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高畑勲監督お別れ会で号泣の宮崎駿監督…鈴木敏夫Pは「宮崎駿はただひとりの観客、高畑勲を意識して映画を作っている」と
2017年4月、東京で行われた三上智恵監督とのトークイベントでの高畑勲監督(撮影=編集部)
本日、先月5日に肺がんのため亡くなった高畑勲監督監督の「お別れ会」が三鷹の森ジブリ美術館で開かれた。
会の冒頭で、宮崎駿監督は「開会の辞」として挨拶。高畑監督27歳、宮崎監督22歳だった1963年はじめて出会い言葉を交わした日のことから、高畑監督の初監督作品であり宮崎監督にとっては初めて本格的にアニメ制作に関わった思い出深い作品である『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年公開)制作時のエピソードなどを子細に振り返り、「ありがとう、パクさん。55年前に、あの雨上がりのバス停で声をかけてくれたパクさんのことを忘れない」と、声を詰まらせながら感謝の言葉を捧げた。
「パクさん」というのは、まだ高畑監督と宮崎監督が東映動画(現在の東映アニメーション)に勤めていた時代、朝の苦手な高畑監督が始業時間ギリギリにパンをパクパク食べながらタイムカードを押す姿をよく見ていたことからつけられたあだ名。
長い付き合いであるふたりはお互いを強く信頼し合ったパートナーであり、その強い絆を表すエピソードは枚挙に暇がない。
ふたりの巨匠を支えてきた鈴木敏夫プロデューサーは「宮さんはじつはただひとりの観客を意識して、映画を作っている。宮崎駿がいちばん作品を見せたいのは高畑勲」と断言したこともあるほどだ。
宮崎監督自身もインタビューで「宮崎さんは夢を見るんですか?」という問いに、「見ますよ。でもぼくの夢はひとつしかない、いつも登場人物は高畑さんです」と答えたことがある。
本サイトでは、2015年3月『かぐや姫の物語』がテレビで初放映された際に、宮崎監督と高畑監督の濃密な関係について紹介した記事を掲載したことがある。以下に再録するので、ご一読いただきたい。
きょう「お別れ会」で宮崎監督が語った若き日の思い出とともに、そこから生まれた日本のアニメ史において絶対に欠くことのできない巨匠二人の希有な関係性、とりわけ宮崎監督の高畑監督への強い思いをあらためて知ってほしい。
(編集部)
宮崎駿が高畑勲『かぐや姫』を「あれで泣くのは素人」とディス!? でも本音は…
本日、高畑勲監督の『かぐや姫の物語』が日本テレビで放送される。先日のアカデミー賞では残念ながら受賞とはならなかったが、あのピクサーのジョン・ラセターをはじめ、世界が唸った作品がテレビで初放送されるということで注目を集めている。
とはいえ、ラセターも大絶賛しながら「内容はアートだ。アメリカではアート系映画館で公開するべき」と評した本作。日本のお茶の間がどのようなジャッジを下すかは未知数ではあるが、この『かぐや姫の物語』に対し「この映画で泣くのは素人だよ!」と声を荒げた人物がいる。そう、高畑の同志である宮崎駿だ。
このエピソードを披露した人物はスタジオジブリの鈴木敏夫だが、長年の付き合いがある彼でも「(発言の)意味がわからない。じゃあ玄人の映画って何なのと思って」と首を傾げる。事実、宮崎は『かぐや姫の物語』の評価を口にしておらず、それどころか噛みつくような発言しか残していない。たとえば、昨年「文藝春秋」2月号に掲載された宮崎・高畑・鈴木の鼎談では、『かぐや姫の物語』の感想を尋ねられた宮崎は開口いちばん、こう話し出す。
「『かぐや姫』を観たときにね、長く伸びた竹を刈っていたでしょう。筍というのは、地面から出てくるか出てこないときに掘らなきゃいけないんじゃないかとドキドキしたんですけど」
作品の感想を訊かれているのに、竹の話。高畑は「真竹だからあれでいいんですよ。孟宗竹だったら宮さんの言うとおりなんですけど、当時、孟宗竹は日本にはまだ入ってきていない。ちゃんと調べたんです(笑)」と反論しているのだが、その後も宮崎は高畑のスケジュール無視の制作スタイルに「いつもそうなんだ(笑)」と苦言を呈し、高畑が本作でこだわり抜いた「線」の表現についても、「たしかに生き生きとしたラフ画を画面にしていくと良さを失うのは、僕らもよく経験することです。でも、ヘボな絵がそれなりに見えるようになるのも、アニメーションなんですよ。それが嫌だったら、アニメーションの仕事をやっちゃいけないと僕は思います」とキッパリ。
これだけを読むと、宮崎と高畑は不仲のようにも見えるが、決してそうではない。むしろ、過去の発言や行動を拾い上げていくと、宮崎はまるで高畑に恋をしているのではないかと思うほどに気になって仕方がないようなのだ。
たとえば、『風の谷のナウシカ』の映画化の際、宮崎が鈴木に出した条件は「高畑勲にプロデューサーをやってもらいたい」ということだった。だが、肝心の高畑は首を縦に振らず、鈴木は2週間も高畑のもとに通い詰めるハメに。そんなある日、鈴木は高畑から大学ノートを一冊手渡されるのだが、そこには映画や演劇のプロデューサー論がびっしりと書かれてあったという。そして最後の一行は「だから、ぼくはプロデューサーに向いていない」。……理論派として知られる高畑とはいえ、さすがにこれでは断りの理由にはなってないだろとツッコまずにいられないが、これに大きなショックを受けたのは無論、宮崎である。酒を口にしないはずの宮崎が「鈴木さん、お酒を飲みに行こう」と誘い出したという。
〈飲み屋に行ったら、宮さん、日本酒をガブ飲みするんですよね。ぼくはもうびっくりしました。それまでぼくが見たことのない宮崎駿です。それで酔っぱらったんでしょう、気がついたら泣いているんです。涙が止まらないんですよ。(中略)そして、ポツンと言ったんです。「おれは」と言い出すから、何を言うかと思ったら、「高畑勲に自分の全青春を捧げた。何も返してもらっていない」。これには驚かされました。ぼくも言葉が出ないし、それ以上は聞かなかった〉(鈴木敏夫『仕事道楽』より引用)
全青春を捧げたのに──。まるで昭和の女が男に捨てられたかのような台詞だ。結局、宮崎の落ち込みの深さを見てしまった鈴木が「宮さんがここまでほしいと言っているんですよ。友人が困っているのに、あなたは力を貸さないんですか」と高畑に大声で怒鳴り、「はあ、すいません。わかりました」と高畑は渋々プロデューサーを引き受けたらしい。
また、宮崎の『となりのトトロ』と高畑の『火垂るの墓』を同時制作していた際には、宮崎は高畑が文芸作品をつくっていることを意識しはじめ、突如「おれも文芸やる」宣言。挙げ句「ネコのバスなんて出してられないですよ、あんなもん出したら文芸作品じゃない」とまで言い始めたから、再び鈴木は頭を抱えることに。だが、困った鈴木が宮崎の“ネコバスやめる”発言を高畑に伝えると、高畑は一言「もったいないじゃないですか」。これは使える!と踏んだ鈴木は、さっそく宮崎に高畑の感想をそのまま伝えると、案の定、宮崎はあっさり「じゃ、出す」と前言撤回したという。
さらに、鈴木が『爆笑問題の日曜サンデー』(TBSラジオ)に出演した際に明かした話によれば、『かぐや姫の物語』制作時も宮崎は自身のスタジオから離れた高畑組のスタジオにも顔を出し、高畑がアニメーターの絵にダメ出しする場面をこっそり隠れて盗み聞き。そして、宮崎は自分の席に戻るなり、高畑がアニメーターに注文していた絵を頼まれてもいないのに描きはじめた。それを仕上げると、くだんのアニメーターのところに出向き「こういう絵を描くんだ!」と教えたのだという。もちろん、この宮崎の行動を高畑は知らない。爆笑問題のふたりは「えー、かわいい!」「片想いの女の子みたい!」と興奮し、鈴木も「宮さんってほんとに一途なんですよ」と解説していたが、これは70絡みのオッサン、いやジジイの話であることを忘れてはいけない。
こうした宮崎の過剰な“高畑ラブ”の様子は、2013年に公開されたスタジオジブリのドキュメント映画『夢と狂気の王国』でも存分に映し出されている。あるときは高畑を賞賛し、あるときは「パクさん(高畑のニックネーム)は性格破綻者」と罵る。──監督のナレーションによれば「宮崎さんは一日に一度は必ずパクさんの話を口にし続けていた」というほどだ。実際、宮崎はあるインタビューで「宮崎さんは夢を見るんですか?」という問いに、「見ますよ。でもぼくの夢はひとつしかない、いつも登場人物は高畑さんです」と答えていたことを鈴木は著書で披露している。一途というよりも愛のかたちが強迫的すぎて、そろそろ恐ろしくなってくる話だ。
そもそも、ふたりの出会いはいまから約50年前、宮崎が1963年に東映動画に入社したことに始まる。59年に入社していた先輩の高畑は宮崎の才能に着目し、『太陽の王子 ホルスの大冒険』(68年公開)を皮切りに、東映動画退社後もタッグを組んで『パンダコパンダ』や『ルパン三世』『アルプスの少女ハイジ』『母をたずねて三千里』といった名作アニメ映画・テレビシリーズを手がけていく。だが、演出・高畑、作画・宮崎というコンビ関係が長く続いたことが、宮崎の監督としての才能を遅れ咲きにさせたのではないか、という見方もある。宮崎が本格的に演出を手がけたのは『未来少年コナン』だが、このときすでに宮崎は37歳だったからだ。
しかし、宮崎はこうした意見に、真っ向から反論している。
「ある人に言われたことがあるんですよ。高畑さんに会わなければ、宮崎さんはもっといろんな仕事をされたんでしょうねって。「え?」って言ったんだけどその意味がわからなかった。でもずっとあとになって意味がわかりましたけど、何をばかなこと言ってるんだってやっぱり思いますね。だって僕自身もアニメーターであることに全然不満がなかったですから。そういう形での自我の発露とか、自己顕示欲とか、個性の発揮とか、そういうレベルで仕事を考えてたら、もっとつまんないものしかできなかったと思うんですね」(キネマ旬報「宮崎駿、高畑勲とスタジオジブリのアニメーションたち」より引用)
宮崎はよく『アルプスの少女ハイジ』のすばらしさを語るが、たしかに『ハイジ』には高畑、宮崎作品の基本となるものが詰まっている。演出を手がけた高畑との共同作業のなかで、宮崎がその後の宮崎アニメの土台となる大事なものを吸収し、高畑との相乗効果で才能を発揮させていった。若い日々の強烈な体験は歳を経ても色あせないというが、だからこそ宮崎にとって高畑は、永遠の先輩であり、ライバルであり、全青春を捧げた愛する人なのだろう。そして、それは宮崎の片想いではない。高畑は宮崎の著書『出発点 1979~1996』(スタジオジブリ)に、こんなメッセージを寄せている。
〈宮崎駿はすごい働き者である。彼によれば、わたしは「大ナマケモノの子孫」らしい。枝にしがみつきたがるわたしの三ツ指を、よってたかってひきはがしてくれたありがたい仲間は多いけれど、なかでも宮さんは特別である。第一に彼自身の猛烈な労働と惜しみない才能の提供によって。第二にそれが生み出すおそるべき緊張感と迫力によって。わたしの怠け心を叱咤し、うしろめたさをかき立て、仕事に追い込み、乏しい能力以上のなにかを絞り出せたのは、宮崎駿という存在だった。とくに若いころの彼の献身的で無私の仕事振りに日々接することがなかったならば、わたしはもっと中途半端で妥協的な仕事しかしなかったにちがいない〉(「エロスの火花」96年)
WOWOW制作のドキュメント『高畑勲、『かぐや姫の物語』をつくる。~ジブリ第7スタジオ、933日の伝説~』には、『風立ちぬ』を観たあと、高畑が静かに興奮した様子で「人がくる……うんと宣伝したほうがいい。面白いもん」と語る場面がおさめられている。宮崎、高畑の特異な関係性を利用(!?)してふたりの巨匠を巧みにコントロールしてきた鈴木は、「宮さんはじつはただひとりの観客を意識して、映画を作っている。宮崎駿がいちばん作品を見せたいのは高畑勲」と断言しているが、はたして、宮崎はこの高畑の『風立ちぬ』に対する素直なつぶやきをどんなふうに受け止めたのだろうか。
ちなみに、宮崎はご存じの通りすでに引退宣言を行っているが、じつはその引退記者会見の直前に制作中だった『かぐや姫の物語』を観て、宮崎は突然、態度を変えたのだと鈴木は言う。それまでは引退発表に前のめりだったのに、「なんで俺、引退記者会見やるんだよ」「俺は全面引退なんて言ってないよ」と言い出したというのだ。
一説には、高畑は「平家物語」の映画化に意欲を示しているとも囁かれているが、そうなれば宮崎が黙って見ているはずがない。ジブリ復活の鍵は、やはりまだまだこのふたりが握っているのだろう。
(大方 草)
最終更新:2018.05.16 04:51
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