右翼・左翼に関する話題……本と雑誌のニュースサイト/リテラ
テラハ木村花さんの死を“政権批判封じ”に利用する政治家と安倍応援団…フィフィ、フジ平井文夫らの酷すぎるスリカエ
三原じゅん子Twitterより
フジテレビ『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』(以下『テラスハウス』)の出演者である女子プロレスラー・木村花さんの死を受けて、政治家たちが一斉に「SNSでの誹謗中傷を規制する」と宣言している。
周知のように、高市早苗総務相は「匿名で人を中傷する行為は卑怯で許しがたい」と述べ、匿名発信者の特定を容易にする「早期の制度変更」の意向を示した。また、自民党「インターネット上の誹謗中傷・人権侵害等の対策PT」座長の三原じゅん子参院議員は〈インターネット上の匿名での誹謗中傷の人権侵害に対して、政治家として動き出します〉(25日Twitter)などとアピールしている。
だが、本サイトですでに指摘したように、いま、完全に「ネット上の誹謗中傷」だけが責任を追及されているが、本来は、「炎上」「バズ」など話題性を求めて木村さんへの攻撃を煽ったフジテレビの責任が大きい。フジを筆頭とするマスコミはその責任を頰被りして「ネット上での誹謗中傷」に転嫁、いわば不特定多数の匿名カキコミを“スケープゴート”にしているのだ。
そうした流れのなか、政府や与党の政治家がこぞって「ネット上での誹謗中傷の規制」に乗り出していることは、あまりにも危険としか言いようがないだろう。
そもそも、何をもって「ネット上の誹謗中傷」とするかは極めて曖昧であり、かつ、その基準をつくるのは、権力者である政府や政治家だ。これまでの安倍政権の姿勢を考えれば、「政治に対する批判」を「誹謗中傷」にこじつけて取り締まるようになるのは、火を見るより明らかだ。
言っておくが、これは妄想でも決めつけでもない。事実、すでに安倍応援団のタレントやネット右翼たちは、まっとうな「政治批判」を「誹謗中傷」と言い換えて、政権に批判的な声を封じ込めようとしている。
たとえば、ミュージシャンのきゃりーぱみゅぱみゅが23日、木村さんの死を受けて、Twitterに〈誹謗中傷を気にするななんて難しいよ。芸能人だって1人の人間だよ忘れないで〉と投稿したところ、〈じゃあまず安倍総理に謝るべきですね〉〈きゃりーさんも安倍総理と黒川氏を誹謗中傷しましたよね?〉〈政治家を誹謗中傷するのはOKなんですか?〉〈安倍総理も1人の人間です〉などとのリプライが相次いだ。
周知のように、先日、きゃりーは「検察庁法改正案」への反対をツイートし、安倍応援団文化人やネトウヨから攻撃の的にされたばかり。ようするに連中は、民主主義国家なら当たり前の「政治批判」を「誹謗中傷」とレッテル貼りして、安倍政権への批判者を潰そうとしているのだ。
また、安倍政権擁護とリベラル派攻撃でネトウヨから大人気、極右雑誌「月刊WiLL」(ワック)にも寄稿しているタレントのフィフィも、「政治批判」を「誹謗中傷」にこじつけるツイートをしている。
〈ネットの誹謗中傷に対して非難の声があがる中、一方で著名人が政治家を馬鹿にするツイートしまくってる違和感。相手がタレントでも人間!って批判しておきながら、政治家なら平気で罵る。意見を言うのと中傷は違う。ちなみに私人なのに安倍昭恵さんのインスタとか酷いよ。言論の自由って?都合よすぎ。〉(25日)
フジテレビ解説委員の平井文夫は自局の責任を棚上げして「人が死んでんのに左翼メディアが」
よくもまあ、恥ずかしげもなくこんな話のスリカエができるものだ。そもそも、政治家とタレントのケースとでは訳が違う。事実、裁判所の判例でも、総理大臣など「公人のなかの公人」と言える人物に関しては「厳しい批判」や「揶揄」も「受忍すべき」という判断を明確に示しているのだ。
フィフィは「意見と中傷は違う」と言って「政治家を馬鹿にするツイート」を攻撃しているが、そもそも、権力者である政治家に対する言論を「中傷」として規制対象にすることの危険性を何もわかっていない。昭恵夫人を「私人」として擁護するのも同様だ。森友問題など、昭恵夫人の言動がこの国の行政を歪ませてきたことはほとんど明らかにもかかわらず、その批判が「中傷」として封じ込められてしまえば、政権や権力に近い人物が関与する疑惑の追及・解明は不可能になってしまうだろう。
極めつきが、フジテレビの平井文夫・上席解説委員だ。フジの平井氏といえば、これまでも安倍政権擁護的なコメントを放ってきた人物だが、きのう27日放送の『バイキング』では、「ネット上の誹謗中傷に関する制度変更」についてこんな発言をしていた。
「これ、言うのは簡単なんですが、やるのは大変なんですね。いざ始めると、必ず文句つける人がいるんですね。今日の朝日新聞読んでたらこう書いてあるわけ。『企業や公人が乱用する恐れがある』『通信の秘密保護と被害救済のバランスを見極めろ』と書いてあるんですね。人が死んでんのに『バランス』ってなんなんだろうって思いますけども。ただこの表現自由っていうのは、もっとも大事な権利だって言われてるんですね。この表現の自由っていうのを盾に今までいろんなことが妨害されてるわけなんです。今回もおそらく、割と左翼側のメディアを中心に、表現の自由を守れ、規制はもうちょっと弱めにしろ、という動きが必ずでます。だから僕は、いま出たようなとおりに(制度変更が)簡単にいくとは思わない」
いやはや、『テラスハウス』を制作・放映したフジテレビの解説委員が、自分たちの責任を完全にネグって「人が死んでんのに」と“左翼メディア”に責任転嫁……愕然とせざるをえないが、ようするに、平井氏は「左翼メディアが言う『表現の自由』なんてどうでもいい」と言いたいのだろう。言うまでもなく、権力の監視がメディアの責務であって、それを支えるのが「表現の自由」であるのに、その「表現の自由」をメディア側が敵視する。もとよりこんな人物に権力の監視など求めるべくもないのかもしれないが、いったいどういう神経をしているのか。
三原じゅん子は政治家への誹謗中傷や「あいちトリエンナーレ」を持ち出し芸術への規制も主張
実際、自民党が「誹謗中傷」を自分たちに都合よく解釈し、気に食わない言論や表現への弾圧に利用しようという兆候は、すでに見え始めている。
たとえば、前述の自民党「インターネット上の誹謗中傷・人権侵害等の対策PT」座長である三原じゅん子議員は、〈インターネット上の匿名での誹謗中傷の人権侵害に対して、政治家として動き出します〉という自身のツイートについた〈実名で誹謗中傷する人もいますので。よろしくお願いします。あと芸術だ。と言えば何でもいい。のも論外です。愛知、広島トリエンナーレ。昭和天皇への侮辱な画像とかも〉なるリプライに〈本当ですね〉(25日)と同調をしていた。これは、昨年の「あいちトリエンナーレ」における「表現の不自由展・その後」など、政権に不都合な表現・言論を「誹謗中傷」として扱うことで取り締まろうということではないのか。
三原議員は、映画評論家の町山智浩氏の〈木村花さんを政治に対する批判封じ込めに利用しないで欲しいです〉というツイートに対して、〈何度も書いていますが、批判と誹謗中傷の違いを皆さんにまず理解して頂く事が大切。まして政治批判とは検討を加え判定・評価する事です。何の問題も無い。ご安心を。〉(26日)と取り繕っていたが、いったい誰が信じられるというのか。事実、三原議員は同じツイートで続けて〈しかし、政治家であれ著名人であれ、批判でなく口汚い言葉での人格否定や人権侵害は許されるものでは無いですよね〉と、ちゃっかり「政治家」への「口汚い言葉での人格否定や人権侵害」は許されないと断言していた。
繰り返すが、総理大臣など「公人中の公人」である政治権力者は、ときに「口汚い言葉」になるような苛烈な批判も受け入れるべきで、ましてや、その「誹謗中傷」の線引きを政治家自身が線引きするのはもってのほかである。
しかも、政治権力者から見れば、実際に法改正などで匿名発信者の情報開示のハードルを極端に下げたり、重い罰則規定をもうけたりせずとも、きゃりーへの攻撃やフィフィの妄言のように、「政治批判をすれば誹謗中傷として取り締まられるかも」と思わせることができさえすれば、ネット上での批判をどんどん“自粛”させることができる。たとえば、「検察庁法改正案」は反対のハッシュタグなど多くの批判がSNS上で殺到したことで採決見送りになったが、こうしたムーブメントも、政治権力が「ネット上の誹謗中傷の規制」を自分たちに都合のよいやり方で行えば、これほどの盛り上がりは見られなかっただろう。三原議員の言動などを考慮すれば、その狙いはまさに“政権批判の萎縮”をつくり出すことにあるとしか思えないのだ。
念のため言っておくが、ネット上でいまなお野放しになっている差別煽動(ヘイトスピーチ)などの人権侵害は、当然、許容できるものではない。しかし、差別問題にしても「何が差別に当たるのか」「なぜ差別はよくないのか」という根源的問題は、まさしく言論による議論を積み重ねることで、徐々に合意形成されてきたということを忘れてはならないだろう。
方や、いま政府や自民党が中心となって乗り出そうとしている「ネット上の誹謗中傷規制」は、その線引きの議論をすっ飛ばす勢いでなされようとしている。歴史を振り返るまでもなく、言論統制はこうした隙をつくかたちで仕組まれてきた。言論それ自体を萎縮させ、政治権力に利用されかねない“規制”には、明確にノーを突きつけなければならない。
(編集部)
最終更新:2020.06.09 10:11
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