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アイスバケツ、有名人に広がる“違和感表明”ブームに感じる違和感
違和感を表明する有名人が増えてきたアイス・バケツ・チャレンジ(画像はYouTube「Bill Gates ALS Ice Bucket Challenge」より)
レディ・ガガにネイマール、ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ……世界中のセレブたちが氷水をかぶり大きな話題となっている、アイス・バケツ・チャレンジ。
このアイス・バケツ・チャレンジは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病の支援を目的にアメリカで始まった運動。日本でも、ソフトバンク・孫正義社長やトヨタ自動車・豊田章男社長といった財界人から、ノーベル生理学・医学賞受賞者の山中伸弥、メジャーリーガーの田中将大、浜崎あゆみ、秋元康、堀江貴文などの著名人たちが次々と参加。連日ニュースを賑わせ、盛り上がりを見せていた。
だが、そのブームの風向きが変わったのは、ロンドンブーツ1号2号の田村亮から指名された武井荘の発言からだ。「思うところあって、水はかぶりません」と武井が拒否を表明すると、「エラい」「よく言った」と賞讃の声が殺到。以後、北野武やゴールデンボンバーの鬼龍院翔、和田アキ子など、指名されても氷水を拒否する人や、自分は氷水をかぶるが指名はしない人が登場。さらに、ナインティナインの岡村隆史が「(チャリティの)本質とはちょっとズレてきてるんちゃうかなって」と述べるなど、チャリティに対する違和感を表明する人が続出したのだ。そのためか、現在では氷水ブームから一転、“違和感表明”がブームのようにすらなり、新たに氷水をかぶった人に冷ややかな視線が注がれるような事態になっている。
批判、違和感の理由は、「単なる売名行為じゃないか」「一過性のブームに過ぎない」「やっている人が楽しんでるだけ」「難病の解決につながらない、ただの自己満足」「不謹慎」……。こういったものが大半だった。
たしかに、今回のアイスバケツに参加した人々にそういった要素が皆無だったかといえば、多くの人がそうとは言い切れないだろう。難病支援とは関係なく、ただ世界的なイベントにはしゃいでいるだけに見えるセレブたちの姿に、皮肉のひとつも言いたくなる気持ちもわからなくはない。実際、これまでも、チャリティやボランティア活動に必ずといっていいほど、このような反応が付きまとってきた。
「売名行為」「一過性」「自己満足」──。
しかし、それでいい、と断言する人がいる。それは、難病の子どもの夢をかなえる「メイク・ア・ウィッシュ」というボランティア団体の事務局長を務める大野寿子氏だ。
「メイク・ア・ウィッシュ」というのは、難病と闘う子どもの願いをひとつだけ無償でかなえてあげるという、アメリカ発祥の世界的ボランティア団体。日本でも、「憧れのメジャーリーガーに会いたい」「家族でディズニーランドに行きたい」「イルカと一緒に遊びたい」「絵本をつくりたい」など、これまで1400人を超える子どもたちの夢をかなえてきた団体だ。
そのメイク・ア・ウィッシュ・ジャパンの事務局長をつとめる大野氏は、著書『メイク・ア・ウィッシュの大野さん』(メディアファクトリー)のなかで、ボランティアやチャリティを前にしたとき、興味や意欲があっても躊躇してしまう多くの人たちに向け、“3つのススメ”としてこんなエールを送っている。
まず、ひとつ目は「三日坊主のススメ」。ボランティアは三日坊主でいい、という意味だ。大野氏によると、講演会などでボランティアの話を聞いて「やってみたいです」と意欲を見せるものの、95%近くの人が「でも、本当にできるかどうかよく考えてからじゃないと……。中途半端になるとご迷惑だから」と尻込みしてしまうのだという。そして、「たいていは来ない」。……これについて大野氏は、“中途半端になっても構わない”という。
「せっかく熱い想いがあふれたのに、それを時間の経過とともに風化させ、忘れてしまうのは、もったいない。チャンスを逃すことはないと思うのです」
これはボランティアに限った話ではなく、チャリティにもいえることだ。たしかに今回のアイスバケツは一過性のブームに終わる可能性も高い。だが、多くの人にとっては一過性だとしても、これをきっかけに何万人かに1人でもALS支援に本格的に携わりたいと思う人が出てくるかもしれない。また、たとえ一時的に盛り上がって、そのうち忘れてしまっても、「微力でも自分も何かをした」「心を動かされた」という感情が“いい思い出”として残れば、また何かの機会に別のチャリティでもやってみようと思うかもしれない。……何もしないよりは、その瞬間だけでもやってみるほうが、ずっといいはずだ。
そして、大野氏はふたつ目に「自己満足のススメ」を挙げる。というのも、「ボランティア=自己犠牲」と考えていると、他人のためにやってあげているのに感謝されないというストレスが溜まり、「自分はがんばっている」と主張すれば、まわりは引いていくばかりだからだ。逆に、「ボランティア=自己満足」と捉えれば、「生き生きとやりがいを感じ」られ、「「どんなことやってるの? 面白そうだから私もやってみようかな」と、人が集まってくる」。──アイスバケツも「はしゃぎすぎ」「遊んでるだけで不謹慎」など批判の声が挙がっているが、ゲーム性があって楽しそうだったからこそ、ここまで爆発的に広まったのだ。
さらに最後の3つ目は、「売名行為のススメ」。今回のアイスバケツでも、もっとも集中しているのは「売名行為だ」という批判だが、これも大野氏は肯定する。
「ボランティアというと、つきものなのが「偽善者」という一言。「良い子ぶって、自分が目立ちたいだけじゃないの?」などと、足を引っ張る人が本当にたくさんいます。でも、そんな言葉には負けないでほしい。なぜなら、いいことは伝えないと、広がらないからです」
アイスバケツが広がりを見せたのは、先に挙げたゲーム性とともに、多くのセレブが関わってきたからだ。そして彼らの参加がなければ、これだけ多くの人がALSについて、たとえ名前だけでも知ることはなかった。海外のセレブだけでなく日本の有名人が関わり始めたことで、身近に感じた人も少なくないはずだ。
ビートたけしが「ボランティアっていうのは人知れずやるもの」と、アイスバケツを批判したことが顕著であるように、とかく日本では、ボランティアやチャリティを“名前を明かさず”行うことが美談として語られがちだ。だが、仮に「売名行為」だったとしても、活動の意志や目的が力をもっていれば、そんな「私欲」は飲み込まれて消えてしまい、結局は活動の精神だけが残る、と大野氏は語る。売名行為でもいい、“自分を使って”伝えている、と考えればいいというのだ。
他方、アイスバケツが「断れない空気がある」「強制になっている」という批判もある。しかし、選択は個人に委ねられてるのにそのような空気が流れているのは「チャリティだから断りづらい」というよりも、いまの日本の“同調圧力の強さ”に問題があるのではないか。その証拠に“違和感表明ブーム”になっている現在は、違和感を表明した人のほうが喝采を受け、氷水をかぶった人のニュースは圧倒的に減ってしまった。
多くの人が「善」としていることに対して異を唱えることは難しい。最初に違和感を表明した武井は、かなり勇気がいったと思う。だが、その後に続いたお笑い芸人たちはどうだろう。世の中の常識に対して異を唱えるフリをしながら、実際は“違和感を抱いている人が多い”という「空気を読んで」「勝ち馬に乗って」発言しているだけではないのか。
この世界には、ALSのほかにもさまざまな難病がある。病気ではなく、貧困に苦しんでいる人もいる。東北の震災復興もままならず、広島では土砂災害も起こった。しかし、個人ができることは限られている。すべての人を救うことなど、できるわけではない。公的支援や公共の福祉であれば公平性や客観的に優先順位を考えなければばらないだろうが、個人の支援は、ひとりひとりができる範囲で考えればいい。大野氏は、このように述べている。
「病気と闘う子どもや、そのご家族と同じ痛みは共有できないし、「すべての人にすべてのこと」はできない。けれど、「誰かにほんの少しずつ」を積み重ねていくことはできる。――それが私に唯一できる精一杯だと思うのです」
どんな“いいこと”も、きっかけと戦略がなければ広まらない。アイスバケツも、ビル・ゲイツが氷水をかぶるための装置を自作したり、鬼龍院翔が(違和感を表明しながらも)墨汁をかぶるなど、“自分らしいやり方で”それぞれにアレンジを加えてきたからこそ、マンネリ化して飽きられることなく、世界のトピックとなった。もちろん、どのように自分が選択するかは自由である。だが、“いいこと”なら、ブームに躍ってもおおいに結構、なのではないだろうか。
(水井多賀子)
最終更新:2018.10.18 03:43
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