失言・炎上に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
「宇予くん」だけじゃない“ドラ息子の集団”JCのトンデモ改憲計画! 戦争放棄も男女同権も削除
削除される前の「宇予くん」のTwitterアカウント
公益社団法人日本青年会議所(通称JC)が、Twitter上で「宇予くん」なるキャラクターを通じ、ネトウヨ丸出しの暴言を連発していたことが発覚した問題。あらためてはっきりしたのは、JCという組織のトンデモぶりだ。
まずは簡単に騒動を振り返っておこう。「宇予くん」のアカウントは今年に入ってからツイートを始めた。中国と韓国について〈日本はこのバカ二国と国交断絶、もしくはミサイル攻撃したほうがいいど〉と戦争を煽り、共産党の機関紙「しんぶん赤旗」に登場した一般市民や購読者に対し〈完全に頭がやられているど〉〈間違いなく狂ってるど〉〈これ読んで騙されるのはガイキチだけだど〉などと誹謗中傷を繰り返していた。
アカウントにはJCの企画であることが明記されていなかったが、先月、ネット上でJCによる憲法改正運動について記した企画文書とみられる画像が流出。「宇予くん」についても触れられており、JCの「憲法改正推進委員会」が企画したアカウントである疑惑が浮上した。そして、こうした画像などの情報を元に、ネットメディアの「Buzzap」が「日本青年会議所(JC)が憲法改正に向けて正真正銘本物のネット工作」などと題して、複数記事で問題を追及した。
また同時期、JCが運営する「ニッポンサイコープロジェクト」なるどうかしているとしか思えない名称のホームページが公開した“憲法改正ウェブ漫画”も一部で話題になった。漫画は、芸人のブルゾンちえみを模したキャラクターが「新しい男(憲法)作りたくない?」などと喧伝するという理解しがたいシロモノで、こちらもネットで批判の声があがった。波紋が広がるなか、TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』がJCに問い合わせるなどし、番組で騒動を取り上げた。
こうした事態を受け、JCは2月28日、ホームページに「お詫び」を掲載。〈かかるキャラクターは、元々は当会が憲法改正論議をより充実させ、憲法改正への契機とすべく、国民レベルでの議論をツイッター上で巻き起こす目的で企画致しました〉〈同じく、関連の HP 等で掲載された「憲法漫画」第1話登場のキャラクター等において、一部不適切な掲載がありました〉などと説明した。また、3月1日には「調査結果のご報告」と題した文書も同HPに掲載している。
「宇予くん」は確信犯、〈対左翼を意識し、炎上による拡散も狙う〉
だが、これで騒動が終わるとは思えない。JCは「調査結果のご報告」のなかで、〈本会が企画した目的や実施内容と、実際に行われた投稿等は大きく異なって〉おり、もともとは〈個人間での草の根の議論を巻き起こすことができればという願いがございました〉などと弁明しているが、前述の工程表とみられる流出文書には「宇予くん」の「事業内容」としてこのように記されていた。
〈対左翼を意識し、炎上による拡散も狙う〉
〈つぶやき事例:
(キャラ設定狙い)「おで、今日は改憲デモでよく歩いたど。うちに帰ってプロテイン飲んで寝るど。」
(対左翼炎上狙い)「憲法第9条のおかげで戦争が起きないって言ってるやつ、頭おかしいど。おでのムキムキ筋肉パン(引用者注:「チで」と続くと思われる)葬りさるど。」〉
ネットメディア「BuzzFeed News」の取材によれば、青年会議所にこの文書の真贋を確認したところ「当会の会議資料の一部として残っているものであることは確か」と回答したという。であれば、どう考えても“企画した目的や実施内容とは異なっていた”とのJCの説明はおかしい。なお、同じ文書には「つながれ! 憲法改正賛成美魔女奥様図鑑全国版」および「つながれ! 憲法改正賛成ちょいワルおやじ図鑑全国版」なる動画配信企画についても記されていた。このバッドセンス。控えめに言っても頭が悪すぎる。
まあ、そういう意味では、JCらしいと言えなくもない。何しろ、日本青年会議所といえば地方の名家や企業の二代目、三代目が参加する“金持ちのボンボン、ドラ息子の集まり”。金にあかせた傍若無人なふるまいやグロテスクなセンスは有名で、これまでも数々の不祥事が取り沙汰されてきた。たとえば1998年2月には、旭川市でJCの会合があった夜の懇親会で、16歳の未成年女子に「女体盛り」をさせたことが発覚。これは当時の「FLASH」(光文社)が写真抜きですっぱ抜いたものだが、結果、4名のJC関係者らが売春防止法違反などで逮捕されている。
しかし、今回の「宇予くん」騒動を「頭の悪いドラ息子たちが暇にあかせて改憲運動に手を出して炎上した」と見るのは過小評価だろう。
そもそもJCは中曽根康弘、小渕恵三、森喜朗などの首相経験者、現役政治家では麻生太郎財務相、下村博文元文科相、石原伸晃前経済再生相、萩生田光一幹事長代行、平将明ネットメディア局長ら自民党の幹部議員を輩出しており、もともと右派の政治色が極めて強い。とりわけ、2006年の第一次安倍政権誕生と前後して、安倍氏のブレーンと言われる日本会議系の学者らと一体化していることも表に出し始めるなど、その右派傾向はますます顕著になっていった。
第一次安倍政権以降、極右思想、歴史修正主義をエスカレートさせたJC
実際、2005年にJCが発行していた雑誌「JC」(時事通信社)では、「ミサイル防衛」や「領土領海問題」「教科書問題」「日本の新憲法が見えてきた!」などの特集・話題を扱いながら、第3号(05年11月15日発売)で自民党幹事長代理だった安倍氏と当時のJC会頭・高竹和明氏の対談を掲載。またJCは06年から07年にかけて「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社)で一回あたり16ページもの大広告を断続的に展開していたが、あらためてこれを読むと、教育基本法改正の推進など、当時のJCの政治運動が安倍首相とその周辺の日本会議系人士のトレースだったという事実が浮かび上がる。
たとえば、同誌07年9月15日号掲載のJC広告では、巻頭インタビューにあのトンデモ教育理論「親学」で知られる高橋史朗・明星大学教授が登場。JCは同じ広告のなかで「親学推進プロジェクト」の考案や、日めくりの「親学カレンダー 親学の実践・親の心得」、〈戦前の『尋常小學修身書』から偉人伝を抜粋〉する「美しく生きるための先人の教え 生き方の教科書」の制作予定を公言していた。しかも「親学」関連の監修は高橋氏、教科書の監修を安倍首相の極右ブレーン・八木秀次氏が務めると謳っている。なお、JCの関係者が八木氏が理事長を務める日本教育再生機構の運営に関与していたことは、東京青年会議所の機関紙「Tokyo JC News」のなかでも堂々と打ち明けられていた。
また、JCは2006年に『誇り 伝えよう日本のあゆみ』なる歴史修正アニメも制作している。内容は、現代の女子高生の前に戦死した青年の幽霊が現れ、戦前・戦中日本の侵略戦争への動きを正当化するような解説をし、例の「(マッカーサーも)日本の行った大東亜戦争は自衛のための戦争だった(と証言)」なるデマを開陳したあげく、靖国神社へ誘うというものだ。このアニメを使った新しい教育事業は文科省に採択され、当時のしんぶん赤旗の報道によれば、JCは全国の学校授業でこのアニメを使用しようとしていたという。
こうしたJCの極右教育活動については、以前も本サイトで取り上げたことがある。2015年11月3日放送の『ニュースウオッチ9』(NHK)が報じた、JCが埼玉県さいたま市の中学校で行った憲法の「出前授業」のことだ。教壇にはJCの憲法論議推進委員会の副委員長が立ち、「いまの憲法の前文を読んだことはありますか?」と生徒たちに切り出してから、「あなたは日本人について、これからどういう人であってほしいと思いますか?」などと尋ねていた。
本来、憲法というのは国民が為政者の権力を縛るものであり、憲法に“日本人はどうあるべきか”などという道徳観念を強制するのは、戦前・戦中の大日本帝国憲法と同じ国家主義的憲法観そのものだが、こうした極右的憲法観を端的に表しているのが、JCが2012年に決定した自前の憲法改正草案だろう。
憲法前文に「類まれな誇りある国家」と謳うJCのトンデモ改憲草案
たとえばJC憲法草案では、憲法前文の書き出しがこんなポエムに丸々とってかえられている。
〈日本国は、四方に海を擁し、豊かな自然に彩られた美しい国土のもと、万世一系の天皇を日本国民統合の象徴として仰ぎ、国民が一体として成り立ってきた悠久の歴史と伝統を有する類まれな誇りある国家である。〉
日本国憲法では“主権在民”が宣言されている憲法前文第一段落に、いきなり“天皇崇拝”と“国家の誇り”を持ってきているわけだ。もはやこれだけでもクラクラしてくるが、JC草案では続く第一条で天皇を「元首」とし、「主権の存ずる日本国民の総意に基づく」という国民主権の文言を削除。現行憲法で9条が置かれる「第二章 戦争の放棄」はオールカットで、代わりに「第三章 安全保障」に〈個別的及び集団的な自衛権を有し、行使することができる〉〈軍隊を保持する〉と明記するなど、平和主義を叩き潰している。
さらに日本会議や自民党右派の主張と共通するものとして、JC草案は〈国民は、わが国の歴史、伝統及び文化を尊重し、子孫に継承する責務を負う〉を新設。婚姻に関しても、現行憲法第二十四条にある〈夫婦が同等の権利を有することを基本として〉という文言を削除し、かわりに〈家族は、共同体を構成する基礎であり、何人も、その属する家族の維持及び関係の強化に努めなければならない〉という、父権主義的家族観を憲法の条文で押し付ける。“女は家庭で亭主の帰りを待てばいい”という女性蔑視の考えとしか言いようがない。
他にもJC案ではやたらと国民の「責務」という文言を登場させて、事実上「国民の義務」の数を激増させているなど、総じて“憲法は国民をお国に縛り付けるもの”になっている。周知の通り、自民党が2012年に発表した憲法草案との類似点は多い。
さらに言えば、JCは毎年「基本方針」を公表しているが、第二次安倍政権下ではそのトップ項目が「成熟したナショナリズムによる国民意識の確立」(2015)、「知識と意識を伴った『民間防衛力』の確立」(2016)、「真の主権者教育による『全うな日本人』の育成」(2017)と、どんどん極右化していった。ようするに、JCはいまや、完全に安倍自民党の政策や改憲の野望を援護射撃するような態勢となっている。そう考えざるをえないだろう。
ひるがえって、今回の「宇予くん」の問題とその背景を俯瞰し直すと、そこにはやはり二つの側面があると言わざるをえない。ひとつは、JCが安倍政権やその周辺極右の政策をなぞる政治運動団体と化していること。そしてもう一つは、JCが企んだ改憲工作活動のトンデモぶりは、実のところ、そこに大層な保守思想など皆無であることを表しているだけでなく、国民のことなど何とも思っていないということだ。
いや、マジで実際、主権者に向かって「おでのムキムキ筋肉パンチで葬りさるど」って……。冗談でもヤバすぎるだろう。ホント、いちど改憲派の頭の中身を拝見してみたいものである。
(宮島みつや)
最終更新:2018.03.03 12:05
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