「働く女性の不満で専業主婦の年金半減」記事に批判殺到!『逃げ恥』脚本家も「女性同士の対立にすり替え」と

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マネーポストWEBより

「働く女性の声を受け「無職の専業主婦」の年金半額案も検討される」

 ゴールデンウイーク中に出たこんなタイトルのネットニュースをめぐって、女性たちが一斉に怒りの声をあげている。

 問題の記事は、「週刊ポスト」2019年5月3・10日号の記事を、系列の「マネーポストWEB」がネットニュースに転載。政府が年金制度における「第3号被保険者」の改革を検討していることを伝えたものだ。

「第3号被保険者」というのは、会社員や公務員など厚生年金や共済組合に加入している「第2号被保険者」に扶養されている配偶者のことで、本人は保険料を支払わないが基礎年金を受け取ることができる。一般的にはサラリーマンを夫にもつ「専業主婦」であるケースが多いが、厚労省は社会保障費削減のために、その人たちからも保険料を徴収する、もしくは支払う年金を半減させる案などを検討しているらしいのだ。

 たしかに、「第3号被保険者」については以前から専業主婦優遇、女性の社会進出を阻むという批判があった。しかし、日本の専業主婦はさまざまな事情で無給の家事労働を押し付けられ、やむなく専業主婦をしている女性も多いうえ、自分で自由になるお金を持っていない人がかなりの割合いる。そんな状況で、保険料を徴収するとか、年金を減らすなどというのは、“弱者切り捨て”以外の何物でもないだろう。

しかし、今回、女性たちの怒りを買ったのは、政策そのもののひどさだけではない。「マネーポストWEB」がこの「第3号被保険者」切り捨て検討の記事に冒頭で紹介した「働く女性の声を受け「無職の専業主婦」の年金半額案も検討される」というタイトルをつけ、こんな解説を書いたからだ。

〈第3号については共稼ぎの妻や働く独身女性などから「保険料を負担せずに年金受給は不公平」という不満が根強くあり、政府は男女共同参画基本計画で〈第3号被保険者を縮小していく〉と閣議決定し、国策として妻たちからなんとかして保険料を徴収する作戦を進めている。〉

 そう、「第3号被保険者」切り捨ての理由を「共稼ぎの妻や働く独身女性などの不満」のせいにしたことについて、激しい批判の声があがっているのだ。ツイッターではこんな怒りの声があふれている。

〈「働く女性の不満」て具体的にどの調査だ? 「働く女vs専業主婦」ドロドロ女の戦いプロレスショーを物陰から仕掛けて年金減らしを目くらまそうとしてんじゃねえ。年金株に突っ込んでスッたの誰だ。〉
〈働く女性と「無職の専業主婦」は敵対していない。たまたま働けていたり、たまたま専業主婦しているだけ。私もたまたま働いてるけど、職場に託児所がなければ「無職の専業主婦」だったかもしれない。ただそれだけのことで女性の人生が左右されてしまってるんだよ。そんなのおかしい。〉
〈働く女性の声なんてさらさら無視で今後も聞く気もないくせに、こんな風に利用するってマジで最低だと思う〉

瀧波ユカリと野木亜紀子も「働く女性vs専業主婦」対立扇動を批判

 さらに、「#働く女性の声」というハッシュタグも拡散し、つっこんだ批判の声も上がった。

〈自分達の政策の失敗を、ありもしない妄想で「他人(働く女性)の声」のせいにするの止めてくれませんか?そんな事思ってないです。家事がどのくらい大変か、独身働く女の私も親の介護してるから分かってる。「僕ちゃん達無能でした」と正々堂々と謝れよ。だからって許すわけじゃない。#働く女性の声〉
〈#働く女性の声 が専業主婦の人を不公平だなんて思わないのは、女性が働く事の難しさを皆んな何かしら体感してるからだよ。
今私が働けてるのは、旦那の仕事が転勤ない、残業もほぼない、常に育児の当事者でいてくれる、両実家が近い、保育園受かった、会社が必要としてくれてるしサポートしてくれる…〉
〈いやもう、今1番ビックリしてるのは働く女性でしょ。急に「あいつが無職の専業主婦の年金半分にしろって言いました」って指差されてるんだから。 言ってねー思ってねー!むしろ専業主婦で家事と育児(場合によって介護)のプロしてる方々には尊敬しかないわ! 減らすな正当な報酬を出せ! #働く女性の声〉
〈「働く女性vs専業主婦」などと寝言を言う前に8年分の賃金データが廃棄された件についてきちんと国会で追及し、制度設計の見直しに繋げてほしい。祝賀ムードでスルーされているけれどとんでもないニュースだ。#働く女性の声〉
〈若者vs高齢者とか『働く女性』vs専業主婦とか、子持ちvs子なしとか…とにかく自分達の失策を市民同士の対立構造に持ってこうとする政府にキレてる。#働く女性の声〉
〈政治家のおじさんが年金溶かしたのを誤魔化すために働く女性と無職の専業主婦の対立を煽ってるようだけれど、働けと言いながら子育ては女の責任にして「女は生む機械」とか女性議員に「(そんなこといいから)はやく結婚して子供生め」ってヤジってたの私たちは決して忘れてないから。 #働く女性の声〉

 一般のユーザーだけではない。この問題には、著名人や文化人も怒りの声をあげている。たとえば、『臨死!!江古田ちゃん』などで知られるマンガ家・瀧波ユカリはツイッターに〈「専業主婦vs働く女性」って対立構造作るのやめろ、ドチャクソ迷惑〉と投稿した。

 また、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』で無償の家事労働を押し付けることを「愛情の搾取」と表現するなど、ジェンダーの問題を描いてきた脚本家の野木亜紀子氏もこうツイートしている。

〈これ元記事がマネーポストというポスト系の雑誌で『共稼ぎの妻や働く独身女性などから「保険料を負担せずに年金受給は不公平」という不満が根強くあり』が作文の可能性もあるが、少なくとも自分はそんな不満聞いたことがない。それよりも8年分の統計が破棄されたことに不満があるよ。〉
〈この記事、財源の不足が問題なのに「働く女性の根強い不満がある」と、あたかも女性同士の問題であるかのようにすり替えられているから疑問なのです。働く女性vs専業主婦という対立構造を勝手につくり、問題を矮小化しないでほしい。というわけで働く女性として異を唱えているのです。〉

厚労省の官僚がブリーフィングで使っていたすり替えと詐術

 何から何まで、彼女たちの言う通りだろう。そもそも、今回、「第3号被保険者」の保険料徴収の背景にあるのは年金制度の破綻と財源不足だ。責任は、政策や資金運用に失敗した国にあり、専業主婦にはなんの責任もない。

 また、ツイートにもあったように、専業主婦は望んでそうなっている人だけではない。労働環境の男女格差や育児との両立、親の介護などの問題から外で働きたくても物理的に働けないという女性も少なくないのだ。

 しかも、自民党政府はこれまで、「女は家庭を守るもの」として、専業主婦を奨励し、女性の社会進出を阻んできたのではなかったか。

 それを、自分たちの政策失敗を棚に上げ、働く女性たちの不満によって専業主婦の年金を削減するかのようにすり替え、「専業主婦VS働く女性」の対立に矮小化するとは……。

 しかも、取材してみると、これは「ポスト」が勝手に書いているわけではなさそうだ。厚労省の官僚が新聞やテレビ向けのブリーフィングで実際に「働く女性の間には不公平という不満もあり」などという解説を行い、それが「ポスト」に伝わったと見られる。

 卑劣な女性の分断は政府の作戦だったというわけだが、しかし、頼もしいのは、多くの女性がこんな詐術に踊らされることなく、本質を見極め、きちんと批判の声をあげていたことだ。

 国民をいつでも踊らせられると思っていたら、大間違いである。

最終更新:2019.05.08 07:04

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