスタンダードぶり、そしてそのダブルスタンダードこそが差別思想そのものであることを喝破してみせたのである。

日本のネトウヨたちが口にする「日本人差別」「女尊男卑」と「ALL LIVES MATTER」の共通性

 そのうえで、あらためて「BLACK LIVES MATTER(黒人の命は大切)」というスローガンと抗議デモの意義を、こう訴える。

〈白人の特権は、ヒスパニックの人やネイティブアメリカンやアジア系の人も抑圧してるかって? もちろん100000000000000%してる。
 だけど、いまこの瞬間は、黒人の人たちが何百年に渡って強いられてきた抑圧について語らなければけない。「#blacklivesmatter」のスローガンは、黒人以外の人種の命が大切じゃないって意味じゃない。社会が黒人の命を大事にしていないという明らかな事実に、声をあげてるんだよ!〉

 そして、最後に「BLACK LIVES MATTER」と3回繰り返し、〈#justiceforgeorgefloyd(ジョージ・フロイドのために正義を)〉と締めくくった。

どうだろう。読めば読むほど、ビリー・アイリッシュの差別の構造と本質に対する深い理解に感心させられるではないか。しかも、差別主義者たちの欺瞞を完全に見抜いた「ALL LIVES MATTER」批判は、冒頭でも指摘したように、そのまま、日本の差別主義者やネトウヨに聞かせたい言葉ばかりだ。

実際、「ALL LIVES MATTER(すべての人の命が大切)」という言葉は、日本のネトウヨたちがよく言う「日本人差別」とか「女尊男卑」にそっくりだ。

 実際には、日本人がマジョリティである日本社会において、在日コリアンが著しい不利益や抑圧を受け、日本人は日本人であるだけで「特権」を与えられている状態にもかかわらず、在日の人たちのほうを「在日特権」などとデマ攻撃するネトウヨ。女性差別に抗議の声をあげると「女尊男卑」とか「男性差別」などと抜かし、在日差別や外国人差別を批判すると「日本人差別」などと言い出す。

 日本人というだけで、男性というだけで、自分が構造的に与えられている恩恵や弱者が構造的に被っている不利益を完全に無視して、「そっちこそ差別」だなどと言い募る。

 つい最近もなんの罪もないクルド人が渋谷署の警察官に暴行を受けるという事件があったが、これに対して「日本人でも職質を受ける」「職質断ったら、日本人でも同じことをされる」といった論点ずらしの反論が吹き出てきている。

 いや、ネトウヨだけではない。日本では、こうした差別主義者の詐術に引きずられて、マスコミやネット全体が差別問題に抗議の声があがってきにくく、「どっちもどっち」論が跋扈している。さらには、抗議の声に対して「言い方が悪い」などとやはり論点をずらそうとするトーンポリシングが横行する始末だ。

しかしそれは、ビリー・アイリッシュの言うように、日本人というだけで特権を与えられていること、日本人ではないというだけで在日や外国人の人が被っている被害や不利益に、あまりに無自覚なだけなのだ。

わたしたちはアメリカの黒人差別の抗議デモに連帯するとともに、安倍政権下で跋扈する日本社会の差別に目を向けなければならない。そして、悪質な詐術に対してビリー・アイリッシュのように「マジで黙れ!」と叫ぶ必要がある。

最終更新:2020.06.03 12:54

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