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天皇夫妻が貧困支援に取り組む元SEALDs 奥田父を御所に招き、ネトウヨが宮内庁を攻撃も…雅子皇后は貧困問題に強い関心
奥田知志氏を招いた天皇夫妻(宮内庁HP)
天皇・皇后が7月16日、ホームレスなど生活困窮者を支援するNPO「抱樸」理事長・奥田知志氏らを赤坂御所に招き、コロナ禍における困窮者支援について、話を聞いたことで、ネトウヨが「SEALDs の奥田の父親を天皇陛下に会わせるなんてけしからん」と噴き上がっている。
たしかに、奥田知志氏といえば、近年では安保法制の反対運動で大きな役割を担ったSEALDSの中心メンバーだった奥田愛基氏の父として有名だ。しかし、本人はそれ以前から、北九州市で牧師をやりながら30年以上にわたってホームレス支援の活動を続けてきた人物で、今回のコロナ禍についても弱者へのダメージに危機感を持ち、自殺者やホームレスの増加をくい止めるため緊急支援活動をしている。
天皇・皇后は4月以降、今回のコロナ禍に際し、専門家会議の尾身茂副座長、医療従事者、保健所関係者、保育士、高齢者施設関係者など、さまざまな専門家から、コロナによる影響やと取り組みについて繰り返しヒアリングを重ねてきた。そんななか、今回は生活困窮者について、奥田氏らに話をきいたのだ。
ところが、このニュースが報道されるや、ネトウヨたちがツイッターこんな宮内庁批判を繰り広げた。
〈シールズの親を赤坂御所に入れてるようです!!〉
〈SEALDsの奥田愛基の父親を天皇陛下に合わせる宮内庁。〉
〈天皇陛下が赤坂御所でNPO法人理事長からご進講をお受けになられたが、この理事長はSEALDsメンバー奥田愛基の父親。 宮内庁内にも不逞の輩か。〉
〈奥田知志氏ってあのSEALDsの奥田愛基の父親じゃない?二人揃ってバリバリの活動家…宮内庁、しっかりせいよ…〉
〈バリバリの反日活動家を、どうして陛下に近づけるんだよ!!宮内庁、お前らは阿呆か!!〉
〈宮内庁に工作員が⁉️〉
こいつらはいったい何を言っているのか。そもそも、誰かの親だからといって「天皇に会わせるな」などとがなりたてること自体、どうかしているとしか思えないし、奥田氏は「反日活動家」などではない。前述したように、貧困問題に真摯に取り組んできた人物であり、今回のコロナ禍でも、自殺者やホームレス増加をくい止めるため「コロナ関連死をくい止めるため支援付き住宅を提供」するプロジェクトのクラウドファンディングも行なっている(https://readyfor.jp/projects/covid19-houboku 7月27日締め切り)。
コロナ禍で収入が大幅に減少したり職を失うなど生活の危機に晒される人たちが多数出て、路上生活者や生活困窮者の状況悪化も懸念されているなか、慈善活動のシンボル的役割も担う天皇夫妻がこうした人物の意見を聞くことは当然であるどころか、非常に意義深いと言っていいだろう。
公安が牛耳る宮内庁がSEALDs奥田氏父招待をなぜ許したのか? 天皇夫妻の意向か
また、ネトウヨたちは総じて「SEALDsの親に会わせた宮内庁はけしからん」と、あたかも宮内庁が天皇夫妻の意向と関係なく奥田氏をキャスティングしたかのような攻撃をしているが、それもありえない。
なぜなら、現在の宮内庁は、それこそ、警察・公安人脈でガチガチに固められているからだ。
その典型が宮内庁トップである西村泰彦長官だ。西村長官は警察庁警備局長、第90代警視総監の後、内閣危機管理監を務めた公安警察官僚の重鎮。西村氏は明仁天皇・美智子皇后の時代だった2016年に宮内庁ナンバー2も次長に就任するのだが、これは、安倍首相の戦前回帰志向に批判的だった天皇夫妻の言動をコントロールしようと、やはり公安出身の杉田和博官房副長官が安倍首相に推挙して送り込んだ結果だった。実際、警察官僚の次長就任じたい22年ぶりという異例の人事だった。
その後、西村氏は宮内庁長官に昇格。宮内庁はこの西村氏と官邸の皇室担当である杉田官房副長官の公安コンビによって完全に支配された。安倍政権が公安を重用して、デモや反政権的な動きを徹底的に監視してきたことはよく知られているが、その言論弾圧体質や情報網はそのまま宮内庁にも移植されているのだ。
そんな役所の官僚が自ら積極的にSEALDsの中心人物の父親を御所に招くことを提案するはずがないし、提案があっても幹部が必ずはねつけるだろう。
「この人選には、やはり天皇陛下ご夫妻、とくに雅子皇后の意向が強く反映されているのではないでしょうか」
こう語るのは、全国紙の宮内庁担当記者だ。
「もしかすると、最初の人選じたいは今年6月から宮内庁参与に就任した政治学者の五百旗頭真さんあたりから出たかもしれません。五百旗頭さんは防衛問題などでは親米タカ派ですが、戦前の日本や先の戦争については否定的ですから。しかし、今の宮内庁の体制を考えると、五百旗頭さんが提案したとしても、絶対に官僚は拒否するはず。それが、実際に奥田さんが招かれたというのは、雅子さまが『ぜひ話を聞きたい』という意思を強く表明されたからではないでしょうか。雅子皇后はこれまで、海外志向が強いだけで、国内の社会問題に関心が薄く、保守的と言われてきましたが、社会福祉、とくに貧困と子どもの問題にはものすごく関心を持っている。積極的に社会的な活動をしてきた美智子上皇后の姿勢を受け継ぎ、上皇后がフォローしきれなかった分野にも取り組みたいという思いから、貧困や格差、子どもの問題にフォーカスされるようになったといわれています」
実際、天皇・皇后は、22日も御所に子どもの貧困問題に取り組むNPO「キッズドア」渡辺由美子理事長らを招き、ヒアリングを行なっており、貧困問題に強い問題意識を持っていることは間違いない。
上皇夫妻とは逆に「安倍政権に取り込まれた」という見方もあった天皇夫妻だったが……
いずれにしても、これは喜ばしい状況だ。本サイトでも繰り返し報じてきたとおり、明仁上皇と美智子上皇后は、安倍政権に抗い、反戦・護憲のメッセージ、沖縄や在日外国人など虐げられた人々に寄り添うメッセージを度々発信してきた。対して、皇太子時代の徳仁天皇は、そうした発信はほとんどしてこなかった。安倍首相に嫌悪感を隠さなかった上皇・皇后と違って、事を荒立てないようにしている印象があった。即位の言葉なども、昭仁天皇の即位時より後退している点も見られ、政権に取り込まれてしまうのではないかという危惧すらあった。
しかし、雅子皇后が貧困問題に関心をもっているとすれば、その姿勢は安倍政権とはまったくちがうものであり、いま、日本社会で進行している弱者をめぐる事態の抑止力になるかもしれない。
周知のとおり、日本では、ここ20年にわたって、新自由主義的経済政策や社会福祉の削減によって格差が広がり続けている。ところが、政策の不備によって生み出されている貧困を、個人の自己責任に押し付ける風潮が蔓延している。典型が、貧困バッシング、生活保護バッシングだ
第二次安倍政権は、河本準一騒動からの生活保護バッシングを扇動しその波に乗り「生活保護の給付水準を10%引き下げる」という公約を掲げて当時の与党民主党から政権を奪取、誕生した政権だ。安倍政権は公約通り生活保護費の削減を断行し、2013年には生活保護の申請厳格化という「水際作戦」の強化ともいえる生活保護法改正と生活困窮者自立支援法を成立させた。
こうした政権の煽動により、生活困窮者に対して支援どころか責めるような厳しい空気が形成されていった。
昨年、台風19号で各地で避難指示・避難勧告が出されていたなか、東京都台東区の避難所がホームレスの受け入れを拒否するという事件も起きている。避難所の対応じたいも大問題だが、このホームレス排除を支持するような差別的主張がまかりとおっていたことは、いかにこの国が自己責任論に侵されているか浮き彫りにした。災害のときですら平気で弱者は切り捨てられるのだ。
天皇夫妻が社会的弱者のコロナ支援に取り組む奥田氏を御所に招き話を聞いたことの意味
それは今回のコロナ禍でも、まったく変わっていない。世界中で報じられているとおり、コロナ禍によって低所得者や貧困層が高い感染リスクと生活に晒されることになる。本来であれば、国や地方自治体が真っ先に支援しなくてはならないはずだが、日本ではそうした動きはあまりに鈍い。
東京では、緊急事態宣言でネットカフェが休業したことにより行き場を失った人々にビジネスホテルを提供するとしていたにもかかわらず、感染拡大が懸念される無料低額宿泊所に追い込まれるという事態も起きていた。
政府は、GoToキャンペーンで特定の業界だけを支援したり、電通やパソナといったお友だち企業に利益を分配させることにあれだけ熱心なのに、生活困窮者に対する支援はなんらまともな策を打ち出していない。
こうした状況で、奥田氏はコロナ禍における生活困窮者たちを緊急支援に尽力するとともに、こうした自己責任社会そのものを変えようと訴えてきたのだ。奥田氏は上述のクラウドファンディングの呼びかけのなかでも、こう語っていた。
〈感染防止のためとはいえ、行動や経済活動を制限せざるを得ない日々が続くことで、仕事を失い、住まいを失い、人とのつながりを失い、いのちの危機に直面する人が増えています。苦難の中に置かれる人々を決してひとりにしない、取り残さない、放っておかない。わたしたちは、そのために、このプロジェクトを立ち上げました。〉
〈離れていても、心は寄り添えます。家にいても支えられます。
誰ひとり取り残さない社会を一緒につくっていきましょう。〉
天皇夫妻が貧困問題に関心を持ち、こうしたメッセージを発している奥田氏や、こどもの貧困問題に取り組むNPO「キッズドア」渡辺理事長らにヒアリングしたという意義は非常に大きい。
天皇夫妻にはこれからも、エセ愛国主義者たちの圧力に屈せず、社会的弱者の存在にフォーカスしてほしい。そして、それが日本社会に跋扈する弱肉強食思想、自己責任論、弱者バッシングの歯止めになることを願わずにいられない。
(酒井まど)
最終更新:2020.08.05 06:58
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