カンヌ受賞の是枝裕和監督が「戦時中の満洲が舞台の映画を撮りたい」と! 歴史修正主義を批判する是枝監督の“戦争映画”は実現するか?

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塚本晋也が明かした『野火』実現までの苦労、一方で国威発揚映画には補助金が

 その点を指摘したのが、大岡昇平の名作『野火』を実写映画化した塚本晋也監督だ。『野火』は、塚本晋也自身が監督のみならず主演や脚本や撮影もこなし、資金集めまで行った自主製作・自主配給作品ながら、「キネマ旬報」(キネマ旬報社)が年間ベストテンの日本映画部門で2位に選出するなど高い評価を受けた。

 この『野火』の作中では、教会で出くわした現地の人を日本兵が殺してしまったり、飢えに耐えかねての人肉食が描かれたりと、第二次大戦末期のフィリピン・レイテ島で当時の日本兵が犯した罪に関する描写もあるのだが、それゆえに映画の製作は難航した。15年8月17日にゲスト出演した『荻上チキ・Session-22』(TBSラジオ)で、塚本監督はこのように語っていた。

「いつもの僕の自主映画の、僕の頭の中にあるちょっと奇天烈なものを映画化するというのとは違って、もう大岡昇平さんという素晴らしい原作があるので、それをたっぷりと描くのには、自分がちゃんとつくると言えば、お金がいつかは集まるんじゃないかという気がしてたんですけど、でも、時間が経つにつれて、まあ、お金だけの理由ではなくて、例えば、『もっと小さい規模でやります』と言っても、だんだんだんだんに、お金が出ない雰囲気というか、風潮みたいなものを感じるようになって、つくりづらくなっているなぁというのはここしばらく感じていた感じですね」

 この『野火』は構想に20年かかっている。というのも、先に引用した塚本監督の発言にも一部あるように、大岡昇平による戦争文学の代表作が原作であることから、大規模公開が見込めるスター俳優をキャスティングして映画化しようと思っていたのだが、社会が保守化するにつれ、だんだんと資金集めは難しくなっていったからだ。一時は実写での映画化は諦めてアニメ映画にしようという案まで浮上したのだが、結果的には、塚本自身が監督のみならず主演も務めるかたちでようやく企画実現に至った。

『野火』のように戦争の現実を描いた映画がこのような状況に置かれる一方、プロパガンダ映画には助成金が出る状況がある。たとえば、安倍政権は明治期の国づくりなどを題材とした映画やテレビ番組の制作を支援する方針を打ち出しているが、そのようなかたちで国が映画産業を支援することに対し、是枝監督はこのように釘を差している。

「補助金もあるけれど、出してもらうと口も出すからね。映画のために何ができるか考える前に、映画が国に何をしてくれるのか、という発想なんだと思いますよ。それはむしろ映画文化を壊すことにしかならないんです。
 たとえば、東京オリンピック招致のキャッチコピーに『今この国にはオリンピックの力が必要だ』っていうのがありましたけど、私は五輪はスポーツの祭典の場であって、国威発揚の場ではないということがとても大切な価値観だと思っています。安倍首相は東京国際映画祭のオープニングでも挨拶したけれど、映画が日本のアピールのために利用されているようにも思える。なのでサポートして欲しい、ということも個人的には言いにくいわけです」(ウェブサイト「Forbes JAPAN」16年12月9日付)

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