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マイナンバー制度で「キャバ嬢」が激減する? 会社バレ、家族バレ恐れて副業キャバ嬢の3割が退職の調査結果
『「キャバクラ」の経済学 なぜ、男たちは「彼女」に財布を開くのか?』(イースト・プレス)
2016年の1月からいよいよ本格的な運用が開始されるマイナンバー制度。情報流出の危険性など、運用開始前から不安視する声の絶えない本制度だが、このマイナンバー制度が導入されることにより、大ダメージを受けるのではと囁かれている業界がある。
それは「キャバクラ」だ。キャバクラ嬢は会社や家族に内緒で副業として働いている人も多いのはよく知られた話だが、ではなぜ今まではその副業がバレずにすんでいたのか? その秘密は、彼女たちがお店と一般的な社員・アルバイト扱いの雇用関係を結んでおらず、「個人事業主」扱いとして働いていることにある。
個人事業主である彼女らは、本来であれば毎年確定申告を行わなければならないのだが、お店がその旨を教育していなかったりするケースが多く、申告していない人が多い。であれば、税務署から連絡が行かないと本当はおかしいのだが、税務署も収入の実態把握が難しく、またその数の多さにひとりひとり追いかけるようなことは今までしてこなかった。だが、マイナンバー制度が始まれば、収入の把握は容易になり、これからは確定申告を行わないということはできなくなる。すると、副業の所得も住民税に反映され、会社にバレることになるのである。
そのことについて、最近出版された、山本信幸『「キャバクラ」の経済学 なぜ、男たちは「彼女」に財布を開くのか?』(イースト・プレス)にはこのように書かれている。
〈マイナンバー制度が始まったことによって、キャバクラ運営会社はキャバクラ嬢も含めて店で働く人のマイナンバーを収集しなければならなくなった(中略)。
会社に内緒でWワークをしている会社員の女性や夫に黙って働いている主婦も困ったことになる。女性会社員は個人住民税を会社が「特別徴収」という給料天引きの方法で徴収(地方税法上の義務)している。副収入がある人は会社に申告してまとめて「特別徴収」してもらうか、市区町村から送られてくる納税通知書を使って自分で納める「普通徴収」に切り替えるという方法があるが、特別徴収を普通徴収に切り替えると副業禁止が徹底している会社ほど副業を疑う(←ココが重要)ようになる。コンプライアンス絡みで調査が入るかもしれない。
これまでは特別徴収のままにしておいても、この業界は本人の特定が難しいためにバレにくかった。だが、2016年以降(マイナンバーを使った最初の確定申告は2016年の収入を2017年の確定申告期間に行うとき以降)はマイナンバーによって名寄せされて会社の収入もキャバクラの収入も税務署に把握され、特別徴収のままでは恐らく会社にバレるのではないか。といって普通徴収にすると、今度は会社に怪しまれる〉
マイナンバー制度の開始により、多くの副業キャバ嬢がいなくなると巷間言われている理由はここにある。副業が禁止されていない会社なら良いが、それでも特別徴収のままであれば会社にキャバクラで働いていることが明るみになる可能性がある。それでもOKならば良いが、職業に貴賤はないと言うものの、キャバ嬢との副業にまったく嫌な顔をしない一般企業というのも少ないはずだ。
さらに、このマイナンバー制度によって「家族バレ」の危険性も高まる。
〈専業主婦のキャバクラ嬢はもっと大変だ。夫は毎年11 月頃に「給与所得者の扶養控除(異動)申告書」を会社に提出している。ここには家族のマイナンバーを記入する欄がある。専業主婦のキャバクラ嬢はキャバクラに提出したマイナンバーと夫が会社に届けたマイナンバーがひもづけられて、合計所得額38万円以下(65万円の給与所得控除があるのでパートやアルバイトの身分で働けば103万円まで)の配偶者控除の枠からはみ出して、夫バレする可能性が高まる〉
「パートの時間を増やした」など、別の理由で乗り切れない限りこれまで通りというわけにはいかなくなる。夫公認のキャバ嬢であれば問題ないが、そういう人はおそらくそんなにいないだろう。
「東洋経済オンライン」15年9月29日付の記事によれば、これを機に副業キャバ嬢を辞めようと思っている人は29.9%にもおよぶという(門倉貴史「夜の街で働く「副業キャバ嬢」がいなくなる日」)。副業で働く人も多く、その「素人感」が人気の要因でもあったキャバクラは、マイナンバー制度の本格運用を境に大きな転換期を迎えるのかもしれない。
このような「税金」をめぐるあれこれもそうだが、キャバクラ業界には他にも意外なルール・慣習が数多く存在する。同書からいくつかご紹介してみたい。まず、席に座りキャストのお姉さんと話すとき、なんの仕事をしているか聞かれることがあるが、実はそれにはこんな理由があった。
〈お客のアンケートを取るわけではないが、キャストが新規のお客には必ず職業を聞く(会話のきっかけをつくるためでもある)ので、いまどのような業界の人が多いのかがわかるのだ。
これは暴力団関係者の入店を防ぐ意味もある。話がそれるが、キャバクラは暴力団関係者の入店を認めていない。外見でハッキリわかるお客はフロント(入り口)でカット(拒否)する。しかし、外見で判断できず入店を認めてしまった場合、キャストとの会話の中で明らかになることがある。こうしたケースではキャストが担当に客の身分を告げ、店長が「店が混んできたので長くいるお客さんには一度退店をお願いしている」というような「理由にならないような理由(何でもいい)」をつけてお引き取り願う〉
かつて、新宿駅東口アルタ脇から歌舞伎町一番街につながる靖国通りまでの100メートルほどの小道を「スカウト通り」と呼んでいた時期があった。それだけスカウトマンで溢れていたわけだが、今ではそのような光景は見られない。05年以降、迷惑防止条例が改正され、おおっぴらにスカウト行為を行うことはできなくなったからだ。でも、優秀なキャストを集めるためにスカウトは必須だ。なので、今ではこんなスカウト手法がとられているという。
〈そこで直接的なスカウトに代わる新たな手法も生まれている。たとえば「ネイルの初回無料サービスの勧誘」の体で声をかけ、実際にネイルサービスを経験させた上で、名刺を渡して「実は……」と切り出すというのだ。もちろんキャバクラとネイルのお店は裏でつながっている。表立ってのスカウトができなくなった分、いまはこのような回りくどいスカウトをする店も出てきているようだ。要は最終的に名刺をもらったキャストが後日店に電話をしてくれればOKなのだ〉
このようなスカウトを介したり、もしくは同業のキャバクラ嬢同士のネットワークを使ったりで、この業界は入れ替わりが多い。キャストの平均在籍期間は3カ月〜6カ月だというから驚きだ。そのようにハイペースで人の入れ替わりがあると、外から見ると良さそうにみえたお店でも、いざ入店してみたら「前の店のほうが良かった……」というケースは往々にして起こり得る。そんなとき、「出戻り罰金」という罰金さえ払えば、キャストは簡単に前の店に帰って来られるのだという。
〈キャストは簡単に店を替わる。でも、替わった先が前の店よりも居心地が悪いとき、平気で戻ってくる。また店側もそれを許す。サラリーマン社会では、ソニーを辞めてパナソニックに入ったけれど、1カ月働いてみて社風が合わないことがわかったから出戻りしたいといっても認められるものではないが、この世界はよほど能力のないキャスト以外はOK。その代わり、1カ月〜数カ月間月給の50%しか支払わないというペナルティを科すことがある。ただし、店のほうから戻ってほしいと考えている実力派キャストの場合は、ペナルティなしで戻ることができる。この場合は、かつての担当から「戻らない?」というお誘いがかかるはずだ〉
以上見てきたように独特な風習の多いお水の世界。だが、今回のマイナンバー制度の導入でネオン街もある程度変わらざるを得ないのは間違いない。特に、人材不足に悩む店が出てくることは大いに考え得る。ひょっとしたら店同士でキャストをめぐる争いなども起きるのかもしれない。
マイナンバー制度はあらゆる場所で混乱を引き起こす、来年最大の災厄になるかもしれない。
(田中 教)
最終更新:2016.08.05 06:39
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