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「女性専用車両は男性差別」と車両乗り込み運動をする男たち…痴漢犯罪の現実を無視した女性憎悪
東京メトロホーメページより
女性専用車両は男性差別だ──。ここ最近、女性専用車両をめぐって問題が多発している。2月16日には東京メトロ・千代田線の女性専用車両に男性数名が乗り込みトラブルとなり、電車が12分遅延。目撃者によるネット上への報告によると「これは権利」「俺たちは間違っていない」などと主張していたという。
さらに、このとき女性専用車両に乗り込んだ男性を含むとみられるグループが24日、渋谷駅前で女性専用車両に反対する街頭演説をおこなおうとしたが、予定を知って集まったカウンターから「帰れ!」コールが起こり、街宣は実施されずに終わった。
しかし、このような女性専用車両に反対するべく専用車両に乗り込んではトラブルを起こす男性は少なくなく、注意を促す女性や駅員の姿を動画におさめてネット上に晒すという行為を楽しんでいる人物もいる。ネット上では「女性専用車両は男性差別」という主張に同意を示す人たちも多い。
24日に渋谷で女性専用車両に反対する街宣をおこなおうとした人物で、「差別ネットワーク代表」の「ドクター差別」こと兼松信之氏は、産経のオピニオンサイトである「iRONNA」の寄稿文のなかで、こう主張している。
〈私、「ドクター差別」は週に1回か2回、仲間と一緒に、あるいは単独で「女性専用車」に乗車します〉
〈「動機」は単純です。鉄道会社が「乗れる」と言っているからです。ですから、何かトラブル等が起こって、鉄道係員に説明が必要な場合には「もし、鉄道会社が『男性は乗れない』と言うのなら、乗らない」と申し上げています。「わざわざ」乗っていますが、「無理矢理」乗っているわけではありません〉
〈私は「男性差別と同様、女性差別にも反対」ですし、「痴漢対策には大賛成」です。ただし、「女性差別を解消すると称して、男性差別をするのは大反対」ですし、「痴漢対策と称して、男性対策をするのは大反対」なわけです〉
たしかに、「男性である」という理由だけで痴漢犯罪者ないしは予備軍として見られることに気分を害することはあるだろう。しかし、ではなぜ女性専用車両ができたかといえば、ご存じのように、女性に対して男性が痴漢をはたらくという性犯罪が横行しているからだ。この大前提をほとんど無視して「男性差別」を訴えることは、痴漢は重大犯罪だという認識に立っていない証拠であり、同時に女性に対する差別を助長・是認する行為である。
痴漢被害にあっても約9割の女性が「泣き寝入り」する現実
まず、「痴漢対策と称して、男性対策をするのは大反対」というが、繰り返すが、痴漢被害者は圧倒的に女性であり、痴漢犯罪の半分以上が電車内で発生している。さらに、警視庁が2011年に公表した「電車内の痴漢防止に係る研究会の報告書」によると、2009年に電車内で起こった「強制わいせつの認知件数」は340件、「迷惑防止条例違反のうち痴漢行為の検挙件数(電車内以外を含む)」は3880件にものぼる。しかし、これは氷山の一角に過ぎない。同報告書のネット調査では、「過去1年間に電車内で痴漢被害に遭った」と回答した女性304人のうち、「痴漢被害に遭っても警察に通報・相談していない」と答えた人は271人。つまり、約9割の女性が「泣き寝入り」しているのだ。
これだけ痴漢が横行してきたのは、痴漢を「迷惑行為」「魔が差したもの」「軽いいたずら」などと犯罪と見なさない社会の空気が、性被害は声をあげづらいという女性の立場につけ込む加害者を許してきた結果だ。
事実、鉄道会社が貼り出している「痴漢は犯罪です」という、至極当たり前のことが書かれたポスターでさえ、「性暴力を許さない女の会」による粘り強い活動があって実現したものだった。そして、この会が発足したのは、1988年に大阪の地下鉄で、痴漢をはたらいていた男性2人組に対して注意をおこなった女性が、この男性たちに強かんされるという卑劣な事件が発生したことがきっかけだった。
だが、女性たちが痴漢は女性の尊厳を傷つける問答無用の犯罪だと訴えても、痴漢は一向になくならない。2006年には特急車内で、男が「逃げると殺す」などと脅し、女性を車内トイレで強かんした事件が発生。このとき、ほかの乗客も異変に気づいていたというが、車掌に通報する者はいなかったという(この男はさらに別の日に、普通電車内や下車した駅構内のトイレで1日に2件の強かんを犯し、逮捕された)。
こうした事件は「特異な例」などではなく、鉄道車内が性犯罪の温床であることを意味している。しかも近年は、ネット掲示板でメンバーを呼びかけて集団で痴漢をはたらく悪質なケースも増えており、最近でも2017年11月に30~40代の男4人が強制わいせつの疑いで逮捕されている。
レディースデーまで攻撃!「女尊男卑」を叫ぶ男たちの倒錯
痴漢という女性を狙った男性による「犯罪」が後を絶たない。そういう状況下で鉄道会社は女性専用車両を導入しているわけだが、それはけっして根本的な解決策ではないことは言うまでもない。あくまで通学・通勤のたびに犯罪リスクに晒される女性たちに対する、最低限の安全措置でしかないのだ。だいたい専用車両は、「男性を排除」するというより被害者である女性を「隔離」するもので、痴漢を容認する対策だという批判もある。
しかし、女性専用車両に反対する者は、痴漢犯罪に遭った被害者女性の心情や、犯罪が横行する状況を軽視・無視する。それどころか、女性専用車両と同列で「レディースデー」「女性専用フロア」「女性専用マンション」といったものを挙げ、「女性優遇」「女尊男卑だ」と言う。「レディースデー」は女性の顧客開拓のサービスでしかなく、「女性専用フロア」「女性専用マンション」は痴漢と同様、性犯罪リスクに対処するための防犯が目的のもので、男性を差別しているようなものではないのだが、このようなものまで許せないと言うのは、もはや「女性に対する憎悪」しか感じられない。
男性というだけで乗車できない車両があることを「男性差別」と言うのならば、この状況をつくり出している痴漢犯罪者を憎むべきで、女性専用車両を非難するのはお門違いだ。女性専用車両に反対する前に、やれることはたくさんある。痴漢を含む性犯罪のさらなる厳罰化、警察と鉄道会社の連携強化を訴えることもできるし、男性の立場から「痴漢を犯す男は最低最悪のクソ野郎」という啓発活動を街宣することもできる。男性たちがそうして連帯してくれることを、女性たちは大いに歓迎するだろう。最後にもう一度言う。憎むべきは、痴漢犯罪者なのだ。
(田岡 尼)
最終更新:2018.10.18 01:53
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