徴用工問題、文在寅大統領の発言はおかしくない! 日本の外務省も「個人の請求権は消滅していない」と答弁していた

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外務省ホームページより


 戦中、日本が朝鮮の人々を労働力として動員した、いわゆる徴用工問題をめぐる文在寅・韓国大統領の発言に、日本中が猛反発している。文大統領は17日の会見で、徴用工について「個人の請求権は残っている」旨の認識を示したのだが、日本の外務省は、1965年の日韓国交正常化の際の請求権協定で解決済みだとして韓国政府に抗議。また、菅義偉官房長官も9日の会見で「日韓間の財産請求権の問題は日韓請求権協定により完全に、最終的に解決済みである」と述べている。

 さらに、この文大統領発言については、新聞などの日本のマスコミも一斉に反発の姿勢を見せている。「決まったことを否定するのは韓国のお家芸」と罵った産経や「変節で日韓関係を壊すのか」と批判した読売はもちろん、毎日や朝日までもが「徴用工への賠償問題は65年の日韓請求権協定で解決済み」と大合唱。あまつさえ、巷間ではリベラル系の人々も「日韓関係を悪化させないか懸念する」などと心配している。

 だが、ちょっと待ってほしい。たしかに徴用工問題については、これまで韓国政府も日韓請求権協定を尊重する行政レベルの立場から、文大統領のように個人の請求権が残っているとの認識を表沙汰にすることはほぼなかった。しかし、だからといって、今回、日本政府やマスコミの主張している「日韓請求権協定で、個人請求権は消滅した」「文大統領は嘘つきだ」というのは明らかにミスリードだ。

 というのも、実は日本の外務省じたいがこれまで、国会でなんども「日韓請求権協定は、個人の請求権そのものを消滅させたものではない」と答弁してきたからだ。

外務省の柳井局長も国会で文在寅大統領とほとんど同じ発言を

 たとえば、1991年8月27日の参院予算委員会では、当時の柳井俊二・外務省条約局長が日韓請求権協定をめぐり、“両国間の請求権の問題は最終かつ完全に解決した”(日韓請求権協定第二条)の「意味」について、以下のように答弁している。

「その意味するところでございますが、日韓両国間において存在しておりましたそれぞれの国民の請求権を含めて解決したということでございますけれども、これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。日韓両国間で政府としてこれを外交保護権の行使として取り上げることはできない、こういう意味でございます」

 見てのとおり“日韓請求権協定は個人の請求権を消滅させていない”と、日本の外務省も認めているのだ。柳井氏はその後、事務次官まで上り詰め、駐米大使も務めた外務省本流の官僚だが、他にも国会で何度も同じ旨の答弁をしている。もうひとつ、1992年2月26日の衆院外務委員会の答弁を引用しておこう。

「しからばその個人のいわゆる請求権というものをどう処理したかということになりますが、この(日韓請求権)協定におきましてはいわゆる外交保護権を放棄したということでございまして、韓国の方々について申し上げれば、韓国の方々が我が国に対して個人としてそのような請求を提起するということまでは妨げていない。しかし、日韓両国間で外交的にこれを取り上げるということは、外交保護権を放棄しておりますからそれはできない、こういうことでございます」
「この条約上は、国の請求権、国自身が持っている請求権を放棄した。そして個人については、その国民については国の権利として持っている外交保護権を放棄した。したがって、この条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではないということでございます」

日本政府とマスコミの過剰反応の背景に、経済界の意向

 つまり、日韓請求権協定における請求権放棄は、政府が、国民の有す請求権のために発動できる外交保護権の行使を放棄しただけであって、当たり前だが、個人の請求権を政府が禁じることはできない、すなわち、個々人の請求権は日韓請求権協定後も存続している。そのうえで、あとは司法の判断になる。これが日本政府のオフィシャルな見解だったわけだ。

 これは、実態としてもそうなっている。たとえば、1995年には、日本の植民地支配下で広島の三菱重工に強制動員された韓国人5人が広島地裁に、1997年には2人が新日鉄住金などを相手に大阪地裁に訴えを起こした。最終的にどちらも敗訴したが、訴えじたいは受理されている。

 一方、韓国では、2012年、韓国の最高裁が“原告らの損害賠償請求権は日韓請求権協定で消滅していない”という判断を下した後、元徴用工や元挺身隊員が日本企業に損害賠償を求めた訴訟で、高裁や地裁が日本企業側に賠償を命じる判決を出すようになった。

 司法の判断は日韓で真っ二つに割れているが、個人請求権そのものが消滅しておらず、最終的には司法が判断するという原則は一致している。

 そして、今回、文大統領もたんにその事実を述べただけで、国家として新たな損害賠償を要求したわけではない。なぜ、こんな程度の発言で、日本政府、そして右から左までのマスコミが「嘘つきだ」「日韓関係を壊すものだ」などとわめきたてるのか。

 実は、この過剰反応の背景には、経済界の強い意向があるといわれている。前述した2012年の韓国の最高裁判断以降、韓国で日本企業に損害賠償を命じる判決が次々出されたが、これに危機感を感じたのが、訴訟対象になった三菱重工や新日鉄住金などの日本経済の基幹企業だった。

 2013年、経団連など経済4団体が韓国の判決について「今後の韓国への投資やビジネスを進める上での障害となりかねず、良好な両国経済関係を損ないかねないものと深く憂慮する」と韓国に抗議する声明を出したが、このとき、経団連は日本政府やマスコミに対しても、強い働きかけを行っており、その結果、政府もマスコミも一斉に、韓国の司法判断に異議を唱えたという経緯がある。

 つまり、今回の過剰反応もこの延長線上で出てきたということなのだろう。政府は支援団体、企業の利害のために、マスコミはスポンサー様の意向を代弁して、今回も文大統領を強く非難してみせた。そういうことではないのか。

日韓の戦後補償はほんとうに「日韓協定で最終的に解決された」のか

 しかし、いくら日本企業を守るためとはいえ、リベラルメディアまでが、かつては国会答弁で外務省が認めていた「個人請求権は残っている」という当たり前の事実を否定してかかるというのは、あまりに正義がなさすぎるだろう。

 むしろ、メディアが本当になさねばならないのは、「日韓の戦後補償は1965年で完全かつ最終的に解決された」という乱暴な論理をもう一度検証することではないのか。

 そもそも、日本が韓国を併合し、植民地化政策を敷いたことは揺るがざる事実であり、その際の非人道行為に対して補償するのは当然のことだ。しかし、日韓両国の間で結ばれた「日韓請求権・経済協力協定」は、その名称通り、韓国の経済復興を目的としたものであり、日本による残虐行為の個々の被害者に対する損害賠償にはなっていない。そのことは、1998年に出された国連のマクドゥーガル報告書でもはっきり指摘されている。

 また、当時の韓国は朴正煕率いる軍事独裁政権であり、この補償はその軍事独裁政権と深い関係をもつ日本の自民党政権との間で行われた取引の結果で、その大半は経済復興に注ぎ込まれ、韓国の被害者に届いていなかった。韓国が民主化されていくなかで、十分な補償を受けていなかった国民が立ち上がるのは、当然と言えるだろう。

 国際法では個人請求権は認められていないなどという主張もあるが、ドイツなどは国家間賠償よりも積極的に個人補償を行い、その結果、国際的にも一定の評価を得ている。ところが、日本政府は韓国の軍事政権との取引に応じ、こうした個人補償をきちんとやってこなかったため、いまになっても国際社会からも批判され、慰安婦問題や徴用工問題での訴訟が続いているのだ。

 そういう意味では、今回の問題には、過去の戦争犯罪にまともに向き合わず、その場しのぎの対応を続けてきた日本政府の姿勢が大きく関係している。新聞など大マスコミも「日韓の友好に水を差す」とか「両国の経済的影響は計り知れない」などと一方的に韓国を批判する前に、ちゃんと伝えなければならないことがあるはずだろう。

最終更新:2017.12.07 04:49

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