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風俗嬢になったら人生終わり!? 世間からの偏見で深刻化する風俗嬢のセカンドキャリア問題
『風俗嬢の見えない孤立』(光文社)
風俗業界は「貧困女性最後のセーフティネット」とは言い切れない
「性風俗」と「貧困」──この二つの単語は、ここ数年の週刊誌や新書で繰り返しテーマとなってきた。最近では、福祉の網の目からこぼれおちて困窮した女性を救う役割としての性風俗業界が注目され、「貧困女性最後のセーフティネット」と呼ばれることも少なくない。
格差は広がるだけ広がっていっているが、政治の世界はそれを縮めるどころか、さらに広げるような政策を次々と打ち出している現状。奨学金返済に悩む学生や若手会社員、病気などによりフルタイムの昼職で働くのは難しい人、あるいはシングルマザーなど、性風俗による稼ぎがあることで、なんとかギリギリの生活を保てている状況は確かにある。
しかし、だからといって、安易に性風俗を「セーフティネット」と言い切ることには違和感を覚えると、一般社団法人GrowAsPeople(以下、GAP)代表理事の角間惇一郎氏は指摘する。というのも、貧困問題などに絡む風俗の「入口」にはメディアも注目しているが、「出口」に関して起きる問題にはほとんど注意が払われていないという状況があるからだ。
角間氏の著書『風俗嬢の見えない孤立』(光文社)では、「40歳の壁」という言葉を用いて、このように説明している。
〈風俗嬢のほとんどは、四○歳を境に一気に客がつかなくなり、事実上の引退を迫られます。GAPではこれを「40歳の壁」と呼んでいます。
なぜ四○歳が限界なのか。多くの人は「夜の世界においては、若い女性の方が価値が高いからだろう」と想像しがちですが、それだけが理由とはいえません。世間一般が思っている以上に大きいのが体力の影響です〉
風俗嬢は一般的に40歳を超えるとそれまでのように稼ぐことが難しくなる。強く影響をおよぼしているのが、体力の低下による出勤日数の減少であると角間氏は指摘する。
『風俗嬢の見えない孤立』におさめられた、15年にGAPがとったアンケートデータによれば、42歳までの風俗嬢の平均稼働日数は月に10日以上なのに対し(18歳〜22歳は16日も稼働している)、43歳以上は月に7日しかない。風俗嬢の仕事は体力的に過酷な労働であり、だんだんと無理はきかなくなってくる。稼働日数が減れば、それに伴い収入が減るのは言うまでもない。
風俗嬢たちが恐れるセックスワーカーへの世間からの偏見
そこで彼女たちは別の稼ぎ方を考えるしかなくなってくるのだが、そこで立ちはだかる壁がある。
〈ここで、彼女たちは身動きが取れなくなります。風俗の仕事は、中年期以降に対する「お土産」をくれません。新しい仕事をしたくても、履歴書を真っ白なまま提出するしかない。身についたスキルもない。アスリートと違って、人におおっぴらにいえるキャリアでもありません〉(『風俗嬢の見えない孤立』、以下すべて同じ)
「アリバイ会社」という、源泉徴収票を発行するなどして昼の仕事をしていたかのように見せかけてくれるサービスもあるにはあるが、それも限界がある。
また、角間氏はGAPの仕事として風俗嬢たちの再就職支援に関わる活動をしていくなかで気がついたことがあるという。それは、彼女たちが強くもっている「風俗嬢である(であった)ということを周囲に知られたくない」という気持ちだ。
前述したGAPによる15年度のアンケートデータでは、「知られてもいい」と答えたのが9人に対し、「誰にも知られたくない」と答えたのは201人にものぼる。
その「知られたくなさ」を端的に示すのが、彼女たちの休日・非稼働時の過ごし方だ。15年度のGAPアンケートデータによれば、28歳〜32歳の風俗嬢のうち、非稼働時には「特に何もしない」と答えたのは69人中25人。「育児、家事など」や「昼職勤務」と答えた人を超えた最大回答である。
では、その「特に何もしない」の間、彼女たちは何をしているのか? そこを深掘りすると、友人と遊び回っていたりと充実した余暇を過ごしている人は稀で、「だらだらYouTube見てる」や「パズドラしてる」といった回答が大半。引きこもりがちな生活なのである。「若者の外出離れ」といった報道がなされる昨今。こういった余暇の過ごし方は別に特殊なことではないようにも思えるが、角間氏は彼女たちから話を聞くなかで、そういった一般的な「若者の外出離れ」とはまた違った側面を見る。
〈なぜ彼女たちは「何もしない」のでしょうか?
理由の一つは、やはり「立場を開示しづらいから」です。遊ぶにしろ働くにしろ、自分の立場を一切開示せずに関われる場は多くありません。「普段何してるの?」と聞かれる度に口ごもらなければならない状況はどうしてもストレスがたまる。そのストレスを避けるために、家に引きこもってしまうわけです〉
マスコミは風俗業界が受けている「職業差別」問題をもっと報じるべき
彼女たちがこういったスティグマをもってしまうことは、いざセカンドキャリアを探そうというとき、また、福祉との連携を図ろうとするときなどに大きな障害となる。
〈彼女たちは、娯楽よりお金より寂しさより、とにかく「バレないこと」を優先します。バレたくないから、連絡できる親類にも連絡しない。バレたくないから行政に頼らない。バレるくらいならしんどい方がマシ。そう思いつめた結果、人に助けを求めず、余計に孤立リスクを高めていく女性が大勢います〉
彼女たちがそこまで恐れを抱く背景には、セックスワーカーに対する世間からの激しい偏見がある。風俗嬢とは少しずれAV女優でのケースになるが、AV出演者の人権を守るための団体「表現者ネットワーク(AVAN)」代表で、元AV女優・官能小説家・怪奇作家の肩書きをもつ川奈まり子氏は、セックスワーカーが受ける差別について自らの体験も交えつつこのように訴えていた。
「AV女優たちの一番の悩みはヘイトクライムです。住んでいるアパートを追い出されるとか、仕事をクビになるとか、職場でイジメに遭うとか。会社でAV女優だった過去がバレてレイプされそうになったという相談すら受けたことがあります。
私もライターとして連載させてもらっている媒体から『川奈さんがAVに出ているなんて知りませんでした。今後の取引は中止させていただきます』と言われたり、編集部は大丈夫でもスポンサーからNGが入って仕事がなくなったりと職業差別を受けてきました」(昨年10月の本サイトインタビューより)
そういった出自について比較的寛容なはずのマスコミ業界ですらこういった問題が起きるのだから、一般的な仕事ではどうなるかは想像に難くない。また、あからさまな偏見や差別でなくとも、周囲からの「好奇の視線」も、彼女たちにとっては大きな負担であり障害となるのは言うまでもない。
現在、風俗産業で働く女性は30万人ほどいるといわれている。そのなかには、主婦や昼職OLとの兼業で働いている人もいるが、専業としている人も数多い。GAPではそういった人たちを対象に、資格取得や協力企業でのインターンなどを通して、セカンドキャリアへと踏み出していく支援をしている。
ただ、「風俗業界へ入っていく不幸な女性」のストーリーが盛んにメディアで取り上げられる一方、そこから次のキャリアへ移行しようとする人たちの置かれている難しい環境はまだまだ取り上げられていないのが現状だ。
マスコミは風俗業界に入っていく女性たちの抱える貧困問題などについて扱うだけでなく、こういった「職業差別」に関する本質的な問題について議論の機会を広げるような報道も行っていくべきだろう。
(田中 教)
最終更新:2017.12.01 04:52
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