ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第14号

会社を辞めたら、数百万円の損害賠償を請求された! 辞めたいのに辞めさせてくれない会社に従うしかないのか?

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「辞めますと言ったのに、辞めさせてもらえない」こんな相談が最近とても多い印象だ。

 法律上は、労働者が退職の意思表示をしてから14日で退職の効果が生じることになっているので、会社や上司がなんと言おうが、「辞めます」と言って14日経てば退職したことになる。なので、実は15日目から出社しなければいいだけなのだが、最近はそう単純ではないケースが増えている。「辞めたらお金を請求する」と言って労働者をビビらせて退職を思いとどまらせようとする会社があるのだ。

 Aさんは広告代理店勤務のデザイナーだった。連日の残業で体調を壊し、医師から休職の指示を受けた。

 そこでAさんは会社に退職を申し出たのだが、会社は体調を崩しているというAさんの言葉を信用しなかった。そして、

・後任社員が採用されるまで、理由の如何に関わらず出社拒否などせず通常業務に従事すること
・後任社員が採用された後に引き継ぎをおこなって、会社と協議・合意の上で退職日時の確定すること
・違反した場合は、後任社員の募集広告費や募集・採用に費やされた役員の経費、新入社員の研修・人材育成に費やされた経費、Aさんが退職することによって失った利益などについて、損害賠償を請求されても異議を述べない

 といった条項の入った退職合意書をつくって、Aさんにサインさせた。

 しかし後任社員に引き継ぎが終わってからの退職といっても、その後任者はこれから募集するので、いったいいつ見つかるのかわからない。これではいつ退職できるのかまったく予測できない。しかも引き継ぎが終わる前に退職や休職をしたら多額の損害賠償を受けることになるというトンデモない内容である。

会社を退職したら、数百万円の損害賠償請求!? そんなの払わなくていい!

 こういった条項は、労働者の退職を経済的に足止めするもので、労働基準法5条違反となり法律的には無効である。それ以前に、そもそも病気でも休暇を取れないという意味であれば(そういう風にしか読めないが)公序良俗違反で無効である。つまり、守らなくてもいい条項ということだ。

 しかし、そういった知識のないAさんは「退職できない」「休むこともできない」と悩んで弁護士のもとを訪れた。

 その後、Aさんは弁護士のアドバイスにより休職、退職をしたのだが、なんと会社は、さきの退職合意書に違反しているといって約355万円もの損害賠償請求をしてきた。

 会社でAさんはホームページ制作などを担当していたのだが、会社は、Aさんが担当業務を完成させないまま退職したので、それらを外注しなければいけなくなったと言って、その外注費を請求してきたのだ。

 しかし、もともと労働者と会社との労働契約には、「完成させるまで働かなくてはならない義務」はない。ここが業務委託や下請けと違うところだ。労働者は、1日1日指示通りに業務をおこなえばよいのであって、完成途中で退職しても構わないのである。どうもこの会社は、労働契約と業務委託の区別がついていなかったようだ。そういえばAさんに対する残業代も支払われていなかったが、そのあたりも、労働契約と業務委託が区別できてないことの表れだったのかもしれない。

 会社は裁判を起こし、Aさんに損害賠償を請求してきた。Aさんも私も、ここで私たちが負けてしまっては、退職しようとする人に会社が損害賠償できるという実績をつくってしまうことになるので、絶対に勝たなければならないという気概で頑張った。

 途中、裁判所が「多少払って和解しては?」と言ってきたこともあったが、「そんなことをして、退職者に対する損害賠償請求が通ったという歴史をつくるわけにはいきません!」と拒否し続けた。

労働者には「退職の自由」がある! 辞めたければ、辞めていい

 裁判は控訴審まで続いたが、一審も控訴審も会社の損害賠償請求を認めなかった。逆に、Aさんのほうから残業代請求をして、付加金(賃金未払いに対する一種の罰金のようなもの)も100パーセント認められたので、Aさんの大勝利で終わったと言っていい。

 退職は、労働者の一方的な意思表示により効力が発生するので、会社の承認は必要ない。

 民法では期間の定めのない雇用契約については、解約の申し入れ後、2週間(但し、月給制の場合は、当該賃金計算期間の前半に申し入れが必要)で終了することとなっているので、会社の同意がなければ退職できないというものではないのだ。

 会社によっては、就業規則で、「労働者は3か月前に退職を申し出なければならない」などと定められている場合もあるが、こういった規則でさえ、裁判では、不当に労働者を拘束するものとして無効とされる場合もある。

 また、退職しようする人への経済的な足止め策を講じることも禁じられている。

 このように、労働者の「退職する自由」は実は強く保障されているのである。

 その昔、日本では「年季奉公」という制度があり、10年、20年といった長い年月、辞めることができずに過酷な環境でも働き続けなければならなかった。日本以外でも、強制労働の例は枚挙に遑がない。こういった強制労働から労働者を守るために、「退職の自由」が保障されているのである。

 辞めたいのに辞めさせてもらえないというアナタにもう一度言う。辞めたければ辞めていいのだ。

【関連条文】 
強制労働の禁止 労働基準法5条
賠償予定の禁止 労働基準法16条
期間の定めのない雇用の解約の申し入れ 民法627条第1項、第2項
奴隷的拘束・苦役からの自由 憲法18条

(前田牧/はかた法律事務所 https://www.hakatalawoffice.jp

********************

ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。

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