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ピエール瀧めぐる松本人志とビートたけしの発言は芸術への冒涜だ! 松本「ドラッグで演技はドーピング」の無教養
松本とたけしの発言が!(『ワイドナショー』、『情報7days』番組HPより
ワイドショーの話題を独占し続けているピエール瀧の逮捕報道。瀧が出演していた映画・ドラマの撮り直しや公開中止、音楽作品の販売停止などが相次ぎ、作品と不祥事の関係にスポットが当たっているが、映画監督でもある大物芸人からとんでもない発言が飛び出した。
ひとりめは、もちろん松本人志。電気グルーヴとはこれまで何度も共演してきた松本だが、3月17日放送『ワイドナショー』(フジテレビ)で、もしも自分の監督した映画でこのような事件が起きた場合、どのような対応を望むかを、こう話したのだ。
「たとえば、自分が映画監督をした、で、公開前に主役級ぐらいの人が薬物で捕まった。僕はね、結局、薬物という作用を使ってもしかしたらあの素晴らしい演技はやっていたのかもしれないと思ったら、それはある種ドーピングなんですよ。ドーピング作品になってしまうので、僕はやっぱり、監督としては公開してほしくないですよね」
「作品に罪はない、罪はあるっていうことでいうと、僕は場合によってはあると思うんですよ。(音楽の)レコーディングの時にそういうものを吸っていてすごく良いものができたんだとしたら、これは僕はドーピングだと思うので、ダメだなと思いますね」
芸術作品にドーピングって、こいつはいったい何を言っているのか。創作活動は、薬物に限らずいくつもの様々な外的要因・内的要因の影響を受ける。その複雑に絡み合った様々なファクターの何がどう作品に影響しているかどうかなど、不分明だ。筋肉増強剤みたいに、摂取して筋トレしたらこれだけ筋肉がつくみたいな単純なものではない。筋肉増強剤や筋トレみたいに数字に換算できる明確な効果のあるものと、数字や理屈では説明しきれない創作活動の違いすらわかっていないのか。クリエイティブについてこんな程度の認識で、「自分も映画監督」などとよく言えたものだ。
だいたい松本は、音楽・文学・美術・映画……古今東西のあらゆるジャンルの表現が、薬物やアルコールと強い結びつきがあったという歴史を知らないのか。ドーピングだからダメなどと言い出したら、歴史上の多くの芸術作品がダメということになってしまう。太宰治も坂口安吾もビートルズもセックス・ピストルズもダメだし、バロウズなんてドーピング作品の典型になってしまう
松本のこの頭の悪すぎるドーピング発言に、案の定、ネットでは批判が噴出。「おまえも、アルコールを飲んで番組をやってるだろ」というツッコミの声も上がった。『ダウンタウンなう』(フジテレビ)の「本音ではしご酒」という企画で、松本がアルコールを飲みながらトークを展開しているためだが、唖然としたのは、松本が18日にツッコミに反論するようにこうツイートしたことだった。
〈ひとしです。
コカインがドーピングなら酒を呑みながら番組やってるお前もドーピングだろ!って言ってくる人がいるとです。
お酒は非合法ではありません〜
ひとしです。ひとしです。ひとしです…〉
松本は演技を水増ししているからダメだと言っていたはずなのに、いつのまにか、非合法かどうかという話にすりかえてしまったのだ。薬物の力で「演技が変わる」ということを問題にしているのであれば、アルコールでも同じはず。それとも、アルコールは合法だから適度なドーピングということなのか。
ようするに松本は、“純粋なクリエイター”のポーズをとるために「ドーピング」などという言葉をもちだしただけで、実際はそのへんのワイドショーコメンテーターと同じ、「違法だから作品も上映しちゃダメ」と言っているだけだったのだ。この程度の作品への姿勢でよくもまあ、映画監督ができていたものである(まあ、だから映画がつまらなかったのかもしれないが)。
しかも、松本は新井浩文については「ドーピングではない。被害者との問題になってくるので別問題」と語っていた。松本にとっては強制わいせつや性的暴行は違法の範疇に入らないということらしい。
たけしは「『アウトレイジ 最終章』で落ち着いていたのはクスリのせい」と
ひどいのは松本だけではなかった。3月16日放送『新・情報7daysニュースキャスター』(TBS)でビートたけしは、ピエール瀧も出演した2017年公開の映画『アウトレイジ 最終章』撮影現場でのエピソードを語った。
『アウトレイジ 最終章』はピエール瀧をアップで映したカットから始まる。ベテランの俳優でも緊張する撮影だが、ピエール瀧は難なくこなしたという。ビートたけしはその話を明かしながら、「実はあのときクスリをやっていたのではないか?」という憶測を語ったのだ。
「このときね、この人すごいなと思ったことがあるのよ。『アウトレイジ 最終章』の最初のカットはこの人のヨリの顔なの。したら、落ち着いてるわけ。俺の映画なのに。普通アガっちゃうんだけど」
「この人、気強いなと思って。でも、実はあのとき、あれかなって。記事読むとね。実は気の弱い人なんじゃないかな。逆に。だから、あんなに落ち着いてやったのかなと思って。わかんなかったね、全然。『うまいね』と思ってた」
ようするに、松本と同じで、たけしはやはり瀧の落ち着いた演技をドラッグのせいにしたのだ。しかし、コカインは基本、アッパー系のドラッグであって、落ち着くなんて話はあまり聞いたことない。それを「いま思えば……」って、これじゃあ、ワイドショーに出てくる「犯罪者の隣人」と変わりないじゃないか。
多くの芸術作品は、現状の社会の法律や倫理の枠に収まらない人間の狂気によって生まれ、そのことでいまある社会からこぼれ落ちている人間を救ったり、新しい時代を切り開いてきた。そして、そうした作品の典型が北野映画だったはずだ。それなのにこんなつまらない発言しかできないとは……。
復興を祝う『あまちゃん』総集編の後編を中止にしたNHK
しかし、松本、たけしのこうした言動は、彼らだけの問題ではない。むしろ、既成の価値ではおさまらない表現にまで踏み込んできたふたりがこんな凡庸な発言をしたというのは、それくらい日本の社会やメディアが「法を犯したものがかかわった作品はすべて自粛して当然」という価値観に覆われているということだろう。
実際、今回の事件では、映像作品・音楽作品で過剰としか思えない自粛が相次いでいる。なかでもひどいのが、NHKだ。大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』でピエール瀧の出演部分をすべてカット、代役に立てて撮り直すことになったのはやむをえないとしても、信じがたいのは、三陸鉄道リアス線開通を祝い、NHK BSプレミアムで放送される予定だった連続テレビ小説『あまちゃん』の総集編への対応だろう。
3月17日に前編、3月24日に後編が放送されるスケジュールだったが、ピエール瀧の出演がない前編が予定通りオンエアーされたものの、ピエール瀧の出演シーンのある後編は放送が見送られた。
これに対し、『あまちゃん』で音楽を担当した大友良英は〈やはりどう考えても「あまちゃん」後編の放送自粛は良くない。再放送が三陸鉄道リアス線開通祝いのためにあること。犯した罪を裁くのは司法であるべきで番組の自粛では何も解決しないこと。そもそも一個人の問題であり番組が連帯責任を負うべきものではないことなどが理由。どうにかならないものか〉とツイートしている。
東日本大震災からの復興を祈る目的の再放送であるのならば後編も放送しなくてはその意図が視聴者に伝わらないのは自明で、こんな「右にならえ」「出た杭になりたくない」というような反応しかできないのであれば、何の意味もない。NHKは自分たちが社会に対してどんなメッセージを送りたくて番組をつくっているのか、もう一度胸に手を当てて思いを馳せるべきだろう。
NHKはピエール瀧作品のかわりにヘロイン過剰摂取俳優出演の映画を放映
NHK BSプレミアムといえば、こんな全身の力が抜けるような呆れ果てた話もある。
NHK BSプレミアムでは、3月16日に『ALWAYS 続・三丁目の夕日』を、23日に『ALWAYS 三丁目の夕日’64』を放送予定だったのだが、急きょ、『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』および『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』に差し替えると発表したのだ。NHKは「もともと近く放送予定があったもの」(「BuzzFeed News」の取材に対し)だというが、なんのジョークなのか。
『インディ・ジョーンズ 最後の聖戦』には、1993年にコカインとヘロインの過剰摂取により23歳の若さでこの世を去ったリバー・フェニックスが、主人公インディ・ジョーンズの少年時代というメインの役どころで出演しているのだが……。
ようは今回の放送中止は、薬物犯罪に関する明確な問題意識によるものなどでなく、単にクレームや批判を恐れての事なかれ主義でやっているだけということがよく現れているだろう。
音楽業界も同じだ。ソニー・ミュージック・レーベルズは電気グルーヴのCDを出荷や楽曲の配信を停止した。
坂本龍一は〈「電気グルーヴのCDおよび映像商品の出荷停止、在庫回収、配信停止」なんのための自粛ですか?電グルの音楽が売られていて困る人がいますか?ドラッグを使用した人間の作った音楽は聴きたくないという人は、ただ聴かなければいいんだけなんだから。音楽に罪はない〉とツイートしているが、Apple Musicなどのストリーミングサイトでも電気グルーヴの音源を聴くことが出来なくなったことに多くの人が怒りを吐露。前述のような対応の撤回を求める署名には、21日13時現在、6万人近い人びとが賛同している。
これから世に出る作品はもちろん、過去作品までことごとく入手できない状態にさせられていく状況。上述したように、こんなことをしていたら、音楽でも文学でも映画でもほとんどの作品をお蔵入りにしなくてはいけなくなる。
しかも抑止という意味でも、こうした動きは逆効果だろう。欧米において、所持や使用に関する薬物事犯は「厳罰主義」から「治療」へと舵を切るようになっている。それは、厳罰主義では薬物事犯を抑えることができなかったからだ。
ピエール瀧出演シーンをカットしない『麻雀放浪記2020』の英断
明確な被害者もいないにもかかわらず、ピエール瀧がここまで「極悪人」として断罪され、すべての仕事を奪われるさまを見ていれば、もしも違法薬物を止めるべく医療機関のサポートを求めたいと思っている人がいたとしても、外に出ることを躊躇してしまうだろう。
なぜ世間はここまで過剰な反応を見せ、メディアもここまで怯えきった対応になるのか。
それは、日本が、「我が村のルールを破った者は厳罰に処されなくてはならない。海外でどんな法律の運用がなされているかなど知ったことではないし、治療の現場にも興味はない。とにかく、ピエール瀧は犯罪者である。彼の行いの何が“罪”なのかはわからないし、考える気もない。とにかく、罰せられるべき犯罪者だ。理由はひとつ。“我が村のルールを破った”からだ!」と主張する奴隷で構成されている国だからだ。
これは、薬物事犯に関することだけに限らない。
「一度お上が決めたことは絶対に守らなければならない」「“なぜ守らなければならないのか”なんて考える必要はない。ただ命令されたから守らねばならないのだ」という考え方は、ありとあらゆる場面で表面化している。
「みんなが、安全で、心地よく、楽しく暮らすことができる社会とはどんな社会だろう」と、自分の頭で考えることをせず、「上から言われた命令は絶対」という価値観に慣らされてしまっているから、一部の金持ちだけが優遇される政策も、為政者が自分の都合で公文書を書き換えるような状況も、すんなりと認められるというあり得ない社会が現出してしまう。自分の私利私欲のために権力を悪用しようとする権力者にとってこんなに「良い国民」はいないだろう。この状況に改めて向き合い直す必要がある。
ちなみに、白石和彌監督の映画『麻雀放浪記2020』は、ピエール瀧の出演部分をノーカットで公開すると正式に発表した。松本人志やビートたけしとは真逆の姿勢だが、これが当たり前なのである。
(編集部)
最終更新:2019.03.21 02:14
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