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小倉智昭の「萩原流行が反日映画出演」発言はデマ、ネトウヨ並みのレッテル貼りだ!
小倉智昭と萩原流行(左・フジテレビ『とくダネ!』番組サイトより/右・YouTube「ANNnewsCH」より)
4月22日、俳優の萩原流行(62歳)がバイク事故で急死した。2008年には夫婦揃ってうつ病を発症していることを発表。ここ2年の間に3回もの交通事故を起こしていることから、一時は自殺説も取沙汰された。
そんななか、あの小倉智昭が『とくダネ!』(フジテレビ系)で萩原の「中国の反日映画に出演した」過去をあげつらい、話題になっている。
4月23日放送の同番組で、小倉は「私にとって大変ショック…」といいつつ、萩原とのこんなエピソードを話し始めた。
「亡くなったから初めてこういうこと言えるんですけど、いろいろ誤解されやすい俳優でね。(略)一時事務所の受け入れ先がなくなったときに、僕のところに相談に来て、どうにかなる?と言うから、いいよと、僕頼んであげるからとウチの事務所にきて、しばらくウチの事務所で頑張っていたんですけど」
萩原は一時、小倉が所属し、取締役もつとめる「オーケープロダクション」に属していた。ところが、この後、萩原との心温まる思い出が語られるのかと思いきや、小倉の話は意外な方向に進む。
「去年、中国のいわゆる反日映画に日本人役として出るということで、彼がそれを引き受けてきたんですね。でも、事務所はそれはマズいでしょうということで、事務所はその仕事だけは辞めてくれと言ったんですが。でも、彼はプロデューサーと約束したから、約束は守らなくてはいけないから。それならだったら俺は事務所を辞めてやると」
たしかに、萩原は小倉の言う「反日映画」らしきものに出演していた。正確には映画ではなく、中国にとって戦勝70年の今年15年を記念して中国中央電視台が制作費1億元(約16億円)を投じて制作したドラマ『東方戦場』だ。内容は1931年の満州事変から終戦までを描いたもので、日本におけるNHKのような存在である中国中央電視台にとって、この作品はいわば大河ドラマであり、その日本人役として萩原に白羽の矢が立った。
だが、この作品に出演することが判明するや、萩原は大きな批判を浴びる。ネットでは「反日役者」「萩原は日本に帰って仕事出来ると思うなよ」「鬱病が相当悪化してるのか?」「日本人ではない在日俳優だろうが、日本人として出る事が許せない! 本名使え!」といった誹謗中傷にさらされ、一部のスポーツ紙でも「萩原が抗日ドラマに出演」などの記事が掲載された。
さらに「週刊新潮」(新潮社)14年5月1日号は、こんな批判記事を書き立てた。
「このドラマは中国政府が進める『抗日戦争勝利70周年記念』事業の一環で、制作に共産党宣伝部が名を連ねていることから、“歴史的事実”に基づくかどうかは眉唾ものだ」
「ある芸能事務所社長はこう危惧する。『出演料は、1日10万〜30万円と中国では破格。これは日本国内のテレビドラマと比べても、決して悪くありません。高額なギャラに目が眩んでオファーを引き受ける俳優は、少なくないかもしれません』」
今回の小倉の発言はこうした批判に完全にのっかったものだ。事務所が「反日映画」出演に反対するのは当然であり、それを押し切って出たことが萩原の転落の始まりだったかのように、この騒動をふりかえったのだ。
だが、萩原と親しい芸能関係者によると、事情はまったくちがう。萩原は独断でドラマへの出演を決めたわけではなく「事前に事務所に相談し、オーケーをもらっていた」。ところが、その後、ネットの批判やマスコミ報道などが広がったことで事務所の態度が豹変。「慌てて『辞めろ』と言い出した」のだという。
「オーケープロダクション」は小倉を筆頭に、室井佑月や宮川俊二、長田新、諸星裕などのアナウンサーやコメンテーターを多数抱える事務所のため、“反日”という色がつき、バッシングの対象となり、槍玉に挙げられることを恐れたのだろう。萩原としては途中ではしごを外されてしまった、というわけだ。
しかも、このドラマ、実際は「反日」でもなんでもなかったらしい。ドラマの脚本の完成版を読んだ萩原と親しい映画関係者は、こう語る。
「戦争によって中国人も韓国人も、そして日本人も戦渦に巻き込まれていく。ドラマはそんな戦争の悲惨さを描いた作品でした。萩原さんはA級戦犯役として処刑された板垣征四郎の役でしたが、それも単なる悪役の“日本鬼子”ではなく、人間的な感情豊かな人物として描かれていた。そうでなければ、萩原さんだって引き受けるはずがない」
実際、このドラマは中国当局の意に添わず、結局はお蔵入りしている。そのことを考えても、萩原への「反日」攻撃は明らかに濡れ衣なのだ。
それを小倉はレッテル貼りをするネトウヨと同様、「反日映画に出演して事務所を辞めた」などと喧伝したのである。そもそも、小倉は萩原を解雇した「オーケープロダクション」の取締役に名を連ねる「事務所幹部」。いわば“反日ドラマに出るな”と萩原に言った事務所側の人間であり、少なくとも事情を知っていたはずだ。それをネグってあたかも萩原に責任があるかのような言説をふりまくのは、卑劣としか言いようがない。
ただ、今回の騒動はたんに小倉の性格の悪さや事務所のご都合主義、というだけではすまされないもっと根深い問題もはらんでいる。
それは、小倉の発言、さらにそれを報じたスポーツ紙やネットニュースから“反日映画に出演することは解雇理由として当然”といった認識がうかがえることだ。
そもそも、萩原が出演したドラマが仮に「反日」ドラマだったとしても、そのドラマに出演することで芸能界からパージされるいわれはまったくないはずだ。日本が犯した戦争犯罪を描こうとした海外の映画に出演しただけで、「反日」というレッテルを貼られ、非国民扱いされ、事務所から解雇され、社会からはじきだされる──。これでは、まるで戦前の言論統制社会と同じではないか。
だが、現実には、この「反日」というキーワードは今、想像以上に表現や言論への圧力として猛威をふるっている。韓流ドラマを放映するだけでデモが起こり、番組に広告を出稿する企業にまで不買運動が広がる。加えて政権までもが嫌韓反中ヒステリーの舵取りまがいのことを行うという異常事態で、テレビ局も芸能事務所も抗議に脅えきっている。そして、マスメディアやワイドショーのキャスターが平気でネトウヨの専売特許である「反日」という言葉を使ってレッテル貼りをする。
この調子だとそのうち、中国映画や日中合作映画、韓国映画に出演しただけで俳優は日本の芸能界に身の置き場がなくなる──そんな日がやってきても不思議ではない。
(田部祥太)
最終更新:2017.12.23 07:11
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