水木しげるが最期の仕事で綴った、戦争による死への恐怖と平和への思い「戦争に行くのが嫌で嫌で仕方がなかった」

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 戦争をきっかけに、「自分の命」を見つめ直すようになった水木は、「人生って何だろう」といった哲学的命題に思いを馳せるようになり、そこからニーチェ、カント、ショーペンハウエル、聖書などを読む濫読の時代に突入。そのなかでゲーテと出会うことになる。彼はとくに『ゲーテとの対話』に心酔し、戦争に行く時にも岩波文庫から出ていた『ゲーテとの対話』の上中下三巻を雑嚢に入れて持って行くほどであった。数ある本のなかでも、ゲーテの言葉がとりわけ水木しげるの心に響いたのはなぜだったのか。水木しげるはこのように語っている。

〈ゲーテはひとまわり人間が大きいから、読んでいると自然に自分も大きくなった気がするんです〉
〈他の連中は思考して、考えたことを吐露するという感じだけれど、ゲーテの場合は人生とか、人間とか、すべてを含んだ発言なんです。幅が広いから参考になるわけですよ。そこへいくとニーチェなんかは特別なときの言葉が多かったように思いますね〉
〈ゲーテは人生をじっくりと味わった言葉ですよねえ。ショーペンハウエルやニーチェとかは、ケンカ腰で喋るような感じで(共感できなかった)ね。
 日本ではニーチェ的な考え方はあまり上手くいかないのと違いますか。ニーチェというのは他人に勝たなけりゃいかんという苦しい考え方をして、大騒ぎしてるからねえ〉
〈他人と比べるから不平不満を感じるわけですよ。本人が納得して満足すれば、それが幸せってことになるんじゃないですか。出世して自分だけいい思いをしようと思ったら、ニーチェの思考ですよ。水木サン(水木は自分のことをこう呼ぶ)にとって、ニーチェは怖いね〉
〈ゲーテの言葉は水木サンにとって具合がよかったんじゃないですか。人物で尊敬するのは、ゲーテだけなんです〉

〈暴力的なことや突飛なことはすべて私の性に合わないのだ。それは、自然に適っていないからね〉、このような警句に溢れた『ゲーテとの対話』に綴られた言葉は、後に水木作品に頻出する名言「けんかはよせ。腹がへるぞ」にもつながってくるのだろう。

 水木しげるの作家生活を振り返ると、「妖怪」を題材にしたマンガに匹敵する、いや、ひょっとしたらそれ以上に重要なテーマとして「戦争」があったというのはよく語られている。彼にとって「戦争」というのは創作活動において本当に重要で、〈戦争体験が自分をマンガ家にした〉(「新潮45」1990年7月号/新潮社)という言葉を残しているほどである。彼が「戦争」を題材にしたマンガにどのような思いを託してきたのかは、「ユリイカ」2005年9月号(青土社)に掲載された平林重雄氏による論稿「水木しげると戦争漫画(増補改訂版)」に詳しい。

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