失言・炎上に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
在アトランタ総領事の「慰安婦は売春婦」暴言が国際的大問題でも、安倍政権は放置! 釜山総領事は更迭したのに
自由民主党HPより
米アトランタ日本総領事・篠塚隆氏が、「慰安婦は売春婦だった」という趣旨の発言をし、国際的に大問題となっている。
発端は、米ジョージア州の地方紙「Reporter Newspapers」のインタビューだ。篠塚総領事は、戦中の慰安婦を象徴するいわゆる少女像をめぐり、同州ブルックヘブン市内の公園での設置を同市議会が決定したことに関して、その撤回を求めたという。同紙は〈篠塚総領事は慰安婦の女性らは金で雇われた売春婦だったと言った〉(23日付電子版)などと地の文で伝えた。
この「金で雇われた売春婦だった」(the women were paid prostitutes.)等の表現を中心に、当然、韓国メディアなどが批判や韓国人団体の失望の声などを報じ、国際的に大きな問題となっていった。ところが、日本国内メディアは対照的に沈黙。そのなか、東京新聞の名物特報欄「こちら特報部」が昨日29日付で、問題の経緯と事実を詳細に伝える力の入った報道をしている。
「こちら特報部」が外務省地域政策課に取材したところによれば、担当者は「現地紙のインタビューを受けたことは事実だが、慰安婦が『売春婦』であったという言葉は使っていない」と発言を否定したというが、実際に「Reporter Newspapers」電子版が公開した45分弱の録音テープのなかでは、篠塚氏は英語でこのように発言していた。
「歴史的事実として、女性は性奴隷ではなく、強制されていない。アジアの文化として、いくつかの国々で、家族を養うためにこの仕事を選ぶ女の子がいる」(「こちら特報部」訳)
一目瞭然、「Reporter Newspapers」が「金で雇われた売春婦だったと言った」と要約したのも当たり前だろう。しかも、篠塚総領事はこんな発言もしていた。
「ブルックヘブン市での慰安婦像は多くの論争を巻き起こす政治的なツール。日本に対する憎悪と憤りの象徴でもある」(「こちら特報部」訳)
総領事の暴言は、安倍政権が正当性を主張する2015年日韓基本合意すら反故にするもの
唖然とするほかない。念のため言っておくが、少女像の意味は「日本に対する憎悪と憤りの象徴」などといった低レベルの戯言では決してない。
そもそも、少女像は彫刻家によるれっきとした美術作品で、正式名称は「平和の碑」という。その名のとおり、世界平和を祈念してつくられているもので、たとえば、有名なソウル市日本大使館前の少女像は、2011年12月11日、日本軍の慰安婦被害者たちの人権と名誉を回復するために1992年から始まった「水曜デモ」が1000回に達したことを記念し、市民団体の呼びかけによる募金で建てられたもの。碑文には「その崇高な精神と歴史を引き継ぐため」と刻まれている。
少女像には、世界平和を願い、戦争被害と女性の人権侵害という悲劇を再び起こさないようにという、人類普遍の願いが込められているのだ。それを、この日本のアトランタ総領事は、「日本に対する憎悪と憤りの象徴」と罵り、ましてや慰安婦となった女性たちに対して“アジアでは家族を養うためにこの仕事を選ぶ女の子たちがいる”などと正当化しようとした。あきれてものも言えないとはこのことだろう。
だいたい、慰安婦問題は、国際的に戦時下の女性への権利侵害や性暴力といった問題として捉えられていることは常識だ。そこに、日本の総領事が“慰安婦は売春婦であった”という趣旨の正当化をしようとすること自体、韓国や中国だけでなく、国際社会から極めて厳しい批判を浴びるのは火を見るより明らかだ。
しかも、2015年末の日韓合意で日本は、〈慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題〉と認め、〈日本政府は責任を痛感し〉、〈安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明〉(岸田文雄外務相の発表)したのではなかったか。
安倍首相も“韓国では売春が日常に溶け込んでいる”と暴言の過去
“慰安婦は売春婦”という篠塚総領事の認識は、その日韓合意での表明とも真っ向から矛盾する。即刻、なんらかの処分が下されるのが妥当だろう。
しかし、問題のインタビューの現地報道から1週間が経つにもかかわらず、日本政府が総領事の発言を否定・謝罪する声明を出すとか、あるいは篠塚総領事の処分を検討しているなどといった情報は、まったく聞こえてはこない。
他方、昨年12月に少女像が韓国・釜山日本総領事館前に設置されたことに対し、安倍政権は、森本康敬釜山総領事と長嶺安政駐韓大使を今年1月から約3カ月間帰国させるというヒステリックな報復を行い、日韓通貨スワップ協議の中断などの対抗措置を断行、韓国政府に露骨な圧力をかけた。
しかも、その対応に不満を漏らしたとされる森本氏を、事実上更迭するという、独裁国家としか思えない所業まで行なっている。
もちろん、こんなものは外交センスとしても壊滅的だが、今回の篠塚総領事の場合、日韓合意で外務大臣が政府として表明した認識をひっくり返すもの。これでお咎めなしでは、もはや日本政府は国際社会から、完全に常軌を逸した政府だと思われても文句は言えないだろう。
だが、考えてもみると、国際社会から見れば異様に映るはずの日本政府のノーリアクションも、安倍首相としては、ある意味当然のことなのかもしれない。
そもそも安倍自身、若手時代から歴史修正主義の旗振り役だった。事実、約20年前には自民党の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」で事務局長をつとめ、1997年4月の第7回勉強会で、“韓国は売春国家だから慰安婦になるのに抵抗はなかった”という意味の差別発言まで得意げに放っていた。
「実態は韓国にはキーセン・ハウスがあって、そういうことをたくさんの人たちが日常どんどんやっているわけですね。ですから、それはとんでもない行為ではなくて、かなり生活の中に溶け込んでいるのではないかとすら私は思っているんです」(『歴史教科書への疑問 若手国会議員による歴史教科書問題の総括』展転社より、勉強会での安倍の発言)
安倍首相の二枚舌を放置すれば、日本は国際社会からどんどん孤立する
また、2007年の第一次政権では「狭義の強制性はなかった」「強制性を証明する証言や裏付けるものはなかった」などとする答弁書を閣議決定した。
ようするに、“慰安婦は売春婦だった”という今回の篠塚総領事の発言は、完全に安倍首相の本音を“代弁”したものだった。だからこそ、表立って政府として訂正や謝罪もしなければ、総領事の処分も検討していない、そういうことではないのか。
実際、日韓合意での「心からおわびと反省の気持ち」というのも外務大臣などから伝聞で発表されただけで、安倍首相本人はこれまでにきっちりと自分の言葉で直接表明していない。しかも、昨年10月には、元慰安婦たちが首相による「おわびの手紙」を求めていることに対し、安倍は国会答弁で「毛頭考えていない」と全否定までしてみせた。
もはや言い逃れはできないだろう。本サイトはかねがね、15年末の日韓合意が安倍首相お得意の“二枚舌”で、本音は謝る気などさらさらなく、ようは「カネを出したのだからつべこべいうな」という話で、平和を希求する市民の心まで弾圧していると指摘してきた。今回のアトランタ総領事の“慰安婦は売春婦だった”発言は、まさにそれを証明するものだ。
5月12日には、国連の人権条約に基づく拷問禁止委員会が、元慰安婦に対する「補償や名誉回復、再発防止の保証などが十分ではない」などとして日韓合意の見直しを勧告したが、これに安倍政権が反発する正当性も、また少女像設置に猛抗議する道理も、微塵たりとも存在しない。
そして、何度でも言うが、こうした安倍首相の二枚舌と平和運動の弾圧は、国際社会から日本を孤立させるとともに、国内で侵食しているファシズムの顕現でもある。政権の破綻している“少女像バッシング”に騙されている国民は、そろそろ目を覚ますべきだ。
(編集部)
最終更新:2017.12.29 04:53
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