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全国各地の神社が初詣客を狙って改憲の署名集め! 日本会議・神社本庁が指令、戦前復活の目的を隠す卑劣な手口
神社本庁公式サイトより
お正月といえば初詣。今年も神社へお参りして、一年の安寧や健康を祈った人も多いだろう。おみくじを引いたり、絵馬に願い事を書き込んだりした人もいるはずだ。最近は神社好きの女子、神社ガールなども登場して、若者人気も高まっている。だが、そんな善男善女で賑わう場所で、今、不穏な動きが表面化している。
それは“憲法改正に賛同する署名活動”だ。これが、なんと神社の境内で行われているのである。しかも、怪しげな市民団体が勝手にやっているという話ではい。驚くことに、その主体は神社そのもので、参拝客をターゲットに署名を集める“政治運動”を展開していたのだ。
まず、筆者が出かけたのは、東京港区の乃木神社。明治天皇崩御に際し殉死した乃木希典将軍を祀ったこの神社は、参拝客でごったがえしていたが、入り口に足を踏み入れると、たちまち、「誇りある日本をめざして」「憲法は私たちのもの」などと書かれた奇妙なのぼり旗が目に飛び込む。さらにその付近に設置されたテントでは、額縁に入った櫻井よしこ氏のポスターが鎮座! 「国民の手でつくろう美しい日本の憲法」「ただいま、1000万人賛同者を募集しています。ご協力下さい」なる文言とともに微笑む櫻井氏に、新年からめまいを覚えたが、そこにはA4の署名用紙と箱が置かれていた。
神社に設置された改憲署名ブースの例(東京都港区乃木神社の入り口)
職員に聞いてみると、この署名活動は、何も乃木神社のみで行われているわけではないという。実際、乃木神社の近くにある赤坂氷川神社にも行ってみたのだが、やはり、門には櫻井氏のポスターが貼られ、本殿前の賽銭箱のすぐそばには例の署名用紙と箱が置いてあった。多くの参拝客はスルー状態であったが、それにしても、初詣のなごやかな雰囲気からすると完全に“異物”である。
櫻井よしこ氏の改憲ポスター(東京都港区赤坂氷川神社の門)
結局、その後、区をまたいで都内神社を計10社ハシゴしてみたところ、実に4社の境内でこの“署名ブース”の存在が確認できた。
ネット上でも、全国各地の神社で署名活動の目撃情報があがっている。かなり広範囲の運動であることは間違いなさそうだ。
さらに、聞き込みを進めていくにつれ、この署名活動は、組織ぐるみ、全国規模で行っていることが明らかになった。
「署名は神社庁が決めて、神社界全体で、全国的にやっていることです。すべての神社が神社庁に所属しているわけではないので、署名をしていないところもあるでしょうが。いつまで続けるのか? お正月は参拝される方が多いので、ひとまずの間は、というところですかね」(都内神社職員)
署名用紙をよく見てみると、クレジットには「東京都神社庁」とある。これは「神社本庁」の地方機関だ。神社本庁とは全国約8万社の神社を統括し、〈祭祀の振興と神社の興隆、日本の伝統と文化を守り伝えること〉を目的とする組織(神社本庁HPより)。
実際、また、別のある区の神社職員はこう語ってくれた。
「神社庁のほうで決まったことで、区の神社の会合で話し合ってやることになりまして。秋には1万人の集会がありましたしね」
この職員がいう昨秋の「1万人の集会」というのは、11月10日に日本武道館で開かれ、本サイトでもその模様をレポートした「今こそ憲法改正を!1万人大会」という“改憲大集会”のことを指すと推察される。
同大会の会場には、大勢の国会議員が詰めかけ、安倍首相も改憲への意気込みをビデオメッセージで寄せていた。大会の主催は、表向きには「美しい日本の憲法をつくる国民の会」なる団体だが、共同代表として櫻井よしこ氏とともに、田久保忠衛・日本会議会長、三好達・日本会議名誉会長の名が連なるように、中心は日本会議だ。
そして、同会が目指しているのは1000万人の改憲賛同署名である。HPには、こうある。
〈憲法改正には国会発議とともに、国民投票で過半数(約3,000万票以上)の賛成が必要となります。そのため、私たちは今、「美しい日本の憲法をつくる1,000万人賛同者(ネットワーク)」を全国に呼びかけています。美しい日本を大切な子供たちに伝えていくため、どうか皆さんご協力ください。〉
ようするに、初詣でみかけた境内の署名活動は、日本会議と神社本庁による憲法改正運動のための「1000万人賛同者ネットワーク」の一環だったのだ。
事実、神社で見かけた“櫻井ポスター”には、はっきりと「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の名称が記載されていた。そして、同会の代表発起人のひとりには、神社本庁総長である田中恆清氏の名前が記されていた。
読者のなかには「どうして神社が?」と疑問に思う人もいるだろう。だが、神社本庁は「神道政治連盟」という政治団体を傘下に置き、多数の政治家を支援しているのだ。その影響力は凄まじく、実際、「週刊朝日」(朝日新聞出版)15年10月23日号によれば、現安倍内閣の25人中22人が「神道政治連盟国会議員懇談会」に所属。とりわけその会長を務める安倍首相は、神社本庁と切っても切れない存在なのだ。
しかも、「神道政治連盟」のHPをのぞくと、こんな主張や活動内容がでてくる。自主憲法の制定、靖国神社での国家儀礼の確立、道徳・宗教教育の推進、東京裁判と侵略戦争の否定、A級戦犯の擁護、夫婦別姓反対、ジェンダーフリー反対、皇室と日本の文化伝統の尊重……。
これだけでも、ゴリゴリの右派団体であることがよくわかるが、神社本庁の機関紙「神社新報」などからその改憲の主張を見ると、彼らの危険性がさらに見えてくる。
そのひとつが「祭政一致」だ。これは、天皇が親政を行い、政府はそれを輔弼するにとどめるという、大日本帝国憲法で明文化されていたもの。さらに、神社本庁は、新たな憲法では軍の「統帥権」をも天皇に帰属させるべきだという主張もしている。詳しくは本サイトの過去記事をご覧いただきたいが、天皇の「統帥権」は、戦前日本の軍部がそれを大義名分にすることで、政党政治を抑えて暴走するきっかけを生み出した。そして、日本の戦争犯罪の数々が“皇軍”の名のもとに正当化されていったことはいうまでもない。
ところが、「神社新報」2008年10月27日付「憲法の基礎となる神道精神を考える」という記事のなかで、神道政治連盟の田尾憲男・首席政策委員は憲法改正の目的として、「統治権の総攬者としての天皇の地位恢復」「表の政治機能と裏のお祭りが一体となって国が治まる」などと、その復活を主張しているのだ。
さらに、この祭政一致とセットで神社本庁が狙っているのが「国家神道」の復活だ。国家神道というのは、日本の近代化にともなって推し進められた神道国教化政策のこと。この国家神道から、国民には天皇への絶対的な忠誠が強要され、日本だけが他の国にはない神聖な国のあり方をもっているという「国体」という観念が生まれた。そして国体は八紘一宇という思想に発展し、侵略戦争を正当化していった。
しかし、敗戦後の1945年12月、GHQは神道指令を発布。神道は民間の一宗教法人とされた。その後公布された日本国憲法では、第20条の1項と3項で厳しく政教分離が定められた。
1. 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
3. 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
神道指令とこの日本国憲法により、国家神道は廃止されたわけだが、神社本庁はその復活を目論み、自らの支援する神道政治連盟所属の自民党議員に働きかけてきた。
実際、自民党が2012年に発表した憲法改正草案では、天皇の地位を「象徴」から「元首」に改める第1条以外にも、政教分離を定めた第20条の1項と3項がこのように変更されている。
1. 信教の自由は、保障する。国は、いかなる宗教団体に対しても、特権を与えてはならない。
3. 国及び地方自治体その他の公共団体は、特定の宗教の為の教育その他の宗教的活動をしてはならない。ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない。
現行憲法は宗教団体“が”「政治上の権力を行使」することを禁じているが、自民党案20条1項では、その部分を削除している。つまり、宗教団体が「政治上の権力を行使」することが可能になるのだ。また、3項の「社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない」というのも、神道にのみ政治活動への一体化を容認するものだ。
もうお分かりだろう。安倍政権による改憲は、まさに祭政一致と国家神道の復活を宿願とする神社本庁の意向を反映したものなのだ。そして、神社本庁は今回、この危険極まりない改憲を何も知らない初詣客に賛同するよう呼びかけている。
しかも、卑劣なことに、くだんの署名用紙には、上述した祭政一致、国家神道復活の目的などは一切書かれていない。それどころか、現在の憲法がどのように変わる可能性があるのか自体、まったく記述がないのである。「賛同署名のお願い」と題されたそのA4の用紙に書かれているのはこれだけだ。
〈憲法の良い所は守り、相応しくなくなった所は改め、憲法の前文に日本らしさを表現し、美しい国土を守り、家族が心豊かに生活できる社会をつくりましょう。誇りある日本と子供たちの未来のために…〉
日本らしさ、美しい国土、家族が心豊かに……そんな抽象的な美辞麗句を並べ立て、なんとなくポジティヴな印象だけ与えて署名を募っているのだ。神社本庁が目論む本質はネグられたまま、署名の“数”だけを増やし、その数を既成事実として改憲の機運を拡大させていくつもりなのだろう。
はたしてこんなことが許されるのか。改めて言うまでもなく、神社というのは、そのへんの新興宗教団体とはわけがちがう。初詣、七五三、夏祭り、秋祭りなどは、大衆の生活に根付き、それこそ「社会的儀礼又は習俗的行為」となっている。そこに、無音で改憲という最も大きな政治イシューを持ち込み、説明もないまま賛同の署名をさせようとする。このやり方はほとんど詐欺ではないか。
そもそも、神社本庁という宗教法人が政権と一体化するかたちで改憲というあきらかな政治運動をしていること自体、憲法20条に反している可能性もある。本サイトは改憲を目論むこの極右政治集団の動きを、今後も徹底追及していくつもりだ。
(梶田陽介)
最終更新:2016.06.21 02:13
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