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橋下待望論にだまされるな! 都構想否決のおかげで日本は改憲の危機から救われたのに
待望論にきな臭い香りが……(橋下徹オフィシャルウェブサイトより)
看板だった「大阪都構想」が否決され、政界引退を決めた橋下徹・大阪市長。すでに市民の手によってジャッジは下ったはずなのだが、先日、まったく意味のわからない世論調査結果が次々と発表された。
それは、大阪都構想否決について「評価するか、しないか」という全国世論調査だ。5月25日に、毎日新聞による全国世論調査、また産経新聞社とFNNによる合同世論調査の結果が公表された。
毎日の調査によると、都構想が否決されたことを「良かったと思わない」との回答が42%で、「良かったと思う」が36%。また産経とFNNの調査でも、都構想が反対多数で否決されたことを「評価しない」と回答したのが46.4%で、「評価する」と回答したのが39.6%。この数字を上げて、産経は〈約1万票の僅差で反対が多かった投票結果とは逆の評価となった〉と主張するのだ。
また、いずれもごていねいに支持政党別でも調査しており、たとえば産経新聞では〈都構想に反対した自民党支持層でも「評価しない」は47.6%で、「評価する」の41.0%を上回った〉といい、大阪市を含んだ近畿ブロックでも、「評価しない」が54.9%、「評価する」が37.7%であったことを強調。さらに、橋下が政界引退を表明したことを「評価する」が58.1%、「評価しない」が36.2%だったとしている。
いかにも「多くの人が都構想の実現を望んでいた」「政界引退を決めた橋下徹は潔い人物だ」と印象付ける数字だが、ちょっと待ってほしい。一体、どうしてこんな調査を行う必要があるのか? そもそも都構想実現によって直接の影響を受ける大阪府民以外、どれだけの人が関心を寄せていたというのか。東京のメディアですら都構想問題を熱心に報じたのは住民投票実施後で、多くの人は「自分たちには関係のない大阪の話」と片づけていたはずだ。そんな人たちにわざわざ都構想の是非をいまさら問うことに、なんの意味があるというのだろうか。
だいたい、この「都構想が反対多数で否決されたことを評価するか否か」という設問自体が愚問だ。都構想自体に興味も関心もなかった人びとにとってこの質問は、結局、「橋下徹を評価しなかった結果をどう思うか?」という問いかけと同じ。結果をまとめれば、世論は「都構想のなにが問題だったのかとかはわからないけど、橋下さんの引退表明会見を見たらさわやかな感じだったし、政治家として惜しい人をなくしちゃったんじゃないの?」のような意見が多数である、ということに過ぎない。事実、この結果を受けて維新の柿沢未途幹事長は「橋下徹という政治家を失う意味の大きさに、否決との結果が出てから気づいたのではないか。後の祭りだが、大変無念だ」と記者団に語っている。もちろん、こうした意見が多くを占めた理由は、しきりにメディアが橋下を持ち上げ、「市民のあいだで橋ロス現象が起こっている!」と煽っているからだろう。
しかし、だからこそ声を大にして言っておきたい。大阪市民が下した賢明なジャッジによって、日本はかろうじて救われたのだ、と。
既報の通り、橋下は昨年末の衆院選前に安倍首相や菅義偉官房長官と“密約”を結び、官邸による都構想バックアップの見返りとして橋下と維新の党の連立への合流、憲法改正への協力を約束していた。都構想が実現していれば、来年夏に行われる参院選の前に橋下が維新の党を割って自公連立に合流し、自ら出馬。もちろん都構想で弾みをつけた橋下をはじめ維新は圧勝をおさめ、両院で憲法改正の3分の2を確保、一気に国民投票まで持っていく……というシナリオだった。
だが、今回、都構想が否決されたことで、このシナリオは大きく崩れ、憲法改正の発議に必要な3分の2を確保できるかどうかがあやしくなってきた。大阪市民のおかげで改憲に待ったをかけることができ、まさに首の皮一枚、ギリギリつながったのだ。
とはいえ、まだ油断はできない。最初に紹介した世論調査結果しかり、メディアは必死に「橋下待望論」を喧伝しているからだ。
それが顕著だったのは、24日に放送された『サンデー・ジャポン』(TBS系)。もともと橋下は当番組のレギュラー出演者だったが、「日本人による買春は中国へのODAみたいなもの」と発言したことが批判を浴び、自ら番組を降板したという経緯がある。いかにも橋下らしい差別思想が滲み出た発言だったが、この騒動をすっかり忘れたのか、「橋下さん サンジャポ出演お待ちしています!」と歓迎ムードに。大阪に住むドラァグ・クイーンのナジャ・グランディーバだけは「橋下さんが来て、大阪なにか変わりましたか?って言われると、これが変わったなって思いつくことがまったくないんですよね」と実感を述べたが、その後は「(橋下は)大健闘だと思う」と奥仲哲弥・山王病院副院長が褒め称えはじめ、“70代以外は賛成だった”と例の出口調査の結果をもとに主張。デーブ・スペクターも「これで全部おしまいというのは(違うのでは)」と言い、テリー伊藤は「(橋下は)話術うますぎ」「業界戻ってきたら、人気者になる」と太鼓判を押した。
当然、橋下を狙っている番組は『サンジャポ』だけではない。一部報道では、苦戦を強いられているフジテレビの情報番組『直撃LIVE グッディ!』が安藤優子の後釜として橋下の起用に動いていることや、『スッキリ!!』(日本テレビ系)『あさチャン!』(TBS系)『報道ステーション』(テレビ朝日系)なども橋下獲得に走っているとの情報を伝えている。きっとこうしたオファーは、もともと出たがり体質の橋下にとってはまんざらでもない話だろう。
しかも、橋下が再びテレビ番組に引っぱりだことなれば、メディアで憲法改正の必要を訴える役割を橋下が買って出るのではないか。以前から、「憲法改正は絶対に必要だ。安倍首相にしかできない。できることは何でもしたい」と発言してきた橋下だけに、メディア側も改憲派として橋下を大いに利用するだろう。
もちろん、橋下にとってはテレビのコメンテーターとしてだけではなく、政界復帰も念頭にあるかもしれない。民間から大臣に選ばれるという線もあるし、内閣参与のようなブレーンとして安倍政権にかかわる道もあるからだ。
だが、もう一方で、ここにきて自分の手下を政界に送り出して裏から橋下が操作するつもりなのでは?という見方も浮上している。というのも、橋下の盟友である松井一郎・大阪府知事が12月の任期満了をもって府知事を退任し、来年夏の参院選に出馬するという噂が流れているからだ。さらに、府知事の後任には、元読売テレビのアナウンサーでキャスターの辛坊治郎を候補者として立てるのでは、という情報まである。橋下は、自分のエピゴーネンとも言うべき近しい人物を政界に送り出し、彼らを巧みに操るという院政を敷きながら、自身はテレビを通して持ち前のパフォーマンス能力を十二分に発揮して世論を改憲へ導く……。
どちらにせよ、橋下の“わかりやすい敵を仕立て上げて口汚く罵る”というお決まりのパターンはテレビのショーとしてはうってつけで、メディアが橋下を放っておくはずはない。そうして橋下が安倍首相応援団となり、憲法改正を煽動する発言を繰り返しはじめたら──。想像しただけで恐ろしい展開が、今後待っているのかもしれない。
(水井多賀子)
最終更新:2017.12.21 05:05
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