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原節子の知られざる素顔! ナチスとの関係、ユダヤ陰謀論の極右思想にはまり「謀略だ」と映画中止要請の手紙を
週刊誌もこぞって特集を組んだ原節子の死だが…(朝日新聞出版「週刊朝日」12月11日号より)
今年11月25日、9月5日に逝去していたことが明らかとなった原節子。日本映画の黄金期を代表する大女優として、その死はマスコミを賑わせた。
1935年、15歳の時に『ためらふ勿れ若人よ』(田口哲監督)でデビュー。以来、1962年に『忠臣蔵 花の巻・雲の巻』(稲垣浩監督)に出演しての引退までに出演した映画は107本。小津安二郎監督とのコンビワークによる『晩春』『麦秋』『東京物語』『東京暮色』などがある。
「永遠の処女」とも呼ばれた彼女だが、引退後は義兄熊谷久虎監督が建てた、鎌倉市浄明寺の家にひっそりと住んでいた。引退後も近隣住民にはときどき見かけられていたというが、公的に表に出ることはなく、95歳で世を去った。
そんな原だが、謎多き女優でもあった。
たとえば恋愛ゴシップでも、次姉の夫である熊谷監督との関係が囁かれたり、また小津監督との関係が囁かれた。
だが、恋愛関係のゴシップ以上に謎が深く、興味深いのは、彼女の戦前から15年戦争期の動きである。1936年に日独防共協定が締結され、それを記念した日独合作映画として1937年に制作された『新しき土』(アーノルド・ファンク監督)に原が主演女優として抜擢されたこと、またその映画の商業的成功によりナチスに招待され、ドイツを訪れ、ゲッベルス宣伝相とも談笑した、といったことが明らかにされている。
この映画の出演に対して、原は戦後の1948年の時点で、
「『新しき土』の映畫にもられたものは、おそらく、その頃の政治的な深い内容があつたことでしよう。少女のわたしには、もちろん、何一つ判らず、まるで人形のように動いていただけだつたのですが」(原節子「このままの生き方で」)
と述べている。
だが、原は戦時中、「人形」というにしては独特のスタンスを戦争に対して持っていたようなのだ。『青い山脈』『ひめゆりの塔』などで知られる今井正監督が興味深い発言を残している。戦時中の朝鮮で、日本の立場から朝鮮と満州の国境警備隊とゲリラの戦いを描く戦意高揚映画『望楼の決死隊』という映画のロケをしていた時の話だが、原節子からユダヤ謀略論を主張する手紙を受け取ったというのだ。
「原節子がやってきて、今井さん、これ兄からですって封筒を差し出すんです。(中略)その手紙には、日本は全勢力をあげて南方諸国に領土を確保しなければならない、その時に日本国民の目を北にそらそうと目論んでいるのはユダヤ人の陰謀だ、この『望楼の決死隊』は日本国民を撹乱しようとするユダヤの謀略だから即刻中止されたいというようなことを書いてあった」(『戦争と日本映画 講座日本映画4』岩波書店)
この「兄」というのは、前述した原との恋愛関係も噂された次姉の夫・熊谷監督のこと。熊谷は旧日本陸軍の鉄道連隊の兵士と、彼を指導する老機関士の交流を描いた1941年の映画『指導物語』が名作とされる監督だが、彼は「スメラ学塾」という「日本・シュメール起源説」を唱える極右団体の重鎮でもあった。
スメラ学というのは、戦時中の日本において高級軍人や学者、文化人などの間に一定の支持者を持っていた論で、その趣旨はメソポタミアのシュメールが西方に移動し、日本で神武天皇をいただく神政国家を作り上げたこと、ユダヤ金融資本に支配されたアメリカなどと対決し、日本がスメラ文化圏を作り上げるべき、というものだった。
あの原節子がユダヤ陰謀論を?と信じがたい思いだが、今井監督は、同書の中でこう続けている。
「(熊谷監督は)そのころからだんだんおかしくなって、すめら塾(ママ)って極右団体に入って、かなりえらいところまで行ったんじゃないの。だから、その影響で原節子までユダヤ人謀略をとなえるありさまだった」(前掲書)
熊谷監督は原との恋愛関係を噂された男性の中で、もっとも信憑性が高いとされる相手だが、思想的にも大きく影響を受けてしまったということなのだろうか。
実際、原はこのスメラ学塾が結成した劇団・太陽座にも所属していたという。
この劇団がどの程度の活動をしていたのかは不明だが、その創立案内状には、その結成趣旨が以下のように記されている。
「英米撃滅の聖戦はいよいよ激しく、ますます進められていく(中略)この人類史上初つて以来の大戦果に相応しき大東亜の規模に於いて、その指導民族、強大日本に相応しき大演劇の樹立、又緊急必須の問題であること論をまたない」(『原節子「永遠の処女」伝説』本地陽彦/愛育社より)
そして、そのためには「上代日本文化の燦然たる輝き」に「日本精神美の源泉」を見出し、それを基軸とした国民演劇の樹立を目指すものであったという。
スメラ学塾の重鎮である熊谷への私淑、太陽座への所属……。戦後の原はこれらの活動については一切語っていないため、その本心は分からない。だが、熊谷との関係、今井の証言などを併せて考えれば、戦中の原は案外本気でユダヤ謀略論などを唱えていたのではないだろうか。
原が日本映画の歴史の中に残した輝かしい軌跡は否定できないが、このような事実もまた、日本映画史、ひいては日本の侵略戦争や近現代史を考える上で見落とすことはできないだろう。
(高幡南平)
最終更新:2015.12.30 05:31
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