『ケータイ大喜利』から生まれた伝説のハガキ職人の半生、人間関係に悩み自殺まで考えたときオードリー若林が…

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〈あの日見た光を追いかけ、東京に行った。
 そこで僕は、知ることになる。
 ディレクターにとって、僕の存在などゴミに等しいということを。
 ラジオ局では、ただ居るだけという、中途半端な状態が、何ヶ月も続いた。
 見兼ねた他の構成作家から「仕事をもらうためには、ディレクターの懐に入れ」とアドバイスされた。
「とにかく全員に媚びて、気持ち良くさせれば仕事がもらえる」と言われた。
 その時、脳裏に浮かんだのは。吉本の劇場で、舞台監督の肩を揉む、構成作家見習いの奴だ。それが浮かんだ瞬間、心底吐き気がした。
 奴になりたいか? 思い出しただけで、心底吐き気がした。
 だけど、あれが正しい構成作家の戦い方だったのだ。いの一番に舞台監督の懐に入った奴が正しくて、劇場で人間関係を度外視して、毎日ネタばかり作っていた僕は間違いだったんだ。
 この世界で生きて行くということは、奴になるということでしかないのだ。
 でも、よくよく見渡してみれば、業界全体が、そんな人間を是としていた。
 いや、世界全体が汚くて醜くて不純な人間を是としていた。
 僕の中の“正しさ”は、この世界とズレまくっている。
「お笑いをやめる」と初めて口にしたのは、その頃だった。
 僕は、あの人にそう告げたのだった。
「おまえには才能がある」と言ってくれた言葉は、心臓が破裂しそうなくらい痛かった。
「期待して下さっていたのに、僕は何もできませんでした」
 大阪に帰る前の日に、僕はあの人に言った。
 すると、あの人は「おまえは十分期待に応えてくれた。おまえがいなかったら、このスケジュールで、ここまでネタを作れなかった」と言って褒めてくれた〉

 大阪に帰ったツチヤは、クラブのホールスタッフなど身体に合わないバイトを転々とし、最終的には自死を計画するほどの精神状態にまで追いつめられてしまう。

 しかし、笑いに殉じ、表現に青春のすべてを捧げたツチヤはそう簡単に死ぬことなどできない。そこで遺書として、自分と笑いとの関係や自分なりの笑いの方程式を明かすブログを投稿し始める。それが瞬く間に話題となり、連載のオファーが舞い込み、そして本書『笑いのカイブツ』の企画へと発展していくのだった。

 まるで太宰治のような話だが、才能はあるものの、業界の偉い人に取り入ったりといったことがどうしてもできない不器用な性格の彼にとって、小説という表現の選択は肌に合っているのかもしれない。昨年末『M-1グランプリ』で優勝した銀シャリの漫才作家のひとりにツチヤが入っていたという情報はネットで大きな話題となったが、インタビューでは「今も毎日机に向かって書くことだけは自分に課していて、今、書いているのは小説。内容はまだ言えない状態ですけど、完全なるフィクションですね」(ウェブサイト「日刊SPA!」)とも語っており、文筆業はこれから先もツチヤの活動の中心のひとつであり続けるようだ。

 今日で『ケータイ大喜利』は終わってしまうが、10年以上番組が続くなか、この番組をきっかけとしてこのように笑いに取り憑かれた人間がいる。そして、それはツチヤひとりではないだろう。そんなことに思いを馳せながら見ると、最終回もより感慨深いものになるかもしれない。
(新田 樹)

最終更新:2017.11.22 01:45

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