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ミスチル・桜井和寿の“ボカロは音楽だけどアイドルは音楽ではない”発言に疑問を呈す!
映画『Mr.Children REFLECTION』公式サイトより
2月に3週間限定で劇場公開された映画『Mr.Children REFLECTION』がヒット、6月には約3年ぶりのアルバムをリリースする予定のMr.Children。プロデューサー・小林武史から“独り立ち”し、今後の活動に注目が集まる彼らだが、いま、桜井和寿の“アイドル否定発言”が話題となっている。
桜井氏の発言というのは、今年1月に発売された音楽誌「MUSICA」(FACT)1月号に掲載されたインタビューでのもの。まずはこの“アイドル否定”と呼ばれている発言にいたるまでの流れを紹介しよう。
まず、インタビュアーであり「MUSICA」発行人の音楽評論家・鹿野淳氏が、昨今の音楽シーンの変化について問い、桜井氏は「好きになったものとかが結構いっぱいあって」「amazarashiとか凄い好きだけど、それをシーンと言うかって言ったら、シーンじゃない気もするし。BUMP (OF CHICKEN)以降の流れとして見てるし」と回答。つづけて鹿野氏が「VOCALOIDとかは?」と質問すると、桜井氏は「VOCALOIDになるとちょっと違うっていうか……」と言葉を濁すのだ。
「なんて言うか、違うプロレス団体見てる感じがしちゃうから、なんとも思わなくなってくるんだけど。ただ、子供がVOCALOID系の『カゲロウプロジェクト』とかいうのが好きで。あのPVとか観てると、やっぱり情報量がもの凄く多いし、同時に『これは自分の中で取り込めない分野ではないな』と思いながら見てはいるけど」
たしかに、“音楽をつくり、プロモーションし、CDにして売り、ライブを行う”というシステムのなかで活動してきた桜井氏にとっては、新たな音楽シーンを形成するボカロは「違うプロレス団体」という認識になるのだろう。だが、カゲロウプロジェクトを「取り込めない分野ではない」と思うあたり、ある程度、評価はしているようだ。
しかし、これがアイドルの話題になると、桜井氏の言葉は険しくなる。
鹿野氏がこの5年を振り返り、ミスチルがテレビなどで共演するのがシンガーソングライターよりもアイドルが多くなっているような状況を挙げ、「そのへんの風は、どういうふうに体に吹いてるんですか?」と問いかけると、桜井氏はこう述べるのだ。
「いや、もう全然吹かないです。本当に違うものだと思ってるし、どう捉えていいのかもよくわかんないし。かつてブロマイドを売ってた職種の人達がCD売りましたっていう話だから、音楽界の話ではないんだろうなっていう。それははっきりと思っています」
アイドルのヒットは音楽界の話ではない──この発言が“アイドル否定”と受けとられ、ネット上では「桜井がAKB48を敵視している」「いや、ミスチルの連続首位記録を止めたSexy Zoneのことだろ」と憶測する声が続出。「週刊アサヒ芸能」(徳間書店)にいたっては、桜井氏の妻が元ギリギリガールズのメンバーであることから、「(桜井は)女性アイドル自体は好きなはずなんですが……」という音楽ライターのコメントまで紹介している。
さすがにAKBやSexy Zoneを目の敵にするほど桜井氏は大人げない人間ではないと思うし、事実、過去にTRICERATOPSのライブに出演した際、桜井氏はAKBの「ヘビーローテーション」をカバーしている。このインタビューでも、「Mr.Childrenの役割って、大衆というものに向けて(中略)ど真ん中で響かせていきたいっていう感じなんですよね」「音楽としてはみんながサビを歌えるような、そんな曲を響かせたいっていう想い、それがど真ん中ってことで」と桜井氏が話しているように、音楽の大衆性という意味においてはアイドルソングも評価してはいるように思える。
ただ、桜井氏の発言から漂う“自分たちとアイドルは同じ土俵にはない”感には、いささか疑問を感じずにはいられない。というのも、「音楽を必要な人に届ける」という点では、このいまの時代、アイドルのほうがずっと強度をもっているからだ。
ミスチルがブレイクしたのは、93年に発表した4枚目のシングル「CROSS ROAD」だったが、その後の「innocent world」「Tomorrow never knows」ではメッセージ性が強くなり、95年の「【es】〜Theme of es〜」では現在にいたる桜井氏のナイーブさが全面に押し出された。当時のキーワードである“自分探し”をする若者たちにとって、進むべき道を模索する桜井氏の歌詞は共感をもって大きく受け入れられたといえる。
しかし、いまもなお“終わりなき旅”をつづける桜井氏のナイーブさは、現在の若者にどれほど響くものなのだろうか。すべてがメタ化されるこの時代に生きる若者にとって、あるいは空気を読むことを強要される世界において必要とされているのは、“自分を探す”内面を描く音楽ではなく、もっと現実的な“解放”の音楽ではないだろうか。
たとえば、痛さを隠さないでんぱ組.incや、いたって真剣に「イジメ、ダメ」と使い古された言葉を叫ぶBABYMETALに限らず、歌の上手い下手といった完成度ではなく、格好悪くても全力でやりきる存在としてサバイブする、そうした実存的なアイドルたちの音楽こそが、いまの悩める若者の“魂の歌”になっているのではないか。ジャズやフォークソングが抵抗の音楽として受け入れられ、ロックミュージシャンがスターとなったように、アイドルが現在の時代に要請されているのではないか、と。
しかも、シーンの盛り上がりとともに、優秀なプロデューサーやコンポーザー、ミュージシャンたちがアイドル界に参入している現実はどうだ。高いクオリティと新しさをもつ楽曲がぞくぞくとアイドル界からは生まれているが、それはアイドルがいまもっとも「人に届ける」音楽を発信できる存在として求心力をもち、音楽制作者たちを惹き付けている証拠だろう。個人的な話で恐縮だが、筆者は“自分探し”世代の中年女で、当然、若者特有の生きづらさも抱えていないし、アイドルの握手会にもコンサートにも行ったことはないが、それでも最近、いちばん好んで聴いているのはアンジュルムの「大器晩成」である。握手券目的でなくても、アイドルソングには音楽として十分に訴求力がある。いちリスナーとしては、素直にそう思うのだが……。
前述のインタビューでは、「『音楽が魔法をかけてくれる』みたいな、そういう力を持った音楽を作れたらいいなと思うし」と語っている桜井氏。彼が芸術性や革新性に重きを置くのではなく“大衆性”にこだわるのであれば、なおのこと“アイドルは音楽界の話ではない”と片づけるのは、少し頑迷すぎるだろう。好き嫌いは別にして、それがいま、多くの人にとっての「魔法のような音楽」になっていることはたしかなのだから。
(大方 草)
最終更新:2017.12.19 10:01
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