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ジュンク堂「自由と民主主義」ブックフェアがネトウヨの攻撃で炎上しツイート削除…書店の表現の自由を奪うな!
MARUZEN&ジュンク堂書店 渋谷店HPより
今夏の安保法制成立は、すべての人に“大きな問い”を投げかけた。各種世論調査にも表れているように、大多数の納得がないまま踏み切られた安保法制の強行採決は、政治権力の暴走に他ならなかった。国会前には連日のように数万人規模の人々が駆けつけ、夜通し抗議の声を上げ続けた。若者たちは叫んだ──「民主主義ってなんだ?」と。
いま、この国が掲げてきた「民主主義」のあり方が問われている。その意識は言論界でひとつのムーブメントとなり、街の書店でも関連書籍が陳列されている。たとえば、大手書店チェーン・MARUZEN&ジュンク堂の渋谷店のレジ前には、こんなタイトルの書籍が並ぶ。
『SEALDs 民主主義ってこれだ!』(SEALDs/大月書店)
『社会を変えるには』(小熊英二/講談社新書)
『来るべき民主主義 小平市都道328号線と近代政治哲学の諸問題』(國分功一郎/幻冬社新書)
『「デモ」とは何か 変貌する直接民主主義』(五野井郁夫/NHK出版)
『ぼくらの民主主義なんだぜ』(高橋源一郎/朝日新書)
……などなど、「自由と民主主義のための必読書50」と題されたこのブックフェアでは、新書から一般向けの人文科学系学術書、さらにはプラトンの『国家』やカントの『永遠平和の為に』など哲学の古典まで、棚を見る者に、人々と国家との関係やそのあり方を深く考えさせるラインナップとなっている。
ところが、これに噛みつき、炎上させている人たちがいる。ネット右翼だ。
きっかけは、今月18日、「ジュンク堂渋谷非公式」というツイッターアカウントが、「自由と民主主義のための必読書50」フェアをツイートで告知したこと。「ジュンク堂渋谷非公式」は、フェアを応援するユーザーに対して、〈この先イベントやフェアを次々ぶちかまして行く予定なので。年明けからは、選挙キャンペーンをやります! 夏の参院選まではうちも闘うと決めましたので!〉と返信。この姿勢に賛同が示されると、〈はい!闘います。うちには闘うメンツが揃っています。書店としてできることをやります!一緒に闘ってください〉と、力強く“共闘”を呼びかけた。
だが、この一連のツイートや拡散された本棚の画像を見たネトウヨたちからは批判が殺到。ツイッターや2ちゃんねるなどで続々とジュンク堂への批判を繰り出し、不買運動まで扇動したのである。
〈ジュンク堂って反日かよ....〉
〈ジュンク堂マジ終わったな。ただでさえ書籍が売れない時代なのに、左翼に肩入れする偏向本屋。あーあ、さようなら〉
〈ジュンク堂ではもう買いません。シールズなんてキチガイ支持する書店とかバカすぎやろ〉
こうしたクレームがジュンク堂の本部にまで飛び火し、「ジュンク堂渋谷非公式」アカウントは削除、公式アカウントである「丸善ジュンク堂書店」が20日、〈「ジュンク堂渋谷非公式」という名称で活動しているアカウントがありましたが、丸善ジュンク堂書店の公式なアカウントではなく、当該アカウントからのツイートは、丸善ジュンク堂書店の公式な意思・見解ではございません〉と説明する事態となったのである。
しかし今回、MARUZEN&ジュンク堂渋谷店は、本当に責められなければならないことをしたのだろうか? 『NOヘイト! 出版の製造者責任を考える』(ヘイトスピーチと排外主義に加担しない出版関係者の会)の版元である、ころから代表の木瀬貴吉氏は、今回の騒動についてこのように所見を語る。
「私も騒動を聞いてすぐ、MARUZEN&ジュンク堂渋谷店を訪ねました。展示はいまも撤去されていません。これは希望だと思うし、フェアは“時代の空気”を反映したものだと思います。一般論として、書店は流通を担い、あらゆる言論、考え方、意見を読者へ届ける役割があります。そのうえで読み手に判断を委ねる。ですから、たとえ客であろうが、外野が『この本を出せ、この本は出すな!』と言う権利はありません」
言論の流通を担保することは、多種多様な議論を根底とする民主主義に不可欠なものだ。その前提となる表現の自由は、民族差別等を助長するような、社会的合意の枠組みからひどく逸脱するものでないかぎり、原則としていかなるものにも保障されなければならない。こうした“表現”の観点から木瀬氏が続ける。
「一方で、書店員もこの国で暮らす、いち生活者です。社会から受け取った感覚を表現するのは当然のこと。おそらく、企画した書店員も、フェアをするか否か考えたと思います。そのうえで『自由と民主主義のための必読書50』を開催した。ということは、このフェアを生み出したのは、現在の社会状況そのもの、と言えます」
繰り返しになるが、今回の騒動の背景として、安倍政権が、国民の6割が可決に反対した安保法制や、過半数が反対している原発再稼働などを強引に推し進めている事実が存在する。実店舗を持つ書店はそれ自体がひとつのメディアだ。民主主義が崩壊しつつあるのではないかという“時代の空気”がメディアに映し出されるのは、ごく自然なことである。
「『自由と民主主義』という言葉は、評論家が大上段から語るものではなく、いまや人々にとって感覚的に身近なものになったのではないでしょうか。だから、いち生活者として書店員がこれを表現するのは、至極まっとうだと思います」
そう木瀬氏が語るように、“書店員の表現”という観点からこのフェアを見た場合、第一に「偏向」とするのは事実認識としてもありえない。また、仮に公の利益の損失をまねくことを「反日」と呼ぶのだとすれば、社会の合意形成に不可欠な議論の契機を封殺するまねをするネトウヨのほうこそ、まさに「反日」というほかないだろう。そういう意味では「ジュンク堂渋谷非公式」アカウントが削除されたことは、メディアとしてふさわしい行為だったとは言えない。なぜなら、彼らが「闘う」と表現したのは、こうした“お上の方針に有無を言わせない社会の空気”に対してでもあったはずだからだ。
むしろ見逃してはならないのは、今回、ジュンク堂には、ネトウヨによる批難の声と同じくらい、いや、それ以上に、その姿勢を賞賛し同意する声が起こっていたことだろう。「自由と民主主義のための必読書50」フェアは、いま、この時代にこそされるべき議論を社会に投げかけている。その意味において、書店の実店舗がメディアとして機能した好例だ。
取次先から届けられた本をそのまま陳列し、売れ残りを返品するだけの書店や、クリックひとつで欲しいものに行き着くネット書店では、そうはいくまい。ネットに押されがちな業界にとって、今回の騒動はむしろ、“表現”を行う実店舗にのみ潜在する可能性を見せたのではないか。
書店は単に“ものを売るだけの場所”ではない、“民主主義を支える場所”なのだ──きっと多くの人が、その声を聞き取ったことだろう。
(梶田陽介)
最終更新:2015.10.23 07:49
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