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足立区立中学の「妊娠防ぐための性教育」に自民党の都議が圧力! 背景に安倍首相と一派の性教育否定思想
東京都議会自由民主党HPより
この国はどこまで逆走していくのだろうか──そう思わずにはいられないような事態が起きた。
東京都足立区の区立中学で3年生の生徒を対象に行われていた性教育の授業に対し、都議会議員が「問題ではないのか」と指摘。それにより授業内容を調査した東京都教育委員会から区教委に対して指導が行われると報道されたのだ。
この授業が問題とされたのは「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」という言葉を使い、説明した点にあるという。これらの言葉は中学の学習指導要領にはないもので、都教委は「高校で教える内容だ。中学生の発達段階に応じておらず、不適切」(2018年3月23日付朝日新聞デジタル)としている。
区教委側は、問題を指摘された授業は不適切ではないと主張したうえで、「10代の望まぬ妊娠や出産を防ぎ、貧困の連鎖を断ち切るためにも、授業は地域の実態に即して行われ、生徒と保護者のニーズに合ったものだ」(前掲・朝日新聞デジタル)と述べている。
そもそも、中学生に「性交」「避妊」「人工妊娠中絶」という言葉を使わずに性教育を行って、そこに何の意味があるのか。都教委は「中学生の発達段階に応じておらず」などというが、中学生はほとんどが妊娠可能な年齢にある。そこできちんと「性交」「避妊」を教えないということは、セックスは同意があって初めて成り立つことという基本的な知識はもちろん、正しい避妊の仕方がわからず望まぬ妊娠を引き起こすことになる。むしろ中学から教えることも遅いくらいだ。
しかし、前述の通り、この授業に対して、都議会議員の呼びかけにより「待った」がかかった。今月16日の都議会文教委員会で、自民党の古賀俊昭都議による「問題ではないのか」との指摘から状況が動き出したのだ。
ここで古賀都議の名前が出てきたことで、多くの人から「またか……」との声が漏れた。というのも、古賀都議は、2003年に起きた「七生養護学校事件」でも登場した議員だからだ。
安倍首相は性教育を「カンボジアで大虐殺を行ったポル・ポト派」と
この問題は、東京都日野市にある都立七生養護学校(現・東京都立七生特別支援学校)で、知的障がいをもつ児童に対して行われていた性教育の授業内容が問題視され、校長や教員らが処分を受けた事件。
この七生養護学校では、生徒による性的な問題行為が発覚したことを受けて、性器がついた人形を用いるなど先進的な性教育を行っていた。この指導が都議会で問題とされ、石原慎太郎都知事(当時)も「異常な信念を持って、異常な指示をする先生というのは、どこかで大きな勘違いをしている」と答弁するなど大きな問題に発展した。
そして、古賀都議を含む3人の都議会議員が七生養護学校を視察したうえで「こういう教材を使うのをおかしいと思わないのか」などと学校側を強く非難。結果として、前述したように学校関係者が処分を受ける結果となった。
また、この動きは東京都だけにとどまらなかった。自民党は05年に「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」を発足させ、〈「ジェンダーフリー」という名のもと、過激な性教育、家族の否定教育が行われている〉として教育現場への圧力を強めたのだが、そのときの座長は安倍首相だった。しかも、安倍首相は自民党本部で開かれた「過激な性教育・ジェンダーフリー教育を考えるシンポジウム」にてジェンダーフリー推進派について「私はカンボジアで大虐殺を行ったポル・ポト派を思い出す」と無茶苦茶な発言をしている。
さらにとんでもないのが、安倍首相の側近、山谷えり子参院議員だ。山谷議員は、安倍首相が座長である「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の事務局長を務め、オープンな性教育を徹底批判。そして、教育現場は完全に萎縮して性教育を封印した。
その張本人である山谷議員に迷いはない。13年に放送された『ニッポンの性教育』(中京テレビ制作、第51回ギャラクシー賞優秀賞受賞作)の取材で、山谷議員は性教育のあり方について、このような持論を展開しているのだ。
「本当に子ども時代はですねえ、ちょうちょが飛んでいる姿、お花がキレイに咲く姿、昆虫が一生懸命歩いている姿、それで命の尊さというのは私達は十分学んできたんですよね」
昆虫や植物を見て性を学べ。思わず呆然としてしまう回答だが、ディレクターが「具体的なことは教える必要はないということですか?」と質問。すると山谷は「本当は結婚してからだと思いますね、はい」と答えたのだ。この珍回答には「ちょうちょが飛んでるのは議員の頭の中」と、ネット上でも失笑を買う事態となった。
前出の古賀都議だって似たようなものだ。彼は「家庭と社会の再生の為、今一度、純潔教育(自己抑制教育)の価値観に回帰すべき」と主張している。だが、インターネット普及以降の世界では子どもたちが日常的に大量の性的な情報に晒されていることや、それらの情報のなかには鵜呑みにしては危険なものも多数含まれているといった「現実」を無視し、正しい知識が得られないことによって不利益を被るのは、他ならぬ子どもたちだ。
性教育バッシングによって何も教えられなくなった教育現場
保守的な政治家たちがこのように性教育のバックラッシュを進める一方で、日本の性教育をめぐる状況はどんどん危機的なものになっていった。『こんなに違う! 世界の性教育』(メディアファクトリー)のなかで、教育学者の橋本紀子氏は日本における性教育についてこのように指摘している。
〈日本では02年以降、学校の性教育に対する保守派の「性教育バッシング」が起きており、性教育の内容に対する厳しい抑圧と規制が強まっています。ちなみに、性教育バッシング派は、性器の名称を小学校低学年で教えること、性交と避妊法を小・中学校で教えることなども「過激性教育」として攻撃しています。
こうした「性教育バッシング」を反映してか、新しい文部科学省学習指導要領でも、小学校はもちろん、中学校でも性交や避妊法について取り上げていません。コンドームこそ登場するものの、それはあくまで性感染症予防の手段としてのみの紹介です〉
現行の学習指導要領では〈中学生は性行動をしないという暗黙の前提〉(前掲書)が存在しているようで、〈性交、出産場面、避妊については検定教科書には掲載されていません。そのため、「避妊法」を教えているのは約3割でした〉(前掲書)という惨憺たる状況にある。
今回やり玉に上がった足立区の中学校はそういった状況を鑑みて、それでもなんとか子どもたちのために必要な教育を施そうとしたのだろうが、結果としてこのような展開になってしまった。
ちなみに、「七生養護学校事件」はその後、元教員や生徒の保護者らが都教委と古賀都議ら3名の都議を提訴。その結果、09年には東京地裁で「都議らの行為は政治的な信条に基づき、学校の性教育に介入・干渉するもので、教育の自主性をゆがめる危険がある」として七生養護学校側が勝訴している。13年には最高裁判所が上告を棄却し判決が確定している。
このような判決がくだっているのにも関わらず、またもや起きた同じ都議からの教育現場への介入。この状況は看過していいものではない。
(編集部)
最終更新:2018.03.29 12:12
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