川崎中1殺害事件も? 凶悪不良少年グループを生み出したものとは…

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川崎市の中1殺害事件について伝える日本国内のニュース(画像はYouTube「ANNnewsCH」より)


 神奈川県川崎市の多摩川河川敷で中学1年生の上村遼太君が殺害された事件が社会を震撼させている。わずか12歳の少年が不良グループに入れられたうえに、そこから抜けられず、事件当日も深夜にLINEで呼び出された末に、全裸の惨殺死体となって発見されたのだ。

 2月27日には18歳と17歳の少年3人が殺人容疑などで逮捕され、さっそく主犯と目されている少年の素顔がさかんに報道されている。

「父親はトラックの運転手で、母親とは再婚。父親の連れ子の姉との4人暮らし」「定時制高校に通ったがほとんど通学していない」「キレると何をするか分からない」「地元でも恐れられている有名なワル」

 自分より年下の少年たちを引き連れ、暴力で支配する極悪非道な不良のリーダー。多くの報道からはそんな少年像が浮かび上がる。おそらくこれから先、彼らの凶暴性、危険性がどんどん報道されるだろう。

 だが、彼らをたんなる極悪非道と非難し、凶悪な少年が起こした特異な犯罪として裁くだけでいいのだろうか。それだけで少年犯罪の真相究明や防止に役立つのか。

『家のない少年たち 親に望まれなかった少年の容赦なきサバイバル』(鈴木大介/太田出版)は、犯罪に走る少年たちの取材を通して、犯罪の陰にある彼らの生い立ちに迫ったものだが、そこで浮かび上がってくるのは彼らの悲惨な家庭環境と孤独だった。

 なぜ、彼らは不良グループを形成し、夜間に徘徊し、そして犯罪を犯したのか。

 本書の主人公的存在である龍真は16歳で少年院に入り、その後も強盗や窃盗数々の犯罪に手を染めた少年だった。龍真には“家”がなかったという。龍真はこう話す。

「(小学校入学から)しばらく同じ男の家にいて、父親が違う妹が2歳年下でいるんですけど、よく家出してたな。家にいると『うるせー』って母親からぶん殴られるから。母親が男変えて別の家に行ったら、そいつシャブ中で、母親ももともとはシャブは打ってたから、俺ら放置でアッチの世界だから」

 兄妹はその後、児童擁護施設に入る。そこで毎日顔を洗うことや磨くこと、風呂に入ることを初めて知ったという。育児放棄を受けていた兄妹はそんな習慣さえ知らなかったのだ。しかし、ここも弱肉強食の世界だった。上級生から殴る蹴るの暴行を受け、パシリとして万引きをさせられ何度も補導された。そんな龍真は中学時代からスクーターで金属バットを握りひったくりを繰り返す。

〈劣悪な家庭環境のなか、路上に放り出された少年たちがまずやるのは、決まって空腹を満たすための万引きだ。これが被害者が加害者に転じる分岐点。あとは恐喝に引ったくり、強盗……どんどん後戻りできなくなる〉

 その構図を著者は“戦後の戦災孤児”と変わらないと指摘するが、龍真もまた、中学卒業後、襲った被害者を大けがさせたことで、15歳のときに逮捕され、少年鑑別所から少年院に送られた。そこにも母親は一度も顔を出すことはなかった。

 そして、この処分についても “親”や“保護者”の存在が影響する、と龍真は言う。

「不公平だなって思いましたね。ある程度、親とかがしっかりしてるヤツはそもそも(少年院まで行かず)鑑別で抜けるし、少年院に来ても保護観察つけて早めに出てけるんですよ」

 しかし、龍真にはそうした保護者が不在のため、満期まで少年院にいるという処置がなされた。

 幼少期から親に保護されることもなく、施設でも殴られ続け、罪に対する処分でも “差別”される──。そんな龍真が、本格的な犯罪を行うのはその後だ。少年院で同じ歳の少年3人と出会い、意気投合した。この少年たちもまた親から根性焼きを入れられ、背中に火傷のケロイドを作られるという境遇だった。

 4人は2年間の少年院を経て、グループで犯罪を侵し大金を手に入れていく。そのコンセプトは“脱地元”だ。

「散々カスられた地元の先輩たちの縛りから抜け出し、あわよくば自分たちを縛り続けた先輩たちもタタいてやる」
「地元の友達と派手になんかやったら、絶対“上”がカスってくるんですよ。だったら俺らはフリーダムでやろうって」

 さらに、少年院で作った別の人脈も構築し、大手家電量販店の倉庫荒らし(ゲーム機やiPadの窃盗)、不良狩り(現金や大麻の強奪)、事務所荒らし(詐欺等を手がける事務所の金庫破り)などを次々と繰り返し、その金を使って豪遊していく。ヤクザなどの“ケツ持ち”もなく、だ。

〈劣悪な家庭環境から生き残った子どもたちは、もしくはそこから逃れた子どもたちの人生は、大きな傷を抱えたまま、そこからも延々と続くのだ〉

 同じ境遇の少年たちが集まり、居場所を見つけるように4人は結束したという。その後、2年間で分かっているだけでも2億5000万円を荒稼ぎ、残った1億6千万円を等分に分けて解散、龍真は不動産業を成功させ、もうひとりは足を洗うが、残り2人はヤクザとのトラブルから逮捕、実刑を受けたという。

 もちろん、今回の少年たちに関し、ここまで詳細な生い立ちが分かっているわけではないし、現段階では真犯人だと断定されたわけではない。しかし、地元で不良グループを形成し、被害者の少年に万引きを強要し、暴力を振るっていたという報道を見ていると、本書に登場する少年たちが、犯罪に手を染めていくプロセスと共通項を感じてしまうのだ。

 貧困、劣悪な家庭環境、地元の不良たちのネットワーク連鎖──。こうした少年たちを巡る状況を改善しなければ、今回のような少年犯罪は未然に防ぐことはできないのではないか。たとえ貧しくても、育児放棄されても、親がいなくても、地域や福祉の目が届く体制にならなければ、同じような犯罪は繰り返されてしまうのではないか。

 著者は何人もの“龍真”的少年に取材するなかで、親に恵まれなかった少年たちに心情をこう代弁している。

〈本当に、本当に、この世は不公平に満ちている。(中略)加害者である犯罪少年たちは、被害者転じての加害者だった。もちろん、加害者である彼らの裏には、被害者がいる。(中略)だが、それを倫理的に批判する人たちに僕は問いたい。僕を含めた市井の大人たちは、彼ら被害者だった子供たちのために何をやれたというのだろう。虐待で叩かれている子どもを見れば、それは誰しもが被害者として認識できる。だがその子どもが腹を減らしてモノを盗んだら、その時点で加害者なのか〉
〈ヤツらの人生の、どこに、どんな選択肢があったっていうのか〉

 実際、主犯格の少年は「小さい頃はおとなしくて先輩からイジメられていた」との周囲の証言もある。なぜ少年たちは兇悪な人物に変わってしまったのか。

 こうした視点で、少年犯罪を検証、考察することが今後重要になってくるはずだ。
(林グンマ)

最終更新:2017.12.13 09:41

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