差別に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
差別体質は五輪会場の霞ヶ関CCだけじゃない! 多くのゴルフ場が「女性」と「在日」を排除していた
霞ヶ関カンツリー倶楽部ホームページより
2020年東京五輪でゴルフ競技の会場に予定されている「霞ヶ関カンツリー倶楽部」(埼玉県川越市、以下、霞ヶ関CC)が、正会員を男性に限定していることに関して、国際オリンピック委員会(IOC)から改善を要求された問題。2日には、大会組織委員会、日本オリンピック委員会(JOC)、日本ゴルフ協会(JGA)、国際ゴルフ連盟(IGF)が連名で女性の正会員を認めるようにとの要望書を提出した。
霞ヶ関CCは1929年創設の名門会員制ゴルフクラブ。総会などで議決権のある正会員約1250人は全員男性で、原則、女性は日曜日にプレーできない。これらが「女性差別にあたる」として問題視されているのである。
当然だろう。そもそも、女性という属性を根拠に正会員として認めないというのは、性差別そのものだ。また、いくらプライベートなクラブだと主張しようが、ゴルフ場は大規模な遊戯施設であって公共性が極めて高く、社会的影響力も無視できない。そして、IOCが定める五輪憲章でも〈人種、宗教、政治、性別、その他の理由に基づく国や個人に対する差別はいかなる形であれオリンピック・ムーブメントに属する事とは相容れない〉として、あらゆる差別が禁じられている。霞ヶ関CCが女性差別を助長し、五輪の会場にふさわしくないと判断されるのは当たり前の話だ。
だが、女性に差別的な会員制度をしいているのは、なにも霞ヶ関CCだけではない。実は、各地の名門と言われる会員制ゴルフクラブには、女性の正会員を受け付けていないところが少なくないのだ。本サイトが関東近郊のゴルフクラブに電話したところ、取材に応じた15の会員制ゴルフクラブのうち、女性の正会員は原則不可と回答したクラブが4つ、また、会員となることは可能でも、男性の定員に比べて女性の定員が著しく少ない(1〜3割)ケースが複数あった。
さらに、会員制クラブの問題点は女性差別的であるというだけでない。日本に住んでいても、国籍が日本でないことを理由に会員になることを断るクラブがかなりあるのだ。そうしたクラブは、規約に“正会員は日本国籍保有者のみ”という「国籍条項」を設けている。
実際、本サイトの取材に応じた関東圏15クラブのうち、10のクラブが「日本国籍に限る」あるいは「原則として日本国籍」という規定があると回答。また、そのなかの大半のクラブの担当者は、在日コリアンなどの永住権資格者であっても正会員になれないとの認識を示した。
ようするに、名門といわれる会員制ゴルフクラブは、女性に差別的であるばかりか、実のところ極めて人種差別的な会員規定を認めているのである(なお、霞ヶ関CCの場合、関係者によると霞ヶ関CCは正会員の条件に国籍条項は設けていないとのことだった)。
こんな排他的な制度がなんの問題にもならず放置されているというのは、日本ならではといえるだろう。欧米でも性や人種、肌の色でメンバーを限定するゴルフクラブが存在するが、これらに対しては大きな抗議運動が起こっており、全体としては是正に向かいつつある。
たとえば、1990年の全米プロゴルフ選手権では、会場にアラバマ州のショールクリーク・カントリークラブが選ばれていたが、このコースが白人専用だったことから、全米黒人地位向上協会などから抗議が殺到。多くのスポンサー企業がテレビ中継のCMからの降板を表明したこともあり、結果、黒人名誉会長を受け入れる形でかろうじて大会を実施した(「AERA」1992年4月7日号/朝日新聞出版)。アメリカではこの全米プロ選手権の騒動を受けて、その後、全米プロゴルフ協会(PGA)が人種や宗教、性別などの差別を禁止しているゴルフ場をコースの選定基準にし、全米オープンなどを主催する全米ゴルフ協会(USGA)もこれに続いている。
また、五輪をめぐっても、1996年のアトランタ五輪でマスターズを主催する名門オーガスタ・ナショナルゴルフクラブを舞台にゴルフ競技を実施する動きがあったが、オーガスタNGCは当時女性会員が0人で黒人会員もわずかに1人だったことから、IOC理事が強く異議を唱えてゴルフ採用自体が見送られたこともあった(朝日新聞2月1日付)。
このように、外国ではゴルフにおける差別問題は、大きな抗議運動に発展し、それによって漸進的に改善が進んでいる。他方、日本においてはどうか。大きな改善運動が展開されたという話は聞いたことがなく、また過去には「国籍条項」をめぐって裁判に発展したケースも複数あるが、司法ですら判断が割れている。
たとえば、1995年3月には、在日韓国人の男性が「外国籍を理由にゴルフ会員権登録を拒まれた」として東京都のゴルフ場経営会社を相手に賠償を求めた訴訟で、東京地裁が経営会社に30万円の支払いを命じる判決を下した。司法が憲法14条の法の下の平等に照らして社会的に許される限界を超えて違法とし、外国人差別だと認めたケースだ。一方、同年には別の在日韓国人の男性が千葉県のゴルフ場経営会社を訴えている。こちらについては2002年に最高裁が男性の上告を棄却して敗訴が確定したが、当時「時代後れの判決」として厳しく批判する声も上がった。
しかし、前述したとおり、現在でも多くの会員制ゴルフクラブには「国籍条項」を設けているところが多く、女性が冷遇されているケースが少なくない。こうした差別的体制が五輪憲章に違反するのは明白だ。
しかも最悪なのが、いま、霞ヶ関CCの問題で「男女平等を!」と盛んにアピールしている小池百合子都知事や丸川珠代五輪担当相、連名で是正を要望したJOCや大会組織委、JGAも、霞ヶ関CC以外のゴルフクラブの差別的体制についてはまったく言及しようとしないことだ。
結局のところ、大会組織委や政治家も、そもそもIOCからゴルフ会場の“女性差別”を問題視されて、慌ててとり繕っているというのが本音だろう。
事実、霞ヶ関CCが五輪会場に選ばれたのは5年も前の2012年であり、その間、JOCも大会組織委も、この女性正会員問題についてまったく問題視してこなかった。もし、本当にゴルフクラブの女性差別や国籍差別を是正しようというのならば、これは相当おかしな話だ。霞ヶ関CC関係者も「なぜ今になって急に問題になったのかわからない。もともと正会員規約についても記載された資料を先方に送っており、大会組織委も確認していたはず」と戸惑いを隠さない。実際、大会組織委やJOCは会場の候補を絞るなかで、この女性差別的な要素を知っていた可能性は極めて高いだろう。それでいて、問題を放置し続けてきたのだから、本来ならば彼らもまた“同罪”ではないか。
JGAもそうだ。JGAが主催する日本オープンは国内メジャー大会のひとつだが、06年から16年の開催地コースを見てみると、今回問題となった霞ヶ関CCはもちろん、正会員を原則女性NG、日本国籍保有者に限るとするクラブが複数存在することがわかった。翻ってイギリスでは、女性メンバーを認めない会員制ゴルフクラブに対して、全英オープンを主催するR&Aがコースのローテーションから外す重い決定を下している。また16年には当時大統領候補だったドナルド・トランプの度重なる差別発言を問題視し、トランプがオーナーのゴルフ場もローテーションから外す決断も下している。こうした大会組織やJOC、JGAのこの間の“放置”を見る限り、いま、連中が霞ヶ関CCに対して行っていることは、その場しのぎの“尻尾切り”的な対応と言うしかないだろう。
しかも、極めて不可解なのは、こうした“主催者側”の責任について、メディアがまったく追及するそぶりを見せないということだ。特にテレビでは、女性が正会員になれないことを「ゴルフの伝統」などと言って正当化しようとする意見まで紹介する番組まで散見される。
言っておくが、女性差別も国籍差別もいかなる理由をもってしても正当化されえないし、「ゴルフの伝統」なるものも詭弁に過ぎない。「男性」「白人」しかできないスポーツはかつて、ゴルフ以外にもたくさんあったが、そのほとんどは民主化とともに、差別的な制約を取り払い、性別や人種に関係なく参加できるようになっている。なぜ、ゴルフだけがそういう「差別的伝統」が許されるのか、さっぱり理由がわからない。
実際、取材をしてみても、クラブ側は「設立当時には女性でゴルフをする人がいなかったので、その流れで女性会員を認めていないのでは」(都内ゴルフクラブ関係者)、「なぜ日本国籍に限定しているのかよくわかりません」(神奈川県ゴルフクラブ関係者)と曖昧な答えしかできなかった。
霞ヶ関CCの女性差別的な規定は廃止が必須だが、それだけではなく、ゴルフ界全体に蔓延る差別体質をきちんと追及し、見直す必要がある。
(小杉みすず)
最終更新:2017.02.05 11:39
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