『モーニングショー』玉川徹が「嫌韓本じゃない」とお詫びした本を検証! ほとんどはやっぱり“嫌韓・ヘイト本”だった

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9月12日放送で「嫌韓本」についてお詫びした『モーニングショー』


 テレビや出版界で吹き荒れる“嫌韓扇動”の嵐。数は少ないながら、一部のマスコミからも、こうした安倍政権の「嫌韓キャンペーン」にまる乗っかりした企画に懸念を表明したり、メディアに冷静さを求める論調が出始めた。たとえば、9月5日放送の『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日)は、玉川徹氏の「そもそも総研」のコーナーで、「週刊ポスト」(小学館)の韓国ヘイト特集を入り口にして、巷間に溢れかえる「嫌韓本」の問題を取り上げた。

 番組は、旧ユーゴスラビアの民族紛争関連の取材などで知られ、『さらば、ヘイト本!』(ころから)の共著もあるノンフィクション作家・木村元彦氏をスタジオに招き、出版界が売上げ目当てで“嫌韓扇動”に走る現状に警鐘を鳴らした。

 木村氏は「韓国のことを批判するというか、非常に扇情的なタイトルをつくったうえで、視聴率をあげるという。テレビも同じような問題をはらんでいると思うんです」と指摘。玉川氏は、戦中に主戦論を煽った新聞が部数を伸ばしたことを振り返りながら、「メディアに関わっている人間には責任があると思います。無駄に国民感情を煽っちゃいけないと僕は思っています」と述べてコーナーを締めくくった。この“嫌韓バブル”のなか、出版メディアによる安易な扇動を真っ向から批判し、テレビ業界にも冷静さと自制をうながした特集の内容は評価されるべきだ。

 ところが、この嫌韓本特集の1週間後、12日放送の『モーニングショー』が視聴者に「お詫び」する事態になった。「そもそも総研」の冒頭で玉川氏がこう述べたのだ。

「先週の『そもそも総研』で嫌韓感情とメディアの関係について放送したんですけれども、そのなかで嫌韓本がなぜ作られて、売られるのかという内容を議論しました。その際に、モニターに本を映したんですけれども、ここに映っている本は、あくまで韓国に関する本とか、文在寅政権を批判する本でした。嫌韓本について討論をしていたので、そのときにこの映像が流されると、視聴者のみなさんは、この本が嫌韓本かというふうな誤った印象を受けてしまったと思われます。その点について、極めて不適切でした。関係者のみなさま、視聴者のみなさまにお詫びいたしたいと思います。すみませんでした」

 これは、5日放送の嫌韓本特集内の討論のなかで、スタジオのモニターにチラッと映し出された韓国関連の書籍8冊のことを言っているのだが、案の定、ネトウヨたちは目の敵にしている玉川氏の「お詫び」に大喜び。Twitterでこんな快哉を叫んでいる。

〈嫌韓本なんて無い、あるのは、韓国、真実暴露本だけ(笑www〉
〈要は、玉川が嫌韓本と文政権批判本の区別も出来ない白痴ってだけでしょ?〉
〈嫌韓本なんて存在自体が嘘。韓国について事実を書くとなぜ嫌韓本になるのかな?〉
〈玉川徹の存在自体が不適切なのでは?そもそも嫌韓本などない。日本政府もマスコミも嫌韓を煽ってない。韓国がどういう国で、日本に何をしているのかを言ってるだけ〉

 ようするに、ネトウヨたちは『モーニングショー』の「お詫び」にかこつけて、「日本に嫌韓本はない」などと強弁しているわけだが、結論から言えば、番組はこんな訂正など出す必要などなかった。

 なぜならば、本サイトがあらためて読んで検証したところ、これらの書籍はほぼすべて、明らかに読者の“嫌韓感情”を煽りに煽る嫌韓本に他ならなかったからだ。

 まず、5日放送でスクリーンに映し出されたのは以下の8冊だ。

武藤正敏『文在寅という災厄』武藤正敏(悟空出版)
高橋洋一『韓国、ウソの代償 沈みゆく隣人と日本の選択』(扶桑社)
高山正之『韓国とメディアは恥ずかしげもなく嘘をつく』(徳間書店)
鈴置高史『米韓同盟消滅』(新潮社)
峯岸博『韓国の憂鬱』(日本経済新聞社)
呉善花『韓国を蝕む、儒教の怨念 反日は永久に終わらない』(小学館)
櫻井よしこ、洪熒『韓国壊乱 文在寅政権に何が起きているのか』(PHP研究所)
藤井厳喜、古田博司『韓国・北朝鮮の悲劇 米中は全面対決へ』(ワック)

 このうち、最低限のバランス感覚とジャーナリズムが担保されているのは、峯岸博・日経新聞編集委員兼論説委員がソウル支局長時代に書いた『韓国の憂鬱』ぐらいで、他の7冊は単に「あくまで韓国に関する本とか、文在寅政権を批判する本」では決してない。ことば巧みに韓国への悪感情を誘導するのはもちろん、なかには韓国人や在日コリアンへの差別や偏見を助長する「ヘイト本」と断じる他ないものもあった。

玉川徹が謝罪した本には「在日や韓国人の追放」「韓国人は嘘つき」を主張するヘイト本も

 たとえば、元産経新聞社会部次長・高山正之氏の『韓国とメディアは恥ずかしげもなく嘘をつく』を見てみよう。以下はまごうことなきヘイトデマであり、本来ならば引用すら憚れるのだが、そのグロテスクさを示すためにあえて引用したい。

〈支那人が喉から口までラッパ状にして己の意見を主張する。朝鮮人は相手を言い負かすために喧嘩腰の喋り方をする。〉
〈一連の事件から理解できるのは韓国人たちはもはや仏像を壊すだけでなく生身の日本人をぶっ壊したいネガティブ・エネルギーに身を焦がしているという事実だ。〉
〈民意は今、韓国人のノービザを嫌がっている。彼らをノービザにした途端、全国の神社仏閣が荒らされ、仏像が盗まれ、油で汚され、吉田邸は放火された。在日の指紋認証もやめたらその四カ月後に世田谷で一家四人殺しが起きた。
 まず韓国人のビザを復活し、特別永住者を含め犯罪人を追放したい。その次は支那人の入国を禁止したいと民意は思っている。〉

 念のため言っておくが、2009年の旧吉田茂邸火災の原因は漏電とみられており、「韓国人が放火した」というのはネット上のデマだ。あげく、未解決の世田谷一家殺害事件の犯人を「在日」と決めつけ、韓国人を日本から追放せよと扇動する。ヘイトスピーチ以外のなにものでもない。

 呉善花『韓国を蝕む、儒教の怨念』も、典型的な韓国ヘイト本だ。著者の呉善花氏は右派の評論家で、これまで『なぜ「反日韓国に未来はない」のか』(小学館)、『日本人は中韓との「絶交の覚悟」を持ちなさい』(石平、黄文雄との共著/李白社)など多数の嫌韓本を送り出してきた“ヘイトメイカー”である。

 その呉氏が今年8月に出版した『韓国を蝕む、儒教の怨念』は、タイトルからして、ベストセラーになってしまったケント・ギルバート氏のヘイト本『儒教に支配された中国人と韓国人の悲劇』(講談社。詳しくは過去記事参照https://lite-ra.com/2017/10/post-3544.html)の後釜を狙った臭いがプンプンしてくるが、実際、読んでみると、やっぱり「儒教」をダシにしてひたすら韓国の人々をバッシングする構成になっている。

 いくつか例示しておこう。呉氏は〈韓国人の「血のつながり」はどんな民族よりも高貴で聖なるものだと価値観付けていくことになります。こうして、自民族が他の民族に優越するというナルシシズム、自民族優越主義、視野狭窄の自民族中心主義を自ずと生じさせていくのです〉と書いている。ようするに“自己チュウな民族”“自惚れた民族”だと決めつけているのだが、こんなのどこの国のナショナリストにも共通するもので、それこそ「韓国人は〜」のかわりに「日本の右派は〜」に置き換えたほうがしっくりくる。

 さらに、同書第3章のタイトルは〈「虚言癖−盗用癖」の民族病理〉。この時点で、朝鮮半島の人々を民族でひとくくりにし、“嘘つき”“盗人”とレッテル貼りをする差別扇動に他ならないが、本文でもこうまくし立てている。

〈韓国の犯罪で、偽証罪が世界的に群を抜いて多いことはよく知られていますが、なぜそんなことになるのでしょうか。親族・友人を助けるためには嘘をつくこと、「虚言と欺瞞」を弄することが善であるという教育を受けた、古くからの「身内正義」の考え方があるからにほかなりません。こうして、「嘘をたいしたことと思わない社会の風潮」が蔓延していきます。〉
〈韓国の社会では、嘘をついたり人を騙して人に危害を与えたことが発覚しても、なんら責任をとろうとはせず、またその責任を厳しく問おうとはしない傾向がまことに強いのです。
 そればかりか、騙されないようにしなかった本人の責任だ、騙されるとはなんてバカなんだといわんばかりの非難を浴びることにすらなり、諦めて泣き寝入りするほかないことがきわめて多いのです〉

「嘘つきが韓国人の国民性」というのは、ヘイト本の典型的な物言いだが、この本の場合はさらに矛盾だらけで無茶苦茶だ。呉氏は〈韓国の犯罪で偽証罪が世界的に群を抜いて多い〉というなら、なぜ「韓国社会は嘘の責任を取らなくていい」ということになるのか。偽証罪に問われているのだから逆だろう。このロジックでいうなら、嘘の責任をとらなくていいのは、むしろ国会で嘘をついても、政治家や官僚が偽証罪に問われることなどない日本社会のほうではないか。ようするに、呉氏は“韓国は嘘をついて当たり前の社会”というようなヘイトデマをひねりだすために、あれやこれやをこじつけているに過ぎないのである。

高橋洋一も櫻井よしこも嫌韓本出版、「WiLL」版元の嫌韓本は性的マイノリティを「異常」呼ばわり

 程度の差こそあるが、他の本も似たり寄ったりと言っていい。表向き「韓国という国家」や「文在寅政権」を批判しているだけのように振る舞っていても、いつの間にか「朝鮮人は〜」「韓国人は〜」などと民族や国籍を一括りにして、「嘘つき」だの「犯罪を犯す」「病気」などと、ネガティブな「性格」「感情」「気質」の持ち主と認定する。たとえば、鈴置高史『米韓同盟消滅』にはこんなくだりが出てくる。

〈韓国人は突然に自信を付け、世界は自分の思うようになると信じ込んだ。〉
〈韓国人はもう「反日」ではない。彼らを突き動かすのは「日本を卑しめたい」との衝動なのだ。〉
〈世界中の人々が「韓国の方が日本よりも偉い」と言い出すまで、世界を舞台にした卑日運動は収まらないだろう。韓国人が中二病にかかっている限りは。〉

 あるいは、「人種差別ではない」「国民性の話はしていない」などと予防線を張ったうえで、陰謀論やレッテル貼りを展開することにより、読者が韓国(人)を「日本(人)の敵」に認定するよう誘導していく本もあった。高橋洋一『韓国、ウソの代償』のこのくだりなどは典型だろう。

〈自民党の中には「やはりスパイ活動防止法を作ったほうがいい」という意見がだんだん増えている。
〔中略〕
 実はマスコミには意外と外国人が多い。筆者の知る限り、NHKにも在日外国人は多い。だから反対するのかもしれない。もちろんその中には在日韓国人だっているし、出版社にも結構多いはずだ。〉
〈国民性の話はあまりしたくないが、韓国は小が大に事える、強い勢力に付き従うという「事大主義」に取り憑かれている。これは完全に半島根性で、強いものに巻かれて弱いものに強く出る。だからずっと中国に依存してきた。〉

 同じ右派陣営の差別扇動言説を無批判に紹介し、「だとすると」などと言葉を継いで悪印象を強めていく手法も、嫌韓本の定番中の定番だ。櫻井よしこ、洪熒『韓国壊乱 文在寅政権に何が起きているのか』では、櫻井氏がこんなことをもっともらしく語っている。

〈櫻井 日本では「韓国が慰安婦問題で虚偽を大きく騒ぎ立てる心理の背景に『中国が一番で、韓国が二番、日本が三番』というような儒教的な華夷秩序があるのではないか」と指摘する人もいます。韓国人のほうが日本人より優れているという通念と自負心、自尊心を満たすために、日本を貶め続けることが必要ではないか、と。ところがもし、本当にそんな考え方が通るのだとすれば、そういう世論の前に、事実はどこかへ飛んで行ってしまう。事実や合理性を離れ、印象や思い込みによる言動が強くなります。〉

 また、これらの本には、歴史修正主義を振りまくものも含まれているが、そこにも朝鮮への蔑視・差別意識がダダ漏れになっている。極右ヘイト雑誌「WiLL」の版元ワックから出版された『韓国・北朝鮮の悲劇』は、右派評論家の藤井厳喜氏と古田博司・筑波大学院教授の対談本だが、こんなやりとりがある。

〈古田 日本が朝鮮半島を植民地にしたと言われるでしょう。でも、日本が朝鮮にいった時は国庫が空でした。そして、王様が「好きにはからえ」と言って、五人の大臣に国を丸投げした。これは記録に残っています。その結果、日本に併合された。だから侵略でも何でもない。
 藤井 自壊です。
 古田 日本からすれば、そんなころに関与したというのは不運としか言いようがないんですがね。
 藤井 ある意味では日本は朝鮮を助けたけれど、その助け方が間違っていたと思います。何が間違っていたかというと、朝鮮人をまともな近代的国民にしようという「変な考え」を持ったことです。〉

 ちなみに、藤井氏はこの対談本で性的マイノリティへの差別意識もむき出しにし、積極的に差別の扇動すらしている。〈たとえば同性愛者が基本的に人間として価値が劣るわけではありません〉と予防線を張りつつ、こう述べている。

〈ただ、異常か正常かといったら、それは異常です。異常だからまた楽しいのだろうと思う。倒錯の世界は快楽があるらしいし、その人たちから快楽を奪ってはいけません。〉

 そして性的マイノリティの結婚について〈ご本人が幸せならいい〉とエクスキューズを入れつつ差別語まで使ったうえで、こう断じる。

〈しかし、子供には「あの人たちはちょっと普通ではない」ということが教えられないといけない。私はそれだけだと思います。〉

 いかにこの種の本が差別肯定の思想に根ざしているかがわかるというものだ。

元韓国大使で徴用工訴訟の当事者企業顧問だった武藤氏の狡猾な加害事実ズラシ

 最後に、元韓国大使であった武藤正敏氏が今年7月に出した『文在寅という厄災』にも触れておこう。最近、テレビのワイドショーへ毎日のように出演しては韓国バッシングの言説を垂れ流している武藤氏。実は2017年まで、徴用工訴訟の当事者である三菱重工の顧問であることが発覚し、その客観性が著しく疑われている。

しかも、武藤氏は2017年に『韓国人に生まれなくてよかった』(悟空出版)というヘイト丸出しのタイトルの本をヘイト出版社から出版しているのだが、今回、『モーニングショー』が紹介した『文在寅という厄災』はその“実質的続編”と呼べる内容だ。

 同書の特徴を簡潔に述べれば、慰安婦問題や徴用工問題など日韓両国の諸問題について、かたや安倍政権の対応の問題点やグロテスクな「嫌韓キャンペーン」はネグりながら、ひたすら「文在寅が悪い」と強く批判することに尽きる。その点だけで言うと、読者の韓国(人)に対する悪感情を煽ることを主眼とするティピカルな嫌韓本とは少し違うのだが、しかし、この本の問題は別のところにある。

 たとえば、同書は〈日本人なら、「韓国はいいかげん感情的な反日をやめ、普通の国なってほしい」と思う〉などとして、“「どうぞお互い利用できそうなところを利用しましょう」という「用韓・用日」の関係”にすべきと主張。武藤氏はこれを「ドライ」「合理的」などと自賛する。

 だが、そこからは戦前日本と韓国の加害・被害関係の史実がすっぽりと抜けおちている。慰安婦問題も徴用工問題も、その根源は、大日本帝国による侵略と人権侵害にある。だが、この本を読むと、武藤氏はその本質を読者に忘却させようとしているように感じるのだ。

〈そもそも歴史に断絶はないのである。韓国人はよく日本人に「歴史を勉強せよ」と言う。確かに日本人は戦前の歴史をもっと勉強すべきだとは思う。ただ、韓国も、戦後の日本が韓国の経済発展に協力した歴史を知るべきである。そうすれば、日本をより客観的に見ることができるはずだ。〉
〈韓国人に正義があるように、日本人にも正義はある。一度謝ったことをひっくり返してさらなる謝罪を求める行為は、少なくとも日本人にとっては正義のかけらもない「信義にもとる行為」なのである。〉

 実のところ、こうした言説は加害事実の矮小化・相対化でしかない。ネトウヨ的感性の増長を呼び込み、他の嫌韓本のような「嘘つき」「わがまま」というレッテル貼りにお墨付きをあたえることになるだろう。

 いずれにしても、『モーニングショー』が“嫌韓本ではない”と「お詫び」した書籍のほとんどは、実際には大衆の劣情を刺激しようとする嫌韓本、あるいは差別を扇動するヘイト本そのものだった。

おそらく紹介した8冊のうちの1冊か2冊の版元か著者から抗議が来たのだろうが、しかし、だったら『モーニングショー』は、一冊一冊を検証して、どれが嫌韓本、ヘイト本で、どれがそうでないのかをきちんと追及すべきだったのではないか。

 それを、面倒だからと8冊を一括りにして「ここに映っている本は、あくまで韓国に関する本とか、文在寅政権を批判する本でした」と謝罪してしまうのは、嫌韓ヘイト本にお墨付きを与えたのも同然だ。

それは、番組で取り上げた書籍に対してだけではない。現在の日本にはその何十倍もこの種の本や雑誌が溢れている。それらをすべて認めてしまうことにもなりかねない。

視聴率目当てで嫌韓を煽る他のワイドショーとは、一線を画しているように見える『モーニングショー』だが、こんな対応では、同じ穴のムジナとみられてもしようがないだろう。

最終更新:2019.09.15 08:22

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