フジも見習え!”予算なし人気芸能人なし”テレ東の自虐的企画力

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『TVディレクターの演出術──物事の魅力を引き出す方法』(ちくま新書)

 民放他局から「振り向けばテレ東」と揶揄されていたのも今は昔──凋落が叫ばれ、若者には「オワコン」と吐き捨てられるテレビ業界にあって、唯一、快進撃を続けているのがテレビ東京だ。

 まず、3月まで放送された北大路欣也主演のドラマ『三匹のおっさん』最終回はテレ東史上最高となる平均視聴率12.6%(関東地区)を記録し他局を驚かせたばかりだが、現在放送中の昼の帯番組『昼めし旅~あなたのご飯見せてください!~』も6月26日放送分で2.0%を獲得。フジテレビが肝入りでスタートさせた『バイキング』を追い抜かんとする勢いを見せている。

 さらに、「土曜スペシャル」枠の『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』は、太川陽介×蛭子能収という地味なキャスティングながら人気を博し、『モヤモヤさまぁ〜ず2』や『Youは何しに日本へ?』といったバラエティ番組は、名誉あるテレビ賞・ギャラクシー賞奨励賞を獲得。開局以来初の2週間連続で生放送を行った『トーキョーライブ24時~ジャニーズが生で悩み解決できるの!?』は、4月度の月間賞にも輝くなど、番組の数字・評価ともにうなぎ登りの状態だ。

 しかし、なぜテレ東だけが元気なのか。その秘密を“テレ東魂”が詰まった『TVディレクターの演出術──物事の魅力を引き出す方法』(ちくま新書)から紹介しよう。

 この本の著者は、『TVチャンピオン』や『空から日本を見てみよう』、『ジョージ・ポットマンの平成史』『世界ナゼそこに? 日本人〜知られざる波瀾万丈伝〜』などを担当してきたテレ東ディレクター・高橋弘樹氏。まず、彼はまえがきの自己紹介から「僕はテレビ東京という小さなテレビ局で、ディレクターをしています」と、5大キー局にも関わらず“小さな”と自虐を差し込む。すでにここから、シースー(寿司)だのと時代錯誤な業界用語を使わない人物であろうことが滲み出ている。

 そして畳みかけるように、著者は「みなさんは、テレビ東京がどこにあるかおわかりでしょうか」と唐突に尋ね、「おそらく即答できる人は、ほぼいないでしょう」と続けている。ちなみに答えは「神谷町」。「神谷町は港区の中でも、一、二を争う微妙なリアクションが得られる駅なのです」と三度の自虐を展開するほど、汐留(日本テレビ)、六本木(テレビ朝日)、お台場(フジテレビ)、TBS(赤坂)と都内の一等地ないしは話題のスポットに点在する他局に比べて、いかにテレ東が地味で目立たないかを強調している。

 自虐はさらに続く。いわゆるテレ東らしさを醸し出しているのは、前出の『Youは〜』や、通勤中のサラリーマンたちに声をかけて会社を休むことを説得し、逆方向の電車に乗せてしまうことで話題を呼んだ『逆向き列車』のように、素人メインの心地よいユルさがある「手作り番組」の多さだ。しかし、それも狙ったわけではないという。著者はじつにあけすけにこう綴る。

「答えは簡単。テレビ東京がしょぼいからだと思います。ようは、金も力も無かったから生まれた制作方式なのです」

 金がなければ有名タレントはキャスティングできない。一方、ほかの局では華のあるタレントがわんさと出演している。そんななかで汐留や六本木、お台場、赤坂と戦うにはどうすればいいのか──そこでテレ東が選んだのが“手作り”路線だった。タレントに出演してもらうことを「あえてあきらめ」、ディレクターが台本を書き、カメラを回す。そうすれば「バラエティ番組でも長期間取材に行くことが可能」であり、「短期の取材では見えてこない新発見や、人間ドラマを描けるようになる」というわけだ。

 実際、著者が関わった番組は、スタジオ部分でタレントが出演することはあるが、あくまで番組のメインは“素人さん”。そのため「僕はテレビ局に九年もいるのに、仲のいいタレントは皆無です」と著者はいう。他方、赤坂のテレビ局に入社した知り合いには「千原ジュニアさんとよく旅行に行くんだ」などと自慢げに言われることも。それでも著者は、「別にうらやましくないですけど」とバッサリ切り捨てている。さすがテレ東!と掛け声のひとつでもかけたくなるではないか。

 タレントに頼らず、アイデア勝負で番組づくりを行うテレ東式の手作り精神。試されるのはディレクターの腕のみ、だからこそ「物作り」としての楽しさが大きい、と著者はいう。こうした姿勢が、たとえばバラエティなら“ひな壇芸人”ブレイク以降の新たな切り口を見つけられずに右往左往している他局と差をつけてきたことは確かだが、視聴者がテレ東を支持し始めたのはそれだけが理由ではないはずだ。

 思えば、開局から50年。当初から他局にバカにされ、お色気と素人頼みだと散々蔑まれ、倒産の危機にも陥り、「振り向けばテレ東」と揶揄されてきた──そうした歴史を覆すかのように、いま壮大なカウンターパンチを決めようとするテレ東。そこには、高い給料を貪り業界人を気取る“マスゴミ”への倍返しを期待する大衆の声援があるのではないか。そして、テレ東の潔い“自虐”が、そんな大衆の感情をますます高めてしまうのではないだろうか。

 先日放送された大型音楽生番組でも、『テレ東 音楽祭(初)』と、タイトルでわざわざ初めてであることを強調していたテレ東。しかし、人気者になってしまっては、自虐は通用しなくなる。次なる一手をどう打つか……ある意味、これからがテレ東の正念場となりそうだ。
(田岡 尼)

最終更新:2017.12.07 07:30

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