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NHK新会長に安倍人脈の前田晃伸みずほFG元会長が抜擢された裏! 官邸が前任の上田会長を「政権批判番組へのグリップ弱い」と首すげ替え
前田晃伸新会長の就任会見を報じるNHK NEWS WEB
NHKが再び籾井時代のような“安倍さまのための放送局”に戻ってしまうのか──。今月9日、NHK経営委員会は上田良一会長の退任と、新たに元みずほフィナンシャルグループ会長である前田晃伸氏を後任とする人事を決定したからだ。
この前田氏、「安倍首相の後見人」とも呼ばれるJR東海の葛西敬之名誉会長が主催する、安倍首相を後押しする経済人による「四季の会」のメンバーだったのだ。
安倍首相がNHKに介入をはじめたのは第一次政権時だが、安倍首相はこのとき経営委員会委員長として「四季の会」メンバーである古森重隆・富士フイルムホールディングス社長(当時)を送り込んでいる。じつはこの古森氏の後任人事で名前が出たのが前田氏だったのだが、当時の麻生政権はねじれ国会で野党がこの人事案を利害関係があるとして認めず、経営委員長の座を逃した過去がある。つまり、前田新会長は「正統派」の安倍人脈の人物なのである。
これはあきらかに官邸の意向が働いているとしか考えられない。実際、毎日新聞10日付記事でも、「首相官邸は『上田会長は野党に気を使いすぎだし、政権批判の番組へのグリップが弱い』と不満を持っていた」と複数の関係者が証言。〈自民党幹部は「官邸主導の人事」と話し、「官邸がコントロールしやすい人材をおいたのだろう」と話す〉と報じている。
上田氏が籾井勝人氏の後任としてNHK会長に就任したのは、2017年1月。ご存知のとおり籾井体制下では『クローズアップ現代』のキャスターを23年間にわたって務めた国谷裕子氏を降板させるなど露骨なまでに政権批判を封じ込める動きが加速したが、上田会長就任後は、政治部から横槍を入れられながらも森友・加計問題でスクープを飛ばしたり、最近も「桜を見る会」問題をめぐる報道でホテル側への独自取材をしたり、下村博文・元文科相が英語民間試験をめぐって東京大学の五神真総長らに圧力をかけていた音声を放送するなど、わずかながらも風穴を開けようとする現場の奮闘も見られた。その背景には、上田会長の「放送、ジャーナリズムが国家権力に追随するような形というのは、必ずしも望ましい形ではない」という姿勢があったとも言われてきた。
そして、この上田会長に安倍官邸は苛立ちを募らせていたわけだが、一方、上田会長はネット上でテレビ番組を同時に流す常時同時配信を可能にする放送法改正に漕ぎ着けるなど、その手腕を評価する声は大きかった。上田会長を1期で退任させる、その理由が必要だったなかで発覚したのが、かんぽ生命保険をめぐる報道圧力問題だった。
簡単に振り返ると、『クローズアップ現代+』は昨年4月24日の放送でかんぽ生命の不正販売の実態を報じ、さらにネット動画で情報提供を関係者に呼びかけるなど続編の制作に取り組んでいたが、その動画に対して日本郵政側が上田会長宛てで削除を要請。その後、番組の幹部が日本郵政側に「会長は番組制作に関与しない」などと説明をすると、郵政側は「放送法で番組制作・編集の最終責任者は会長であることは明らかで、NHKでガバナンスが全く利いていないことの表れ」と主張し、説明を求める文書を上田会長に送付。さらに、日本郵政側から「ガバナンス体制の検証」などを求める文書を受け取った経営委員会が、これを汲んで上田会長に「厳重注意」をおこない、そのことを郵政側に報告。上田会長も事実上の謝罪文書を郵政側に送った。
結果として上田会長が謝罪をおこなったことは問題だと言わざるを得ないが、しかし重要なのは、正当な取材活動・報道に対して「ガバナンスの問題」に話をすり替えて圧力をかけようとする郵政側と同調し、上田会長に恫喝をかけた経営委員会の姿勢だ。放送法32条では経営委員会が個別の番組に介入することを禁じており、この経営委員会の言動は放送法違反にあたる可能性が非常に高いものだ。
会長交代の前から始まっていたNHK締め付け復活、国谷裕子を追放した板野裕爾が専務理事に復帰
だが、前田新会長を発表したNHK経営委員会の石原進委員長(JR九州相談役)の会見では、上田会長について「評価が高かった」と言いながらも、退任にいたった原因についてこう語ったのだ。
「やはりガバナンスの問題とか、経費コストの見直しとか。問題があるんじゃないかという意見もあった」
「(ガバナンスの問題には)かんぽ問題も当然含まれる。私は大変な問題だったと思っている」
「大変な問題だった」って、大変な問題を起こしたのは石原委員長を筆頭とする経営委員会のほうなのだが、このようにすべての責任を上田会長に転嫁させ、官邸の意向を汲んだ新たな会長を選出することを成功させたのである。ちなみに石原氏は3期9年という異例の長期間にわたって経営委員を務めたが、10日に委員長を退任。これは任期満了にともなうもので、かんぽ問題は関係していないとされている。
経営委員会の番組介入という深刻な問題は不問に付され、安倍官邸が気に食わぬ会長の首をすげ替え、安倍首相に近い人物を新会長に据える──。この露骨な人事を見ると、NHKが籾井体制時のような萎縮しきった報道に戻ってしまうのではないかと危惧を抱かざるを得ないだろう。
実際、安倍官邸によるNHK監視体制の動きは強まっている。今年4月には板野裕爾・NHKエンタープライズ社長を専務理事に復帰させたが、板野氏は『クローズアップ現代』の国谷キャスターを降板させた張本人と言われる人物。2016年に刊行された『安倍政治と言論統制』(金曜日)では、板野氏の背後に官邸のある人物の存在があると指摘し、NHK幹部職員は〈板野のカウンターパートは杉田和博官房副長官〉〈ダイレクトに官邸からの指示が板野を通じて伝えられるようになっていった〉と証言をおこなっている。
さらに前述したように、報道現場では社会部が奮闘する一方で、報道局上層部や政治部が横槍を入れてきた。森友問題では近畿財務局が森友学園側と国有地の購入価格の上限を聞き出していたというスクープに対し、政治部出身で安倍官邸とも強いパイプを持つとされる小池英夫報道局長が「将来はないと思え」と恫喝したことを元NHK記者の相澤冬樹氏が告発。加計問題でも文科省の内部文書をスクープできたというのに、肝心の「官邸の最高レベルが言っている」などの部分を黒塗りにしてストレートニュース内で消化するという“忖度”報道をおこなったが、これも小池報道局長の指示によるものだと言われている。その一方、何かにつけて政治部の岩田明子記者を報道番組に投入し、安倍首相の礼賛を解説として垂れ流しているのだ。
そして、ここにきての安倍人脈の新会長選出──。「安倍4選」が取り沙汰されるなか、今後さらに官邸は直接的にNHKの報道に介入し、現場の萎縮はさらに進んでゆくことになるのは間違いないだろう。
(編集部)
最終更新:2022.08.04 01:46
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