“親日国台湾”の若者が「戦中日本は普通にダメ」! 保守派とネトウヨは調子乗りすぎとの声も

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『境界の民 難民、遺民、抵抗者。国と国の境界線に立つ人々』(KADOKAWA/角川書店)

 多くの日本人は台湾を「親日国」だと思っている。東日本大震災の際には多額の義援金を送ってくれた、日本の音楽やアニメ・漫画文化などのサブカルチャーも広く受け入れられている、日本統治時代を好意的に振り返るお年寄りも多いらしい……やっぱり台湾人は日本が大好きなのだ!──日本人が漠然と抱く「親日国台湾」のイメージを並べてみるとこんな感じだろうか。

 とりわけ、ネット右翼たちの「台湾好き」は異常だ。「ニコニコ動画」で「台湾」のタグがついている動画を視聴すると、内容が政治的かどうかにかかわらず「台湾最高!それに比べ中韓ときたら…」「中国4ね」というコメントが散見されるし、安倍首相が米議会での演説のなかで「台湾」という語を用いたただけで「習近平は面目まるつぶれ!」などと言い出すような状況である。

 まあ、「親日国」を礼賛しつつ「反日国」を貶めるのはネット右翼のお約束であるとしても、こういうカキコミなどから察するに、ネット右翼たちは「台湾人はみな日本を愛していて、日本人の言うことならなんでも聞いてくれるのだ!」と思っているフシすらある。

 だが、はっきり言って、それは「幻想」だ。

 アジア事情に詳しいノンフィクション作家・安田峰俊氏が、先日発売した『境界の民 難民、遺民、抵抗者。国と国の境界線に立つ人々』(角川書店)のなかで、現代台湾人の若者たちのリアルな姿を描いている。

 2014年3月、台湾・馬英九政権による中国との「海峡両岸サービス貿易協定」の強行採決に対し、台湾の学生たちが抗議し協定内容の見直しを要求した。「海峡両岸サービス協定」は中国と台湾の自由貿易協定のようなものであったが、台湾ではサービス業従事者が人口の6割を占めるため国内産業が衰弱という懸念もあり、また、政府が議論もなく批准したことへの不信感から「民主主義の危機」を訴える声も多かった。ヒマワリ学運と呼ばれるこの社会運動は、学生たちが立法院を占拠する大規模なものとなり、国際的に報道され、結果的に、政府が折れて協定内容を再検討することになった。

 台湾の世論の大半は、ヒマワリ学運を支持していたという。学生たちは、自由貿易体制にも批判的な立場をとっており、日本の基準では「リベラル」や「左翼」に分類されるが、一方、日本の右派は、90年代の終わりごろから、その台湾の「反中」的な要素につけこんできた。日本の「大東亜戦争」や植民地支配の肯定と接続するため、また、中国共産党の脅威を喧伝するために「台湾」を利用してきたわけである。実際、ヒマワリ学運に際しても、日本の保守系団体「頑張れ日本!全国行動委員会」が台湾で200人規模の集会をかけたり、ネット右翼が運動に乗じて中国ヘイトの言葉を吐き出したりしていたことは記憶に新しい。

 しかし、現代の台湾人が、日本の保守派が望むものをすべて与えてくれるのかというと、そんなことはない。ヒマワリ学運の現地取材を終えた安田氏が、帰国後、日本に留学している男女四人の台湾人学生に取材したところ、全員が口を揃えてこう言ったという。

「第二次世界大戦時の日本? えっ? 普通にダメじゃないですか」

 また、 同じく日本への留学経験があり、「日本が大好き」という27歳の台湾人青年は、安田氏に対し「僕、日本は好きなんですけど、いざ留学してから失望することも多かったんですよね」と応えている。

「日本の右翼には、日本統治時代に対する台湾人の感想の中に肯定的な部分を、戦前日本のすべての行いの正当性を証明する材料にする傾向があります。それはちょっと調子にのっていると私はそう思います」
「実際、日本統治時代の台湾人は確実に差別を受けていました。そして今になっても、台湾人慰安婦や台湾人日本兵の補償問題が残されています。つい最近に、ある程度解決できた尖閣海域での台湾漁民の漁業権問題も、実は日本統治時代から残された問題です。
 日本の右翼がこれらの問題を無視したまま、台湾人の好意を利用し、植民地政策や戦争発動などの戦前日本の行いは何も悪くないと主張し続けたら、いつか台湾人の反感を買ってしまうのでしょう」

 そう、台湾人が日本の歴史問題を全面的に肯定するわけではないのだ。事実、ヒマワリ学運は政府による貿易規定の強行採決に反対したもので、同書で安田氏も書いているように、運動では公式に台湾独立の主張や「親日アピール」をするものではなかった。むしろ、「台湾の民主主義の方が日本よりもいいです」という台湾人留学生もいるという。これが現代台湾人のリアルな感慨だろう。

 同書が意図的にこうしたコメントだけを選出しているわけではない。たとえば、昨年台湾で大ヒットした映画『KANO 1931海の向こうの甲子園』は、日本統治下時代に、漢人、先住民、日本人の混成野球チームが台湾代表として出場し、甲子園準優勝に輝いた史実を描く感動作だが、プロデューサーと脚本をつとめたウェイ・ダーションは雑誌のインタビューでこのように語っている。

「台湾人は一人一人の日本人の庶民については親しみを持っていたと思います。でも、占領されて統治されたということに対する憎しみは当然ありました。つまり、あの時代の台湾人は、日本に対して、親しみと憎しみが混じり合った心情を持っていたと思います。これはその後の国民党に対しても同じです。日本人に対しても国民党に対しても複雑な感情を台湾人は持っているのです」(「中央公論」2015年2月号)

 このような台湾人の日本に対する複雑な思いは、日本国内で流通する「親日国台湾」というステレオタイプな言葉からはオミットされているように思えてならない。じつのところ、ネット右翼たちがしきりに「台湾!台湾!」と叫ぶのも、“中国が嫌い”という感情面と、そして、自身を慰めてくれる“日本ってすごい!”という言説に援用するためだろう。

 だが、安易な俗流日本論に熱中しすぎると、そのうちダシに使われた人々から失望される。その前に、彼らの声や生き様を真摯に見つめ直すことが必要だろう。たとえば『境界の民』は、無国籍のベトナム難民、ウイグル人ら抑圧されている民族、政治的に相克する2つの国家をルーツに持つ者のような、国民国家体制の「境界」で生きる人々に焦点をあてたルポルタージュである。国家という枠組みに固執するネット右翼こそ、こうした書籍を読むべきだ。

 昨今、日本では“反日国か親日国か”という二分法の語法ばかりが蔓延っている。言うまでもなく、それほど単純なやり方で物事を把握できるはずがあるまい。
(都築光太郎)

最終更新:2017.12.23 07:19

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