マスコミが触れない村上春樹『騎士団長殺し』の核心部分(前編)

村上春樹『騎士団長殺し』は歴史修正主義と対決する小説だった! 百田尚樹も気づいてない南京虐殺の生々しい描写

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 印刷

『騎士団長殺し』の鍵をにぎる2つの戦争体験

 もちろん村上春樹の小説だから物語は多層的であり、それこそ百田尚樹の『カエルの楽園』のような、自分の言いたいことをカエルたちにしゃべらせるだけのプロパガンダ小説とはまったくちがう。この小説から受け取ることのできるメッセージや問題提起は多岐にわたっている。それでもあえて言うが、歴史修正主義批判はこの小説の最も重要なテーマとなっている。

 そのことを検証するために、まず簡単にストーリーを紹介しよう。

 妻から離婚を切り出され家を出た肖像画家の主人公〈私〉は、美大時代の友人である雨田政彦からの提案で、彼の父であり著名な日本画家の雨田具彦が使っていたアトリエに、仮住まいすることに。そのアトリエの屋根裏部屋で主人公は、一枚の絵を発見する。『騎士団長殺し』と題されたその絵は、傑作といってもいい力をもった作品だが、公にはその存在を知られない未発表作品だった。絵の発見を契機に、主人公に不思議な出来事がいくつも起きる……。

 まさに、この『騎士団長殺し』という絵こそが物語を導く重要な核となっているのだが、注目しなければならないのはその絵が何を描いていたか、だ。『騎士団長殺し』は人殺しの場面を描いており、絵のなかの5人の人物は飛鳥時代の服を着ていて、若い男が年老いた男の胸に剣を突き立てている。さらに、それを見て悲鳴をあげる若い女性、片手に帳面をもった若い男性、地面から顔をのぞかせる顔のながい男が描かれていた。

〈それは息を呑むばかりに暴力的な絵だった〉。しかし、〈私〉の知るかぎり、雨田具彦が描く絵はノスタルジアをかきたてるような、穏やかで平和的なものであることが多く、こんな暴力的な絵画を描いたことはなかった。

 そして、主人公である〈私〉はこの『騎士団長殺し』には〈何か特別のものがある〉と思い、この絵に隠された謎を追いかけていく。雨田具彦は、なぜ『騎士団長殺し』を描き、なぜ誰の目にも触れさせることなくその存在を隠し続けてきたのか。

 すると、そこに第二次世界大戦における2つの戦争体験が大きく影響していることがわかってくる。

 ひとつめはナチス抵抗運動への参加と挫折だ。戦後、日本画家として大成した雨田具彦だが、戦前は将来を嘱望された洋画家で、ウィーンに留学していた。しかし、そのさなかに、オーストリアはナチス・ドイツに併合され、ヒトラーの暴力支配がどんどん激しくなっていったことから、雨田は学生たちが組織した反ナチ地下抵抗運動に参加。仲間とともにナチス高官暗殺を計画する。しかし、計画は未遂に終わり、関わったものは次々とゲシュタポに逮捕され、処刑されてしまう。雨田のオーストリア人の恋人も強制収容所に送られてしまう。

 しかし、雨田だけはただひとり生き残った。日本に強制送還されたのだ。その後、雨田は郷里の熊本で隠遁生活を送り、戦後、日本画家として再デビューを果たすのだが、その頃に描いたと思われるのが『騎士団長殺し』の絵だった。

 このことを知った主人公〈私〉は、『騎士団長殺し』がナチス高官暗殺未遂事件を、日本の飛鳥時代に設定を移し替えて描いたのだと推察する。暗殺を成し遂げられずヒトラーの蛮行を止められなかった悔恨と、自分だけ生き残ってしまった罪悪感が、この絵を描かせた、と。

 しかし、さらに『騎士団長殺し』の謎を追いかけていく過程で、〈私〉はもうひとつの戦争体験にぶちあたる。それは、雨田具彦がナチス暗殺未遂事件を起こすわずか数カ月前、具彦の弟・継彦が体験した南京大虐殺だった。ピアニストを目指していた継彦だが、徴兵され南京攻略戦に参加し、殺戮を強制された壮絶な体験がトラウマとなり帰還後、自殺したのだった。そして、この弟の自殺が雨田を反ナチの運動に駆り立てたのではないか、という推理も作中で紹介される。

 百田たちが村上をディスっていた記述は、継彦が自殺していたことを教えてくれた人物がその理由を語る前に、〈南京大虐殺〉について説明する部分だ。以下に改めて引用しよう。

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

この記事に関する本・雑誌

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

新着芸能・エンタメスキャンダルマンガ・アニメビジネス社会カルチャーくらし教養

村上春樹『騎士団長殺し』は歴史修正主義と対決する小説だった! 百田尚樹も気づいてない南京虐殺の生々しい描写のページです。LITERA政治マスコミジャーナリズムオピニオン社会問題芸能(エンタメ)スキャンダルカルチャーなど社会で話題のニュースを本や雑誌から掘り起こすサイトです。村上春樹歴史修正酒井まどの記事ならリテラへ。

人気記事ランキング

総合
いいね! 数
1 山本地方創生相の加計問題デタラメ発言
2 秋元康がまた女性蔑視!町山も激怒
3 ネトウヨ絶賛の加戸前知事証言はインチキ
4 稲田のウソは日報隠蔽だけじゃない!
5 葵つかさが引退宣言?松潤のせい?
6 中居ジャニーズ残留とキスマイ
7 ネトウヨの泉放送制作デマを検証する!
8 自民党HIPHOPポスターに怒りの声
9 葵つかさが「松潤とは終わった」と
10 青山繁晴が前川氏に論破されてボロボロ
11 松本人志「安倍擁護じゃない」どの口が
12 稲田がまた…安倍のともちんラブを検証
13 日野原重明氏安倍の改憲に反対を表明
14 秋篠宮家の料理番がブラック告発
15 坂本龍一、内田樹、久米宏が改憲批判
16 公取委がSMAP問題を独禁法で調査
17 室井佑月と小林節が「まずは民進党を…」
18 キムタク最大のタブーとは?
19 嵐の暴露本第二弾に、櫻井、松潤
20 有働由美子を勇気づけた山口智子の言葉
PR
PR 飲むだけで白髪改善と髪のボリュームを取り戻せる!?
1安倍訪問中止の意図を予定国大使館がRT
2青山繁晴が前川氏に論破されてボロボロ
3沖縄いじめの一方、AKB総選挙に国費
4九州北部豪雨も安倍首相は帰国せず!
5自民党HIPHOPポスターに怒りの声
6閉会中審査で自民党が前川から返り討ち
7支持率31%、安倍退陣を求めるデモ
8室井佑月と小林節が「まずは民進党を…」
9青山繁晴が教祖化、伝説とアート
10室井佑月と小林節が安倍改憲案を批判
11日野原重明氏安倍の改憲に反対を表明
12坂本龍一、内田樹、久米宏が改憲批判
13“反ヘイト”東山紀之がキャスターに
14松本人志「安倍擁護じゃない」どの口が
15ネトウヨ絶賛の加戸前知事証言はインチキ
16稲田朋美が「普天間返還なし」
17安倍が「男たちの悪巧み」仲間を参与に
18山本地方創生相がお友だちの強制調査に
19松尾と鴻上が芸能人と政治的発言に意見
20稲田のウソは日報隠蔽だけじゃない!
PR
PR 飲むだけで女性のカラダの悩みを解消!?

人気連載

アベを倒したい!

室井佑月

室井佑月が斎藤貴男と「共謀罪」を徹底批判!「安倍政権に逆らう人が片っ端から逮捕される」

アベを倒したい!

「売れてる本」の取扱説明書

武田砂鉄

"体育会系相田みつを"松岡修造は本当に「ブレない男」なのか? 年を追うごとに変わっていく修造語録を読み解く

「売れてる本」の取扱説明書

ネット右翼の15年

野間易通

高市早苗はいかにして"ネオナチ"と出会ったか

ネット右翼の15年

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」

赤井 歪

戦争を放棄せよ! 軍事力がなくても侵略と闘う方法はある、自由のために闘える!

左巻き書店の「いまこそ左翼入門」