死刑確定、木嶋佳苗被告の「再審請求しない」発言の裏にあった母親との確執、そして裁判所への絶望

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『木嶋佳苗 法廷証言』(宝島SUGOI文庫) 

最高裁で死刑が確定した“婚活不審死”事件の木嶋佳苗被告

 最高裁は14日、男性3人を殺害したとして起訴されていた木嶋佳苗被告(現姓・土井佳苗)の上告を棄却、これで佳苗被告の死刑が確定したことになる。マスコミ各社はこの死刑確定を大きく伝えているが、しかし、問題の本質を伝える報道はほとんどない。

 実は、佳苗被告に関する報道はこれまでもずっとそうだった。“連続婚活不審死事件”といわれたこの事件は、犯罪そのものの真相よりも、佳苗被告自身の生活ぶりや発言などその“特異なキャラクター”ばかりが大きな注目を浴びてきた。セレブ自慢のブログ、愛人生活だけで生計を立ててきた経歴、法廷での名器自慢、さらに一審死刑判決後の獄中ブログや獄中結婚、そしてメディアへの手記発表やセックス描写溢れる自伝的小説の出版──。死刑確定後も同じような報道ばかりがあふれているのだ。

 このまま、こんな上っ面の報道に終始し、事件の真相を究明することなく、佳苗被告の死刑判決を確定させてしまっていいのか。本当に冤罪の可能性はないのか。

 佳苗被告は最高裁判決直前、「週刊新潮」(新潮社)4月20日号に手記を寄せ、“死刑判決が確定しても再審請求をしない”“早期の死刑執行を要請する”などと衝撃の告白をした。

 しかし、実際は逮捕から現在まで、佳苗被告は一貫して3人の殺人について無罪を主張してきた。しかも、法廷の審議が十分に尽くされたかは大いに疑問で、その犯行動機の解明はおろか、犯行を裏付ける直接的物証さえ出てきていない。

直接的証拠も動機も解明されなかったひどい裁判

 まずは佳苗被告が問われた3件の不審死について振り返ってみたい。最初の事件とされるのが婚活サイトで知り合い、2009年2月に遺体で見つかった50代の男性のケースだ。この男性は自宅マンションで死亡しているのが発見されたが、室内には練炭コンロが6つあり、警察はこれを自殺として処理、司法解剖さえ行っていない。

 またその3カ月後の5月に死亡した80代の男性もしかりだ。この男性はその1年ほど前に佳苗被告と婚活サイトで知り合ったが、自宅一軒家が火災になり死亡。その際、部屋には練炭コンロが置かれてあり、司法解剖が行われ睡眠導入剤が検出されたが、しかし死因は一酸化炭素中毒と気道熱傷の複合であるとして、事件性なしとして処理されている。

 そして同年8月に死亡した40代の男性。佳苗被告とは、やはり婚活サイトで知り合ったが、駐車場の車内で死亡しているのが発見される。そして司法解剖を行ったところ、体内から高濃度の睡眠導入剤が検出され、車内の状況に不審な点があったことから、交際相手だった佳苗の存在が浮上、この一件がきっかけで佳苗被告は逮捕されている。

 つまり3件のうち、2件は警察が“事件性なし”とすでに判断し、その証拠さえ残っていなかった。警察の明らかな初動捜査ミスである。

 そんな状況のもと、裁判で検察側が展開したのは、物証に基づく立証ではなく、佳苗被告の特異な性格や、彼女がいかに嘘つきかといった主張だった。そのため佳苗被告のセックス観や過去の万引き歴を暴きたて、法廷は彼女の“セックス自慢大会”のような異様な状況になった。

 また、詐欺の被害者や、佳苗被告の交際相手を証人として呼び、その“非常識ぶり”をクローズアップさせ、“犯行を行えたのは佳苗被告しかいない”という消去法的状況証拠を積み重ねたのだ。結局、犯行の決定的証拠や、動機は最後まで明らかにはなることはなかった。

 佳苗被告と交際するなど関係があった男性たちが、短期間に次々と死亡したことはたしかだ。またその現場に同じメーカーの練炭コンロもあった。この間、男性たちの死が自殺や事故だった可能性は一顧だにされることはなかった。
 
 そして今回の最高裁判決を決定づけたと言える一審の判決文には「強く推察される」「考え難い」という文字が躍っている。つまり決定的証拠がなく“グレーゾーン”にあった佳苗被告に対し、「疑わしきは被告人の利益に」という司法の原則は適用されることなく有罪判決が下されたということだ。

繰り返される冤罪事件と裁判所の罪

 だが日本の裁判所において、今回のように状況証拠や自白の強要だけで有罪判決が出され、しかし実際は冤罪だったということは、決して稀有なことではない。足利事件、東電OL事件、袴田事件、そして昨年8月に再審無罪となった大阪東住吉の両親による小6女児焼死事件──。なかでも深刻なのが、死刑判決での冤罪だろう。その典型例が1992年、福岡県飯塚市で起きた“飯塚事件”だ。

 この事件は小1女児2人を殺害したとして久間三千年元死刑囚が逮捕され、06年に死刑が確定、2008年に執行された。しかし、久間元死刑囚は一貫して無罪を主張。さらに有罪を決定付けたDNA鑑定は、精度の低いDNA鑑定が冤罪を引き起こした足利事件と同時期に同じ鑑定方法で行われたものだった。つまり、飯塚事件のDNA鑑定も精度の低いものであり、鑑定の信憑性そのものに疑いが生じたのだ。そのため久間元死刑囚も再審請求を準備していたとされるが、その最中、しかも足利事件で東京高裁がDNAの再鑑定を認める可能性が高まっていたというタイミングで死刑が執行されたのだ。

 死刑という刑罰は執行されてしまえば、もし冤罪が明らかにされても、その命が戻ることはない、取り返しのつかない事態なのだ。

 さらに本サイトで何度も指摘していることだが、多くの場合、最高裁判所を含む裁判所は、真実を見極めるどころか、不当な捜査をした警察や証拠を隠蔽する検察を疑うことなく全面的に擁護することを繰り返してきた。足利事件でも一審、高裁、最高裁と3度も有罪判決を導き出し、冤罪を事実上、後押しした。さらに1997年に弁護側が行ったDNA鑑定が不一致だったにも関わらず、最高裁はこれを無視、その後の再審も退け続けた。袴田事件でも、不自然で杜撰な証拠や物証を問題にせず、1980年に死刑判決が確定。再審が決定したのは、なんと30年以上も経った2014年だった。また飯塚事件でも、死刑執行後に遺族が再審請求を行っているが、今年2月、福岡高裁は、遺族の求める血液型鑑定の検証さえ行うことを拒否している。

 元判事である瀬木比呂志氏も、その著書『ニッポンの裁判』(講談社)のなかで、裁判所の実態を「(刑事系裁判官の)多数派は検察寄りであり、警察、検察が作り上げたストーリーについて一応の審査をするだけの役割にとどまっている。つまり『推定無罪』ではなく、『推定有罪』の傾向が強い」と指摘しているほどだ。

“小菅ヒルズ”アピールの裏には、裁判所への絶望とあきらめが!

 しかしワイドショーはこうした実情を伝えないばかりか、佳苗被告が小菅拘置所を“小菅ヒルズ”などと称していることを“まともに受けて”クローズアップ。『バイキング』(フジテレビ)では司会の坂上忍が「こんないい生活なの!」と露骨な不快感をあらわしていた。

 だが、これらは佳苗被告の絶望の裏返しでもある。彼女は最高裁判決直前、前述「週刊新潮」手記のなかで、その心境をこう記している。

〈最高裁判決を前夜に控えた現在の心境をひとことで申し述べるなら、裁判所が真実を認める期待は皆無だから一縷の望みも持っていないということになります〉 

 手記ではこうした絶望に加え、〈私の死を誰よりも強く望んでいる〉母親との確執から、再審請求をしないとしている。しかし、判決直後の佳苗被告と面会し、その様子を掲載した「週刊朝日」(朝日新聞出版)4月28日号によると、その心境には変化があったようだ。佳苗被告が刑の早期執行を求めることに、親族らが反対していることを面会の際に告げるとこう話したという。

〈生きることを望む人ができたことはありがたいと思う〉

 佳苗被告は現在でも無罪を主張している以上、刑の早期執行など求めず、ぜひ再審の道を探ってほしい。死刑制度と冤罪の問題を考えるという意味でも、それは決して無駄にはならないはずだ。

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