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横田一「ニッポン抑圧と腐敗の現場」49
玉城デニー沖縄県知事が訪米で訴えたこと! NYでは「民主主義を沖縄に」と講演、米国務省には辺野古の欠陥を指摘
「11月6日投開票のアメリカ中間選挙が終わった後で、11月末から始まる12月定例(県議)会の前だと、11日の週しか訪米日程を組むことは困難でした。『中間選挙直後で時期的に好ましくない』『もっと準備期間をかけるべきだ』という声が出るのは覚悟の上で、玉城知事の強い意思で早期訪米が具体化しました」(県幹部)
辺野古新基地阻止を掲げて「沖縄県知事選」(9月30日投開票)で圧勝した玉城デニー知事が11月11日から16日、知事就任初となる訪米をした。衆議院時代の3回の訪米は政治の中心であるワシントンDCでの活動がメインだったが、今回は、経済や文化の中心であるニューヨークからアメリカに入国、ニューヨーク大学での講演を皮切りに活動を開始した。アメリカ在住の沖縄県出身者や一般の市民ら140名以上が集まったニューヨーク大学講演で玉城知事は、こう切り出した。
「今回は『多様性の持つ力、沖縄の誇りある民主主義』をテーマで話をするために、多様性に溢れているニューヨークから活動をスタートしました」
そして「幼い頃は外見が違うという理由だけでいじめられましたが、私を実の母以上に可愛がってくれた養母は、差別や偏見が心の傷にならないように優しく教えてくれました」とルーツを語った玉城知事は、こう続けた。
「沖縄の多様性は私のような存在であり、米兵と結婚して渡ってき今アメリカにいる女性たちであり、そして親から沖縄の魂を受け継いだ子どもたちであり、沖縄に触れてきた数多くの軍人・軍属なのです。私はこの多様性を誇るべき民主主義の力に是非変えて欲しいのです」
「あなたの国の政府に、アメリカの民主主義の誇りを沖縄にも届けるように要求して下さい。沖縄県民に残された時間はあまりありません。しかしみんなが立ち上がれば変化が起こります。変化が早く大きく起きるほど状況は大きく早く変わります。日米両政府が辺野古の新基地建設を断念するまで、みんなで是非動いていこうではありませんか」
こう訴えると、会場の参加者から拍手が沸き起こった。「人種のるつぼ」とも評されるアメリカ最大の都市ニューヨークで玉城知事は「多様性」をキーワードにしてアメリカ世論に訴えたのだ。
大学講演の翌日は複数のメデイア個別取材と中満泉国連事務次長(軍縮担当)との国連本部での面談を行った玉城知事は、前半のニューヨークでの手応えを「快晴」と例えた。しかし続く後半のワシントンでの要請活動に対しては、「雪が降る前の曇り空」と最後の囲み取材で例えた。凍えるような冷たい対応を受けたという意味だ。
14日10時すぎ(現地時間)、国務省に玉城知事は緊張した表情で乗り込んだ。玄関前の手荷物検査場から出たところで待ち構えていた記者から声をかけられたが、無言のまま、国務省のマーク・ナッパ―次官補代理と国防総省のポール・ボスティ日本部長代行との面談に向かって行ったのだ。
日本の外務省と防衛省に当たる国務省と国防総省との意見交換は、辺野古新基地阻止を県知事選で掲げた玉城知事にとって訪米最大の山場。しかし30分を超える面談が終了して間もない同日午後、国務省は「普天間代替施設(辺野古新基地)建設の約束は揺らぐことはない」という声明を報道関係者に発した。父がアメリカ海兵隊員の玉城知事が沖縄の民意をアメリカ政府に訴えても、「辺野古が唯一の解決策」という日本政府と同じ常套句が繰り返されただけだったのだ。
玉城知事の説明で米国務省がはじめて辺野古の軟弱地盤を知った可能性も
囲み取材に応じる玉城沖縄県知事(撮影・横田一)
しかし玉城知事は意気消沈するどころか、逆に闘争心をみなぎらせていた。「寒さには寒さ対策が必要」「凍えているだけではいけない。体を動かして温かくしましょう」と言いながら、記者団に次のような協力要請もしたのだ。
「(国務省での面談で)私は、沖縄における民主主義の崩壊に向かう状況を説明しました。その上で、そういう声明を出してくることは、まだ沖縄の認識を受取っていない。私たちは一喜一憂せず、常に沖縄の立場を説明していきます。メディアの皆様には『沖縄県がどういう思いで今回訪米したのか』の核心的な部分を発信していただければと思います」
また玉城知事はアメリカ政府の担当者に対して「『辺野古が唯一』と言っている限り、デッドロック(行き詰まり)だ」と警告する強烈な“パンチ”も放っていた。建設予定地の軟弱地盤問題について、次のように説明したのだ。
「国務省と国防総省(との面談)では、私が説明をして『これから先、(軟弱地盤を強化するための)地盤改良などがあった時は知事の許可を求めないといけない。そうすると、その許可を出すのは知事自身なので、この工事にはまだまだ完成までに時間がかかることは十分に予測される』と言っておいたが、それらについて国務省や国防総省からはコメントはなかった」
次のような悪夢の近未来図を玉城知事は示したともいえる。
1)マヨネーズにも例えられる軟弱地盤上に土砂投入をしても地盤沈下や液状化が起きる”欠陥基地”にしかならない可能性が高い。
2)米軍の使用に耐えうるようにするには新たな地盤改良(強化)が不可欠だが、現行計画からの設計変更を伴うので知事の許可が必要(玉城知事は不許可の方針)。
3)「辺野古が唯一」という方針を撤回、沖縄県と日米両政府が対話をして新基地建設を中止した上で代替案の模索をしない限り、「莫大な予算(日本国民の血税)を投じて美しい海を破壊した挙句、普天間代替施設として機能しない埋立地を作る」という工事のための工事を続けることになる。
面談直後には安倍政権の常套句を返した国務省だが、玉城知事の直訴がボディブローのように効いていても不思議ではない。沖縄の地元記者は「アメリカ政府内に『本当に日本政府の言っていることは大丈夫なのか』といった疑問が芽生えた可能性がある。今まで日本政府が軟弱地盤問題についてアメリカ側にきちんと説明をした形跡は全くないため、今回、玉城知事から初めて事の深刻さを知らされたのではないか」と語っている。
すでに防衛省は現地で地盤調査をしているため、想定以上の軟弱地盤であることに気がついているのは間違いないが、名護市議会で何度も軟弱地盤問題について質問をした東恩納琢磨・名護市議も「米軍やアメリカ政府の関係者に日本政府が軟弱地盤問題について正確に伝えているのかは疑問」と強調。そして「恐らくアメリカ政府に軟弱地盤問題を初めて説明したという点で、今回の訪米は非常に意味があったと思います」と高く評価していた。
日米両政府を日米の野党が連携して追及する態勢作りにも、玉城知事は着手することができた。同日午後に民主党のメイジー・ヒロノ上院議員とデイビッド・プライス下院議員とも面談した玉城知事は、プライス下院議員から「議会対策で協力する」と声をかけられたというのだ。米国議会で辺野古問題を取り上げられる可能性が出てきたということだ。
翁長知事が命をかけた埋立承認撤回をツブす安倍政権に徹底的な抵抗
「翁長前知事の遺志を引継ぐ」と訴えて圧勝した玉城知事の“弔い合戦”は、第二幕に突入した。県知事選で示された民意に安倍政権(首相)が寄り添おうとしない以上、政権交代にまで追い込まない限り、翁長前知事が託した辺野古新基地阻止を実現することが出来ない。だからこそ聞く耳を持たない安倍政権とトランプ政権を日米の野党がそろって追及、共に政権交代に追い込む連携が重要なのだ。今回の早期訪米はその第一歩となったのは間違いない。
防衛省沖縄防衛局が私人になりすまして「行政不服審査法(制度)」を乱用、翁長前知事が病床から指示を出した埋立承認撤回の効力を一時的に失わせる「執行停止」を石井啓一国交大臣(公明党)が決定した10月30日、謝花喜一郎副知事は野党合同ヒアリングで声を震わせつつ、次のように訴えた。
「8月4日、私は翁長知事に呼ばれて病室でお会いしました。『本当は(埋立承認撤回を)僕がやりたかったけれども、もしもの場合は君に頼む』とおっしゃられ、私は『そんなことはないです。ぜひ、知事頑張ってください』と言ったら、点滴を続けながら『そうだな』と言って笑っていた。その4日後に亡くなってしまったのです」
「翁長知事が本当に命がけでやったものを、このようにいとも簡単に(執行停止を決めた国交省の審査決定文書の)数ページで決定がなされることに、沖縄県民は本当に怒っております」
こうして翁長前知事から謝花副知事に託された埋立承認撤回について玉城知事は、今回の早期訪米でアメリカ政府にきちんと伝えた。承認撤回の根拠の一つが軟弱地盤問題であったからだ。準備不足などの声もあったが、一定の成果をあげたのは間違いない。ただし「海兵隊関係者との面談」は実現しなかった。
最後の囲み取材で玉城知事は「海兵隊関係者との面談が実現した場合、『私は海兵隊員の息子です』と伝えたい」とも語り、悔しさをにじませたが、2月にも実施される県民投票の結果をアメリカ側に伝えるための再訪米について、玉城知事は可能性を否定しなかった。再訪米で海兵隊関係者との面談が実現すれば、新基地を使用する米軍側に軟弱地盤問題を伝える貴重な機会となる。頑なな対応を続ける思考停止状態の日米両政府に対し、逆に闘争心をかきたてていく玉城知事から目が離せない。
(横田 一)
最終更新:2018.11.24 08:24
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