室井佑月の連載対談「アベを倒したい!」第3回ゲスト 斎藤貴男

室井佑月が斎藤貴男と「共謀罪」を徹底批判!「安倍政権に逆らう人が片っ端から逮捕される」

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斎藤貴男と室井佑月が政権の目論見をぶった切る!


 東京新聞の「大波小波」でも取り上げられるなど、各方面で大きな反響を呼んでいるこの連載対談。ところが、そのことを当の室井佑月に報告しようと電話したらいきなりこんな苛立った声が返ってきた。
「反響があったとか喜んでる場合じゃないって! そんなことより共謀罪やばいよ、なんとか止めなきゃ!」「次は、共謀罪の恐ろしさをみんなにわかりやすく伝える対談やるよ!」
 そう、室井はあいかわらず本気なのである。ということで、今回は、共謀罪が初めて法案提出されたときから、その危険性を訴えてきたジャーナリスト・斎藤貴男氏をゲストに迎え、安倍政権が今国会で成立をもくろむ共謀罪の問題点を、一から検証することにした。
 対談では、共謀罪がいかに危険で不要なものであるかはもちろん、その背景にある安倍政権の意図やマスコミの現状に対する鋭い指摘も飛び出した。今回もぜひ刮目して読んでいただきたい! 
(編集部)
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●共謀罪が成立したら、室井佑月も摘発対象になる?

室井 あたし、安倍政権に対しては怒りだらけなんだけど、いまはやっぱり共謀罪のことが一番心配なんですよ。共謀罪はこれまで合計3回も法案が国会に提出され、その度に廃案になっているけど、今回は提出するのが安倍政権でしょ。国民を騙して強引に成立させかねない。政府は法案の名前を「テロ等組織犯罪準備罪」に変えるなどと言ってましたけど、基本は共謀罪と同じなんでしょう。

斎藤 同じというか、共謀罪そのものです。共謀罪は犯罪を犯す以前の、相談や計画、準備段階で処罰可能という法律で、何の犯罪も犯していないどころか、その危険性がなくても適用できる。捜査当局が恣意的に運用すれば、極端な話、誰でも自由に逮捕できるとんでもないシロモノなんです。最近になって、対象の犯罪を原案の676から277に絞り込む方針を打ち出したけど、完全に目くらまし。しかも当初は“テロ”を前面に押し出していたけど、その後明らかになった条文案では“テロ”と表記がなくなっている。本質はまったく変わっていません。国民をバカにするのにも程があります。

室井 『東京新聞』がすっぱ抜いた条文案ですね。それによれば、テロの文言がまったくないどころか、テロ以外の犯罪が6割もあるってことも分かった。結局、安倍さんはテロという言葉を最大限に利用しただけだし、普通の市民や企業も対象になる可能性はますます高まってきましたよね。斎藤さんの本『「共謀罪なんていらない?!」──これってホントにテロ対策?』(共著/合同出版)に書いてありましたけど、共謀罪って“心の中を取り締まる法律”、憲法の思想・良心の自由をふみにじるものですよね。でも、具体的には、どんなことが起こるんだろう?

斎藤 たとえば、この対談のタイトルって「アベを倒したい」でしょ。極端な話、共謀罪が成立したら、それだけでも“テロリスト”扱いされて、室井さんも僕も逮捕される可能性があるということです。権力側が「こいつら、批判ばかりしていて気に食わない」と思ったら、この法律を使えば簡単に犯罪者にできちゃう。なにしろ防衛大臣だった石破茂さんが「デモはテロ」と公言できてしまう政権なんだから。

室井 マジか。まあ、政府は「一般人は対象にならない」と言ってたけど、きっと私や斎藤さんなんて、最初から一般人扱いされないだろうしな(笑)。

斎藤 その「一般人は対象にならない」というのが最大のインチキなんだよね。多くの国民がこれに騙されて、共謀罪に関心を払わなくなっている。だから弁護士さんたちた僕はよくこんなたとえを出して警告しています。「飲み屋で上司の悪口をみんなで言っていて、『ぶっ殺してやろうか』という話になればそれも対象になるかもしれない」と。

室井 え〜、それはいくらなんでもリアリティがないよ。みんな「まさか〜」と笑って終わりになっちゃいますよ。だったら、沖縄高江のヘリパッド反対運動の例とか出したほうがいいんじゃないですか。この運動の中心的な役割を担ってきた山城博治さん(沖縄平和運動センター議長)は逮捕されて、微罪なのにもう4カ月以上も不当勾留されているでしょ。いまでもそんなことが起きてるのに、もし共謀罪が成立すれば、高江の反対運動にかかわっている人たちは全員、“犯罪集団”“テロ集団”ってことにされて逮捕されてしまう。そういう権力の恐ろしさを伝えたほうが説得力があると思う。

斎藤 そうも思わないでもないけど、逆なんじゃないかな。いまの状況だと、沖縄の基地反対の例をもち出しても、誰も自分事とはとらえてくれない。本土の人間の多くは沖縄の基地問題を“特殊な例”として片付けてしまってるから。悲しいことだけど、でも、これは共謀罪についても同様で、国民の多くは権力に批判的な“特殊な人”だけが対象で、“普通に生活していれば逮捕されない”と思っている。でも、そんなことはないんだよ。さっきも言ったように、共謀罪の対象となる犯罪は絞り込んだいまも300近くあって、そのなかには、薬物とか詐欺とか偽証とか通貨偽造とか、テロとなんの関係もない犯罪が6割もある。最初は限定的に運用されたとしても、一旦成立したら、いくらでも広げていくことができる。誰もが摘発の対象になり得るんです。ハードルは可変的なのだから、それを訴えないと。第一、世の中はこれからもずっと続くんだよ。いまの安倍さんみたいな総理大臣が、独裁的な権力を振るう時代がくるなんて、たとえば30年前に誰が本気で予想した? で、今は確かに安倍さんが戦後最悪ではあるけど、これからもっともっとトンでもないのが出てこない保証はひとつもない。国家権力というのは必要悪だと思うけど、どこまでも暴力装置なのだから、よほど厳しく縛りをかけておかないと。それが立憲主義の精神です。

室井 法律名に「テロ等」って「等」がついてるから、拡大解釈する気満々だとは思ってたけど、いろんな犯罪が対象になるんでしょ? そういえば、LINEやメールで同意しただだけでも、共謀罪が適用されるという話も出てましたけど、本当なんですか。たとえば、過激な友人が「こうなったら官邸に突撃しよう」とかいうLINEやメールを送ってきて、つい「いいね」と返事しちゃったら、つかまっちゃうとか。

斎藤 法務大臣も答弁で認めてからね。同意どころか、LINEだったら既読スルーしただけでも逮捕される可能性がある。それと、共謀罪の処罰対象を「組織的犯罪集団」に限定するなんて言ってるけど、それを決めるのも捜査機関でしょう。解釈次第でどうにでもなる。事実、法務省は2人以上で団体とみなされると言ってるし、最近、国会では処罰対象について、「普通の団体」が“性質を変えた場合”「組織的犯罪集団になりうる」という政府統一見解を示した。これって、市民団体や労組なども捜査機関が“性質を変えた”と言えば、いつでも「組織的犯罪集団」として共謀罪が適用されるということ。実際、彼らの立場ならそれはそうでしょ。テロを起こす前から、わざわざ「我々はショッカーです」とか、「黒い(ブラック)幽霊団」ですとかの看板を掲げる奴は珍しいわけで。で、「デモはテロ」と考える人たちなんだから、沖縄の基地反対運動や安保法制デモに参加した人が逮捕されない方がおかしいことになる。

室井 しかも、一旦、捜査対象になったら、盗聴もやりたい放題になるんでしょ? 気に入らない人間をとりあえず逮捕して、それ以前に盗聴していた内容を使って微罪でも何でもデッチ上げられる。

斎藤 昨年の刑事訴訟法改正で、警察は盗聴し放題になったからね。あらゆる犯罪で、電話会社の立ち会いがなくても自由に盗聴できるようになった。それと、逮捕されなくても、共謀罪があるというだけで萎縮効果を生むというのが大きい。共謀罪の怖さは、そうした恐怖が空気となって常に漂い、お互いを監視しあい、人間不信に陥らせることです。特高警察が支配した戦前の日本や旧ソ連のKGB、旧東ドイツのシュタージ、いまの北朝鮮のような社会になるってことです。要するに思想や言論を処罰したい。それに尽きる。

室井 安倍さんが共謀罪に固執している目的も、最初はテロ対策なんて言っておいて、結局は条文案から削ってしまった。大嘘だった。本当の目的は自分たちにとって都合の悪い集会やデモ、話し合いを一切させないこと。その対象はテロリストではなく、“政権に逆らう人”なんだよね。

●安倍首相の説明は嘘だらけ! 本当の狙いは政権批判封じ

斎藤 もともと、共謀罪の本質は治安維持、つまり権力に従わない国民を片っ端から“犯罪集団”と認定し、権力を批判する人々を排除しようとするものだからね。しかも、共謀罪は安倍首相ととくに相性がいい。安倍首相の究極の願望は“国民が一丸となり同じ方向を向くのは当然”という全体主義だから、それを実現するには格好の道具になる。

室井 しかも、安倍さんって、こんな悪法でも手柄だと思っていて、「歴史に名を残したい」とか言ってそうだしな(笑)。

斎藤 安倍さんの御母堂・洋子サマによると“晋三は宿命の子”らしいからね。「文藝春秋」のインタビューで、そう話しているんだけど、いやはや、なんともはや、マンガだね、ありゃ。俺も『巨人の星』が好きで、“宿命のライバル”とかカッコイイとは思うけど、本気でマンガの主人公になりきった気になるほど幼稚じゃない。

室井 だったらうちの息子だって宿命の子ですよ。ていうか、母親にとって自分の子どもは全員が宿命の子です! それを首相の母親が公言するなんて、本当に恥ずかしい。あ、つい熱くなっちゃったけど(笑)、とにかく、怖いのはこんなとんでもない法律が通りそうなこと。安倍さんに「テロを防ぐためには絶対必要」と
言われて、信じちゃう人も結構いたもの。

斎藤 テロを取り締まる法律なんて、現時点でも事前の段階で取り締まれる各種予備罪のたぐいが合計58もあり、凶器準備集合罪のような独立した罪とあわせたら、いくらでもある。共謀罪なんて、タテマエとしたって必要がない。

室井 あと、私が一番呆れたのは、安倍さんが「国際組織犯罪防止条約」という条約締結のためにはこの法律が絶対に必要で、「この条約を締結できなきゃ、東京五輪を開けないと言っても過言ではない」って言ったこと。本当に五輪開催に必要なら、共謀罪をつくるんじゃなくて、オリンピックを返上したほうがいい。ていうか、共謀罪がなくても東京が開催地に選ばれているんだから問題ないはずでしょ? 

斎藤 あれはまったくの嘘です。国際組織犯罪防止条約を結ぶ187の国・地域のうち、締結に際して国内で共謀罪を新設したのはノルウェーとブルガリアのたった2カ国だけ。日本政府はこれまでに、国連のテロ対策関連条約のうち主要な13本を批准し、日本の国内法ではすでに57もの重大犯罪について「未遂」の前段階で処罰できるように整備している。日弁連も共謀罪立法がなくても国連条約締結は可能だと指摘しています。

室井 でも、そういうこと、全部ごまかしているでしょ。金田(勝年)法務大臣の国会でのめちゃくちゃな答弁、あれ何よ! ハイジャック目的の航空券予約は「現行法で対処できない」なんて言ってたのに、民進党の福山哲郎議員の追及で、現行法の予備罪が適用できることがバレたり。

斎藤 あの人には政治家の以前に、そもそも社会人としての資格も能力も著しく欠如しています。

室井 しかも金田大臣があまりにアホで答弁にすら答えられないから、「法案については成案を国会に提出した後、法務委員会で議論を重ねるべき」なんて文書まで出したでしょ。後になって撤回したけど、事実上の野党質問封じ、議論封じ。何やってんだか。でも、こんな調子でも、成立しそうだから怖いよ。

斎藤 安倍首相の辞書には「嘘」以外の項目が載っていないから。安保法制成立前の2015年4月にアメリカ議会で「一般に海外派兵は認めらない」なんて言ってたけど、これも大嘘だった。TPPも“絶対反対”って言っていたのに強行採決で成立させた。こうした安倍政治に国民はすっかり慣らされてしまって違和感さえももたないことも大きな問題だと思う。こんなことしてると、共謀罪どころかもっとひどいことになると思うよ。電話やネットだけでなく、事務所や団体に忍び込み、盗聴器や監視カメラを取りつけての監視活動さえ行われる危険性もある。これは実際に警察内部の検討会で「会話傍受」という名前で提案されていることなんだ。

室井 もうすでにやっていませんでしたっけ? 昨年8月に、大分県警別府署員が民進党関連建物の敷地内に無断で立ち入って隠しカメラを設置して、問題になったことがありましたよね。

斎藤 建物外に取り付けることはもうやっているけど、それを室内にまで広げようとしている。とにかく、僕たちが考えるよりはるかに異常な世界になっている。

室井 もう、どんどんそうなって来ていますよ。この異常な世界に何か対抗手段はないんですか?

斎藤 まず第一に、とにかくこんなバカげた政権をさっさと退陣させ、共謀罪だけじゃなくて、盗聴法だの“マイナンバー”──ホントは「スティグマ(奴隷の刻印)ナンバー」だけど──だの顔認証機能付の監視カメラ網だのといった、人間を支配するための悪法や仕組みを根絶する。で、そこまで持っていく過程で一番大切なのは「気にしない」ことでしょう。気にしはじめたら、たとえば「政権批判なんて一切やらないほうがいい」となってしまうけど、「やったら捕まるかもしれないけど、それは悪いことではない」という意識をもつこと。空気を忖度しない、これに尽きると思う。逮捕されても、「自分は正しいことをして捕まったんだから、何も問題はない」と思うしかない。少なくともこの場合は、ひとりよがりではないよ。悪法でも法は法、かもしれないが、こんなものは人間の真実なんかじゃない。人間にはやっていいことと悪いことがあるんだ。

室井 それは斎藤さんがジャーナリストで、権力批判をするという当然の責務をもっているから。でも多くの一般の人は、やっぱり怖いよ。心のなかを覗かれて、会話を盗聴されて、ちょっとでも気に入らないと逮捕されて。それで新聞に実名が載っちゃうんだよ。サラリーマンだったら解雇されちゃうかもしれないし。

斎藤 僕だって積極的に捕まりたいとは思わないよ。でも今のような絶望的な世の中で、無理をして保身に汲々してもひとつもいいことない。何よりも、支配されるだけの生き物に成り下がったら、人間はオシマイじゃないですか。だから開き直るしかないと思っている。

室井 安倍さんに寿司に誘われて喜んで食べているメディアの人たちは、保身しか頭にないみたいだけど(笑)。

●安倍政権下で進むグローバル資本主義ファシズム

斎藤 メディアの体たらくは論外ですね。共謀罪は最近になってようやく反対キャンペーン的な報道も散見されるようになったけど、それだって市民運動の力に押された結果。独自の調査報道なんて、まずやろうとしない。そもそも監視社会のテーマがすごく嫌われるようになった。以前は「週刊文春」でも連載させてくれたけど、いまはメディア状況が激変した。「そんな話題は誰も興味がないから、やめてくれ」と言われてしまう。

室井 マスコミだけじゃなく、フリーのジャーナリストも変わってきてません? だって2002年の住基ネットや、2003年の個人情報保護法にしても、多くのジャーナリストが集まって反対の声を上げたけど、マイナンバー制度や共謀罪については批判の声が少ないと思う。

斎藤 そうなんだ。「斎藤さん、頑張ってください」で終わり。以前は監視社会の恐ろしさや問題点を知っている人たちが現役だったからね。古い世代の人々は戦争を体験していたり、皮膚感覚で権力の暴走の怖さをわかっていた。でも、あれから10年以上経ったいま、当時運動をしていた人たちも高齢化し、いい加減くたびれたんでしょう。そして何も知らない若者が大人になり、ネットなどで番号に慣れちゃって鈍感になっている。さっき、旧ソ連や旧東ドイツ、北朝鮮みたいなファシズムになるといったけど、共産主義ではないので、グローバル資本主義によるファシズム社会が出来上がりつつある、と言った方が正解ですね。世界的に見てもそう。新自由主義やグローバリズムというのは、巨大資本の経済的利益以外のものに一切の価値を認めない。みんなが金持ちになるというならまだしも、いまで言うところの“成長”の意味って“下々の金を吸い上げて、大企業が太る=成長”でしかないんだけどね。

室井 なんでみんなそのことに気がつかないんだろう。私はこの現状を、なんとか大きく変えたいんだけど。

斎藤 それは僕もそうだけど、焦ってもしようがない。とにかくいまは自分を見失わないようにと常日頃考えている。監視社会の問題点を取材し続けてきたけど、最近は「もしかして自分のほうが狂っているのか?」と思うときさえあるからね(笑)。

室井 その気持ちよ〜くわかります。世論調査で安倍さんの高い支持率が出ると、「ひょっとして私が間違っているの?」と思うことがあるもの。でも潮目が変わるときはきっとくる。それにマスコミにもやっぱり期待したいんです。私は1970年代生まれですけど、その世代の文系の最高峰って、朝日新聞社の記者になるというイメージが強い。頭が良くて正義感もあって。だから「金儲けがすべてじゃない。金儲けばかりを唱えている人間は恥ずかしい」という社会正義の観点があった。それを取り戻して欲しい。

斎藤 確かに僕と同世代か上の人で、記者になったような人たちは、「戦争のない世の中をつくりたい。平等な世界をつくりたい」という動機が主流だった。僕なんかはその中では、最も志の低い記者でした。

室井 私の本業は、物書きじゃないですか。物書きってみんな、戦争反対とか、権力を疑うという共通の意識があると思ってた。新聞記者やテレビに出ているコメンテーターも含め、権力批判するのは当たり前だと思っていました。でもそうではなく権力をヨイショして、平気で戦争に協力しようとする人がどんどん増えて。逆に、誰も「戦争反対」って声を上げなくなってしまって。そんなのって、鼻から牛乳を飲むくらいおかしなことでしょ? こんな状況でヤバイくない? それとも、私がおかしいの? わからなくなっちゃう。

斎藤 でもちょっといい話がある。昨年12月6日に保阪正康さんの『ナショナリズムの昭和』(幻戯書房)の出版記念パーティーがあって、文藝春秋の松井清人社長が発起人代表として挨拶した。そこで松井社長は「“右翼的独善”の象徴みたいな政権に対して、正面からモノを言いにくい。(メディアが)異を唱えようとしない現状はおかしい」と発言したんだ。同じく文藝春秋の元専務だった半藤一利さんも、「昔は“反動”と言われていた私が、今や極左と言われている。世の中、どうなっちゃったの?」だって。あの文藝春秋の社長や元幹部が、だよ。保守の代表メディアでさえも危機感をもつほどヤバい世の中ということだし、そもそも物書きやメディアが権力批判をするのは当たり前。しかもそれが商売だし特権でもあったはずだからね。

室井 そんな特権を捨てちゃういまのマスコミってバカなのかな。

斎藤 バカなんでしょう。なんてもったいない。ほとんどの職業は“お上”がどんなに酷いことをやっても、逆らわず、その枠のなかで儲けることが賢いと考えられていると思うけど、しかしマスコミと物書き、弁護士と大学の先生は、権力批判が生業なんだ。特権というか、それが責務のはずなんだけどね。

室井 でも、実際のメディアは萎縮しきっていますよね。安倍政権についてだけじゃなく、視聴者や読者のクレームやネットでの批判にも過剰に反応する。だから、萎縮させない努力しているんです。いいことを書いた記者には「よく戦った」と名前を出して褒めるようにしています。

斎藤 僕も講演会で「私たち市民はどうすればいいですか?」と聞かれたら、「いいと思うメディアがあったら、ぜひ直接電話して褒めてください」と言うようにしています。マスコミはこのところ、文句ばかり言われているからね。良い報道は褒めてもらわなくちゃ。

室井 『ニュース女子』(TOKYO MX)問題で、安田浩一さんや津田大介さんがMXへの出演を拒否していたのも、それはひとつの見識だと思うけど、私はテレビ局との意見が違っても、サンドバックのように批判されても、追い出されるまでテレビに出続けます。自分から「もう出演しません」と言ったら負けだと思うから。それでもし追い出されたら「追い出された! 追い出された!」と言いまくる。それも作戦だと思ってる。

斎藤 それもまた見識だと思います。多様性を否定し、権力に隷属させようとするのが共謀罪の本質です。だからこそ室井さんのような存在は貴重だし、必要なんだ。

室井 じゃあ、最後にもう一度確認しますけど、私と斎藤さんが異常なわけじゃないんですね。

斎藤 もちろん(笑)。でも、異常と言われても最後まで頑張って共謀罪を阻止しましょう。

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斎藤貴男 ジャーナリスト、1958年生まれ。日本工業新聞、「週刊文春」記者などを経てフリーに。著書に『「非国民」のすすめ』、『ジャーナリストという仕事』
『「マイナンバー」が日本を壊す』、「『戦争のできる国へ──安倍政権の正体』など多数。

室井佑月 作家、1970年生まれ。レースクイーン、銀座クラブホステスなどを経て1997年作家デビューし、その後テレビコメンテーターとしても活躍。現在『ひるおび!』『中居正広の金曜日のスマたちへ』(TBS)、『あさイチ』(NHK)などに出演中。

最終更新:2017.11.20 06:36

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