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関西空港の惨状は経営効率優先の運営会社による「人災」か? 民営化を「自分の手柄」と吹聴していた橋下徹は
関西国際空港公式サイトより
冠水して機能不全に陥った関西国際空港について、安倍首相は「7日に国内線を再開する」と早々と発表した。B滑走路が浸水しなかった、という判断からだろうが、本当に大丈夫なのか。というのも、実態として現場の人間が滑走路の台風被害を詳細に調査する暇などなかったはずだからだ。
さらに、心配になるのは、現在の関空が安全性を優先する体制になっていないという点だ。
実際、今回の機能不全と混乱は、台風21号と高潮の影響がすべての原因ではない。関空の側にも大きな問題があった可能性がある。
といっても、建設前からずっといわれていた地盤沈下や津波の危険性などを蒸し返そうというのではない。ここで指摘したいのは、運営面の責任だ。
そのひとつ目は、これだけ強い台風が来ることが事前にアナウンスされ、航空各社が欠航を決めるなか、空港をもっと早期に閉める判断はできなかったのか、ということだ。JR西日本は前日のうちに、9月4日は京阪神の在来線を正午までに全線運休することを決めていた。天気が良いうちから空港を閉めると判断すれば、空振りしたときの非難は相当なものだろう。しかし、安全性を優先するのであれば、国と調整して、早期に閉鎖するという英断ができたはずだ。
もっと深刻なのは、タンカーが連絡橋にぶつかった一件だ。関空が“陸の孤島”と化した原因となったタンカー事故だが、吉村洋文大阪市長は〈関空が原因ではない〉とツイッターでつぶやいている。しかし、本当だろうか。タンカーは航空機燃料のためのオイルタンカーだ。台風が来ると言われているにもかかわらず、直撃直前まで、関空のオイルタンクに給油関連作業をしていた。これだけの台風のなかなので、発注者である関西エアポート側の要請がなければ、船側が無理をすることはないはず。事実はどうだったのか。仮に民営化の結果として、関西エアポート側が効率性を追求し、タンカー側に無理をさせたのであれば、これは天災ではなく、人災と言える。
また、取り残された乗客へのアナウンスやその後の誘導もひどいもので、情報をきちんと出さずにさらなる混乱を招いた。移送後もフォロー体制をとっていなかったため、利用者に駅でさらに立ち往生を強いることになった。もともと、空港というのは、イベントリスクに馴れているはず。ところが、今回の関空の対応は素人並みと言ってもいいものだ。
関空を長く取材したことのある筆者からすると、これらの問題は、関空の歪な運営体制が招いていることではないかという気がするのだ。
もともと、関空は、国と地方自治体、そして民間が共同出資する政府指定特殊会社「関西国際空港株式会社」が運営していた。ところが、赤字が続き、民主党政権時代の前原誠二国交大臣時の2010年5月に発表された国土交通省成長戦略にもとづき、民営化計画が進行し始める。当時のヨーロッパの動きを参考にしたものだった。
2011年5月に「関西国際空港及び大阪国際空港の一体的かつ効率的な設置及び管理に関する法律」により、伊丹空港と一体的に、民間事業者に運営を委託することが決定された。それに基づき2014年7月より新しく運営事業者を選ぶ募集手続きを開始し、2015年11月に関西エアポートが運営することに決まった。2016年4月より民営化が始まって3年目に、台風と高潮による災害が関空を襲ったわけだ。
民営化の結果、“空港の素人”オリックスと仏ゼネコンが運営を始めた関西空港
しかし、この空港民営化は、かなりアクロバティックなものだった。民営化前に、関西国際空港株式会社と、B滑走路がある土地の運営をしている関西国際空港用土地造成株式会社が合併し、関西国際空港土地保有株式会社に名称変更した後、さらに伊丹空港を経営していた大阪国際空港ターミナル株式会社という別会社と一緒になって、新関西国際空港株式会社が誕生した。非常に煩雑だが、ばらばらだった会社を無理にひとつにしたのは、ひとえに民営化を進めるためだった。
また、民間に空港をまかせるとはいっても、空港は市民にとっての大切な公共財である。当然、阪神淡路大震災のときのように災害時に役に立つものなので、完全に民間に売却してしまうのはいかがなものか、という声が起こった。だったら、運営する権利という概念を新たにつくり、その権利、つまり運営権(英語でコンセッション)を売ろう、ということになったのである。
つまり、関空はいくつもの会社からできた新関西国際空港株式会社が所有管理し、運営を関西エアポートがやるというキメラ(合成獣)のような構造になっているのだ。
もちろん、これはメリットもあった。今回のような天災のときの復旧は、運営権者である民間会社が負いきれる負担の範疇を超えるため、「大家」である新関西国際空港株式会社≒国が責任をもって費用負担をすることになっている。しかし、寄せ集めゆえ責任の所在が曖昧な部分も多々ある。たとえば、今回、不通になった連絡橋の所有者は、関西エアポートでも国でもなく、別会社だ。連絡橋が破壊され、その結果として、空港の運営が厳しくなった場合は、誰が責任をとるのだろうか。
さらに、最大の問題は、運営を担当することになった民間業者、関西エアポートの体質だ。
関西エアポートは、オリックスとフランスのゼネコンであるヴァンシの関連会社ヴァンシ・エアポートとの合弁会社である。少数株主として、オール関西財界が株主に名を連ねてはいるが、実質はこの2社で80%の株式を持っており、執行役員は、ほぼオリックスとヴァンシ・グループ出身者で占められている。
代表取締役も2人、専務執行役員も3人ずつと、きれいに両者で分け合っている。いわば、2社で共同統治をしている。5日夜に記者会見した関西エアポートの西尾裕専務執行役員も、凸版印刷からオリックスに移り、長年、同社で働いている人間だ。
オリックスは空港運営とは何の関係もない金融やリースが本業の会社。ヴァンシ・エアポートは空港運営を業務とはしているが、完全に後発組で、それまでは小規模な空港しか運営したことがなかった。
関西国際空港時代からのプロパー社員が次々退職、効率重視の経営陣
関空が、オリックス、ヴァンシのコンソーシアム(共同事業体)に決まったのは、実は1社入札だったからだ。事前に様々な会社が検討していたが、いずれも、リスクが大きすぎるとして、途中で尻込みして、彼らは手を下げた。ところが、オリックスとヴァンシは「後発組」だったがゆえ、リスクをあまり考慮せずにこの話に飛びついたということだろう。
そんな会社が、はたして空港を運営できるのかという懸念は当初から囁かれていた。実際、インフラの運営というのは、安全性があって初めて成り立つものだ。金融マンが一朝一夕に身につけられるものではない。
もちろん、実際に運営するのは現場のプロパーであって、経営陣が素人でも関係がないという意見もあるかもしれない。たしかに、オリックスとヴァンシが経営する関西エアポートには、当初、新関西国際空港の従業員たちが転籍してスタート。多くの空港プロパーがいた。
ところが、民営化したこの2年で、もともと関西空港株式会社に入社していたプロパー社員、特に優秀な社員が数多く辞めているという話が聞こえてきている。経営効率化を優先して、安全性をないがしろにする経営陣への反発が原因ではないかとも言われている。
実際、先述したように、いまの経営陣をみると、オリックスとヴァンシで占められており、新関西空港株式会社時代に役員としていたプロパー社員の名前は見当たらない。関西エアポートは経営効率優先で、安全性の意識が低い畑違いの上層部が植民地を統治するような組織になっており、とても空港運営のベテランの意見が通るような組織ではなくなっているのだ。
さらに、気になるのは、現関西エアポートの最高技術責任者までが、2年前にヴァンシが派遣したブノア・リュロ専務執行役員だということだ。今回、安倍首相が7日に国内線を再開すると胸を張ったのは、このリュロ専務執行役員の判断なのだろうが、本当に大丈夫なのか。
そもそも、たった1日でどのように使用できると判断したのだろう。利用するのは一般市民である。関空は民営化したとはいえ、肝心のところは国が責任を持つという民営化の仕組みをつくるために、運営権という方法を選択したはずではなかったのか。だからこそ、風評被害を広めてはいけないと言って安全性を盲信する前に、まず、詳細を公表して欲しい。それこそ国が責任をもって、なぜ安心か、どういうチェックをしたのか、ということを丁寧に説明すべきだ。
関空の民営化を「自分の手柄」と吹聴していた橋下徹はうってかわって沈黙
いずれにしても、関西空港の未曾有の機能喪失と混乱は、歪な民営化やその後のプロパー社員の退職と決して無関係ではないだろう。前述した空港閉鎖決断の遅れやタンカーの給油強行なども、経営効率を優先するあまり、安全性を軽視して犯した判断ミスなのではないかという気がしてならない。
当時の状況からして、民営化そのものを否定するつもりはないが、業者の選定も含め、インフラに不可欠な安全性への意識が低かったことは明らかだ。
ところで、この関空の民営化をついこの間まで、自分のお手柄だと吹聴していたのが、ほかでもない橋下徹・元大阪市長だ。最近も、雑誌「正論」(産経新聞社)で、「僕も首長時代に少しは「実行」できたという自負があります。関西国際空港の経営改善策として(中略)伊丹空港と関空の経営統合を実現しましたが、それが今、関西経済にプラスに働いています」「いちいち国民が政治家さまのおかげですと感謝するのはおかしいですからね。ただ、僕からすると寂しい気持ちも正直あって、ついこの間も前原さんと空港について振り返った時、「結構、政治家ってむなしいですよね」という結論に達しました(笑)」と自慢げに語っている。
しかし、筆者は当時、民営化のプロセスをかなり深く取材していたが、橋下氏が積極的に本件に関わった、という話を知らない。橋下氏は前原大臣のスキームに乗っかって、大阪市や大阪府の関西国際空港株売却に同意したという程度の認識しかなかった。だいたい当初は関空に米軍基地をと言っていたくらいなのだから。
まあ、それでも、橋下氏が自分の手柄と言うなら、そうなのだろう。しかし、それなら、思い入れのある関空がこんな事態に陥ったのだ。何か一言コメントしてしかるべきだろう。と思って、彼のツイッターをみているが、いまのところ、橋下氏が関空の災害に直接言及した形跡はない。
(成井公史)
最終更新:2018.09.08 12:56
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