五輪記録映画監督の河瀨直美が露骨な五輪礼賛! 開催反対の声を“コロナの不安を五輪にぶつけるのは…”と八つ当たり扱い

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『スッキリ』に出演する河瀨直美


 東京五輪開催の是非をめぐり、政府や東京五輪組織委員会から「ヤバい」としか言えない発言が相次いでいる。

 政府分科会・尾身茂会長が「いまの感染状況で開催というのは普通はない」と発言していることに対し、菅義偉首相は開催すべき理由を「まさに平和の祭典(だからやる)」と発言したが、丸川珠代・五輪担当相は「われわれはスポーツの持つ力を信じていままでやってきた。まったく別の地平から見てきた言葉をそのまま言っても、なかなか通じづらいというのが、私の実感でもある」と発言。さらに組織委の橋本聖子会長も「世界共通の課題を東京五輪が乗り越える姿、レガシーを見せることが東京大会の使命」などと言い出した。

「平和の祭典」「スポーツが持つ力」「レガシーを見せる使命」……。多くの国民が感染や経済的な不安を抱えて自粛生活を余儀なくされているというのに、具体的な感染防止策を打ち出すこともなくこんな浅薄な精神論で開催に納得しろとは、バカにするのもいい加減 にしろ、という話だろう。

 だが、こうした閣僚や組織委の発言以上にヤバい、いや、もはや「五輪カルト」と言うべき主張が五輪関係者から飛び出した。東京五輪の公式記録映画の監督を務める河瀨直美氏だ。

 河瀨氏は本日4日放送の『スッキリ』(日本テレビ)に出演。番組では、尾身会長ら専門家の発言を取り上げて観客を入れての大会開催に疑義が呈されていたのだが、そのなかで河瀨氏はまず、こんな持論を展開した。

「みなさんの議論を聞いていたなかでいちばん思うのは、やはり情報が……たとえば組織委員会のみなさんがいま何をしているのかといった情報が出ていないな、うまく伝わっていないな、と」
「組織委員会のみなさんとIOCっていうのは日々・日夜、議論し尽くされていますね」

 何を言い出すかと思えば、まさか“組織委はがんばっているのが伝わっていない!”と主張するとは……。しかも、河瀨氏は「議論し尽くされていますね」などと断言したが、東京五輪開催まで50日を切ったというのにいまだに緻密な感染シミュレーションやそれを防止できるという科学的なエビデンスに基づいたデータを示そうともしていないのは、組織委やIOC、政府ではないか。

 だが、河瀨氏はつづけて、公式記録映画の撮影を2年前からはじめていることや「すでに400時間回している」などと語り、番組出演後には体操の内村航平選手が出場する大会の撮影に行くことを明かすと、こんな話をはじめたのだ。

「彼、ほんとうに物静かな方ですけど、いま映っているこのパフォーマンス(注:内村選手の鉄棒の演技)、すごい美しいですよね。これを32歳まで維持するそのモチベーション、そしてオリンピックに対する思い、すごい控えながら言われてますけど、並の、並の精神力じゃできない。そういう部分において、アスリートファーストのオリンピックがほんとうに感動的であるんだ!っていうことっていうのは、みんな、私自身も含めて忘れちゃいけないなと思っています」
「つまりオリンピック憲章に書かれた、ほんとうの意味のアスリートファーストのオリンピックというのは非常に素晴らしい、感動的だ。まずこれがあると思います」

「アスリートファーストの五輪はほんとうに感動的だ!」って、世界で約370万人もの人びとが新型コロナで亡くなり、いまも国内外で命を奪いつづけている現実を河瀨氏も知らないわけがない。なのに「感動的だから」という理由で開催しようというのは、絶句するほど意識が低すぎる。

五輪批判を“コロナ禍の不安や不満をぶつけている”と八つ当たり扱いする河瀨監督

 だが、さらに言葉を失ったのはこのあと。河瀨氏は「反対派の意見の人の取材も進めています」と言い、「私自身の取材、公式映画というのは、いま時事ニュースとしてみなさんに何かを伝えるということ以上に記録する意義があって」と前置きし、その「意義」をこのように語り出したのだ。

「オリンピックっていうのは人類の祭典です。世界中から見て、いまこのパンデミック下で日本が開催国で、8年ほど前にこれを招致した日本で、私たち国民がいまどういう一歩を踏み出すのかということがとても重要なので。いまパンデミックであるということで私たちの日常が脅かされているというような、そういうことと、それから、その不安をオリンピックにぶつけるという不満というのは、少し棲み分けないといけないと思っています。つまり、アスリートがしっかりとこのオリンピックのなかで自分のプレーをやるということを誇りに思うということを、大きな声で言えないことの悲しみというのはあると思います」

 いま、これだけ反対論が巻き起こっているのは、人命を守ることよりもスポーツ大会の開催が優先されることに対する怒り、不条理に対してだ。だが、河瀨氏は、反対する人は“コロナ禍の不安や不満をぶつけている”と、まるで五輪に八つ当たりしているかのように語ったのである。

 映画監督として人間の複雑な心の機微を捉えることはおろか、あからさまな不条理を押し付けられている人びとの心情さえ捉えられない……。もはやその世界的な名声にも疑問符をつけたくなるような発言だが、そうやって問題を敵/味方に分断した挙げ句、またもアスリートにだけは寄り添い、「誇りに思う気持ちを大きな声で言えない悲しみ」などと同情を寄せたのである。

 もうここまでだけでも河瀨氏の認識の酷さは十分に伝わるかと思うが、忘れてはいけないのは、河瀨氏がここで問われていたのは「観客を入れて開催することの是非に対する見識」だ。そこで番組MCの加藤浩次は「お客さんって河瀨さん、どうすればいいと思いますか?」と話題を巻き戻したのだが、すると河瀨氏は、元マラソン選手の増田明美氏の発言を引用して、またもこんな主張をした。

「観客は、私は、アスリートにとっては、絶対にいらっしゃったほうが。これは、えっと、増田明美さんがこないだの札幌のマラソンのときに来られていたので、メダリストのOBとして言われていたんですけど『観客がいることで3センチ足が上がる』って言っていたんですよ(笑)。アスリートにとってそれって、もう、なんていうのかな、命です。観客は。うん。だから(観客は)入ったほうがいい」

 そして、「でも、感染が拡大する可能性がある。だったらどうすればいいかっていうことを、みんなで話し合ってください」と言うと、こうつづけた。

「こういう情報番組でも、やっぱり一方的なこういう、なんていうのかな、映像とかをどんどんネガティブなほうに出していけば、国民のみなさんはいま観ていたら、すごい不安になると思う。不安になるからTwitterとか、そういうSNSで『怖い、怖い』『やめよ、やめよ』っていうふうになる。だけど、招致したのは日本です。日本が、いま日本が世界から見られている。で、どういうふうにして開催したのか、もしくは開催しなかったのかということは、今後の日本を、日本の評価を決定づけられることは間違いない」

賛成でも反対でもないと言いながら、「観客入れて応援してほしい」という河瀨監督

 言っておくが、ほとんどの情報番組は世論とは違って強固な反対論など唱えられておらず、河瀨氏が出演したこの『スッキリ』もMCの加藤のスタンスは「無観客での開催」だった。それをあたかも報道が偏向していると言わんばかりに批判し、言うに事欠いて「招致したのは日本」「日本の評価を決定づけられることは間違いない」って、まるでネトウヨ議員の主張のようではないか。

 しかも、MCの加藤が観客を入れての開催による感染拡大に懸念を示すと、河瀨氏は「無観客でもいいと思いますけど、観客が入って、そのー、えっと、熱い思いを共有するっていうのも、あると思います」と、またも薄っぺらい感情論を訴え、さらにこんなことを言い出したのである。

「で、いま加藤さんが言われているのは、人流が起こってしまうというのは、いまもそうですよね。オリンピックしても、してなくても、人流は起こっている。昨日、私は奈良から東京に来ました。銀座すごい人出てます。これはなんで抑えられていないんですか?」

「なんで人流を抑えられないんですか?」って、この緊急事態宣言下、移動の自粛が求められているなかで自分は奈良から東京にやってきておいて、何を言っているんだろう。それとも東京五輪の公式記録映画監督である自分は特例だとでも言いたいのか。はっきり言って、何様のつもりだ。

 だが、河瀨氏は、MCの加藤が「緊急事態宣言中なんだけど出る人がいるからですよね」と答えると、自分のことは棚に上げて「そうなんです。つまりそれはオリンピックのせいではないです。人流が起こっているのは国民の意識の問題です。ですから、そこは切り離さないといけない」などと強弁。「観客であるみなさんは、自分たちによって『オリンピックがダメ』と言われないようにしようってなってくれたら」と述べたのだった。

 このように、徹頭徹尾、どう考えても有観客での開催を強行に主張しておきながら、コーナーの最後のほうになって「私、賛成も反対も言ってないです。いま起こっている現実がこうなんだっていうことを言っているのであって」と言い出したり、なのに“どのようなかたちで開催すべきか”を問われると「私は観客を……えっと、私自身、私、河瀨直美個人で言えば、お客さん入って、で、えっと私もアスリートだったんで、やっぱ応援してほしいです」などと発言する始末だった。

 ようするに、どこからどう見ても河瀨氏は政府や組織委と完全に一体化、いや、もはやそれ以上の、狂信的といえるほどに五輪の強行を主張しつづけたのだ。

 いくら公式記録映画の監督を任されたとはいえ、専門家たちが指摘するコロナ感染拡大に対する懸念や変異株の脅威、そして国民だけではなくアスリートからも上がる不安の声をまるっきり無視したこの露骨な姿勢は、あまりにも酷いとしか言いようがない。

河瀨監督は実は安倍昭恵のお気に入り、津川雅彦が統括の展覧会でも特集上映

その姿勢の酷さは、同じく芸術家として五輪イベントに携わってきた演出家・宮本亞門氏と比較すれば一目瞭然だ。宮本氏は組織委が主催するイベントでモデレーターを務めたりコンサートの企画・構成を手掛けるなど東京五輪にかかわってきたが、コロナ感染が拡大して以降、開催中止を呼びかけるように。さらに5月に東京新聞がおこなったインタビューでは、あらためて中止を訴えただけではなく日本政府やIOCを真っ向批判。こう口にしている。

「IOCや政府の利己的な考えは、「他人のことを思う」という利他的な精神と正反対。国民はその間で心が引き裂かれています」
「2013年の招致決定当初、「世界一お金がかからない五輪」や「復興五輪」といった発言を信じようとした。これだけ政府が断言するのだから、と。17年には大会の公式イベントの演出を引き受けた。しかし大会経費は倍以上に膨れ上がり、福島第一原発事故の後処理も進まない、全て誘致のための架空のものだった。悲惨な現実を見て「何ということに加担してしまったんだ」と罪悪感にさいなまれました」

 芸術家として東京五輪の開催に加担したことへの罪悪感を語る宮本氏に対し、「五輪は非常に素晴らしい、感動的」と言うばかりか、国民の命を軽視する組織委の態度を目の当たりにしても「組織委とIOCは議論し尽くしている」などと擁護までおこなう河瀨氏。一体どちらがまともかははっきりしているだろう。

 じつは、組織委会長だった森喜朗氏の女性差別発言が問題になった際、その釈明会見の様子を河瀨氏が撮影していることがわかると、ネット上では公式記録映画に期待を寄せる声もあがった。だからこそ、今回のこうした河瀨氏の発言に意外な感想をもった人も少なくないと思われるが、実際には河瀨氏がこうなるだろうことは、最初からわかっていたことでもある。

 以前から河瀨氏の作品はスピリチュアルへの傾倒が指摘されてきたが、そんな河瀨作品に惚れ込んだひとりが安倍昭恵氏で、2015年には自ら河瀨氏と対談したいと「AERA」(朝日新聞出版)に企画を持ち込み、実際に対談もおこなっている。

 さらに、安倍晋三・前首相が昵懇だった俳優の津川雅彦氏を統括に据え、津川氏の国粋主義や日本スゴイ思想も盛り込まれたパリでの展覧会「ジャポニスム2018」にも河瀨氏は参加しており、作品が特集上映されている。河瀨氏が東京五輪の公式記録映画の監督に就任したと発表されたのは、この「ジャポニスム2018」で特集上映が開始される1カ月前のことだった。

 こうしたことから、「安倍夫妻の覚えめでたく河瀨氏に五輪映画の監督の白羽の矢が立ったのでは」という声も上がっていたのだが、それも頷けるのは、河瀨氏のこれまでの発言やスタンスに、安倍前首相やその取り巻きが大好きな右派思想との親和性が感じられるからだ。

「日本人が本来持つ精神性やアイデンティティーの大切さを訴えたい」と語る河瀨監督

 たとえば、「ジャポニスム2018」閉幕後に河瀨氏はこんな感想を残している。

〈当日は、西日本豪雨災害対応のために急遽パリ行きを取りやめられることになった安倍総理の代わりに渡仏された河野外務大臣がおいでくださった。吉野の美しい自然とそこで生きる人々の死生観を描いた本作をお隣でご覧になっていた大臣からは「美しい世界ですね」と上映後にお言葉をいただいた。「これが日本です」と私は胸を張って答えていた。〉
〈こうして映像を通して物語を実感した観客の皆様は「日本に行きたい、奈良を訪ねたい」と言葉を投げかけてくれる。その繊細な文化と伝統はこの「ジャポニスム2018」を通して広く深く、人々の心に届いただろう。外国人の訪日が2020年のオリンピックに向けて益々加速するに違いない。そのとき、私たちがしっかりと「おもてなし」の心で彼らを迎え、本物の日本を持ち帰っていただくことが出来た時、この「ジャポニスム2018」の意義は達成されるだろう。私たち自身のアイデンティティをしっかりと持ち、次世代への継承を惜しみなく行動へうつし、真の文化交流を行うことに、心踊らせている。〉

「これが日本です」「本物の日本」「私たち自身のアイデンティティ」……国粋主義や愛国、日本スゴイ的な匂いがぷんぷんしてくるが、それは東京五輪の公式記録映画に対するコメントからも如実にあらわれている。

 今年1月27日付で産経新聞ウェブ版に掲載されたインタビューで河瀨氏は、「開催を信じ、全身全霊をかけて打ち込まねばならない仕事になった」などと語るなかで、映画のテーマについてこのように言及していた。

「コロナ禍を克服した証しとしての東京五輪の姿を後世に残すとともに、日本人が本来持つ精神性やアイデンティティー(同一性)の大切さを訴えたい」

 日本人が固有の精神性や同一性を持っているという、異文化差別、少数民族排除につながりかねない発言──。ここまでくると、安倍前首相をはじめとするネトウヨ政治家や極右言論人とほとんど変わりがない。

 そう考えると、河瀨氏が今回、権力側と一体化したかたちで東京五輪の開催を声高に叫ぶのは当然とも言えるだろう。そして、このままでは、河瀬監督による東京五輪公式記録映画は、ナチスドイツでレニ・リーフェンシュタールが監督したベルリンオリンピックの記録映画『民族の祭典』のような、国威発揚プロパガンダ作品になってしまう危険性も大いにあると言わざるを得ない。

最終更新:2021.06.04 11:01

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