浅野忠信と二階堂ふみの『私の男』に林真理子が「薄汚い父娘」と酷評

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「薄汚い父娘」とは痛烈な罵倒だが、批判者は林だけでなく、エロスに対して理解があったはずの故・渡辺淳一もこんな選評を載せている。

「むろん、淳悟と花とのからみのシーンは熱く妖しいが、見方によっては、少女コミックに登場する近親相姦を思わせるところもある。以前からアメリカに多い父娘相姦に関わるレポートでは、少女たちはみなポストトラウマとして、深い罪悪感に苛まれているが、そうした内面志向はまったく見られない」

 たしかに、この作品、ストーリーだけを抜き出すと、かなりインモラルなものだ。26歳の遠縁の男が津波被害で家族を亡くした10歳の少女を引き取り、ほどなくその少女と次第に性的な関係におちいっていく。そして、男が実は、実の父親でもあることを少女は知るが、その関係をやめようとはしない。少女が高校生になった頃には、毎日のようにセックスをし、愛欲まみれの爛れた関係をどんどんエスカレートさせていく。しかも、関係を知って引き離そうとする親切な町の老人を殺し、さらには、逃げた東京に殺人の証拠をつかみ2人を訪ねてきた警官まで殺してしまう。そして、大人になった少女はやがて職場で出会った金持ちの青年と婚約するのだが、父親との関係も変わらず続いている。とにかく、明らかに少女姦や近親相姦をテーマにしており、しかもそれを否定的にではなく、むしろエロティックに描写しているのだ。

 映画も構成や結末は少し違うが、基本的には原作のテイストを忠実にいかしている。いや、映像化されているだけにもっと生々しいといっていいだろう。たとえば、中学生の二階堂ふみが浅野忠信の手を取り、人差し指を口にふくみ、チュパチュパとしゃぶり始める。自分の手も差し出し、浅野にも自分の指をくわえさせる。さらに、中学生の二階堂が浅野からのプレゼントのピアスを舌に乗せ、それを浅野の恋人に見せつけながら、こんなセリフをはく。「彼に殺されることができるか」「自分は殺されてもいい、何をされてもいい」。

 二階堂が高校生になってからのシーンはもっと激しい。浅野の腰に抱きついて「ほしい」とせがむ二階堂。制服の上から二階堂の乳房をまさぐる浅野。二階堂が制服のブラウスを脱いで、互いの体をなめまわす。浅野の股間をまさぐり、制服のスカートをはいたままパンティを脱ぐ二階堂。ちゃぶ台の横で、むさぼるようにセックスを始めるふたり……。近親相姦のメタファーなのか、血の雨が二人にふりそそぎ、血まみれでセックスを続けるシーンもある。
 
 そういう意味では、近親相姦の被害者からは違和感を表明されてもやむえない作品だし、原作に対して林真理子が「嫌悪感」「薄汚い」と攻撃したのもわからなくはない。

 だが、この作品について、そういった男が少女を支配しているというようなステロタイプな近親相姦批判があてはまらないのは、これが桜庭一樹という女性の作家が、女性の視点で描いた作品であることだ。小説の内容も、出発点では、養父による庇護という名の支配があるかもしれないが、しだいに男性のほうが少女に囚われ堕ちていく様が、生々しく描かれている。

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