「大阪都構想」住民投票直前 特別企画

大阪市民も気づき始めた? 橋下徹が「都構想」で使った脅しと騙しのテクニックを検証!

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「ワンチャンスだけ」と迫る橋下徹・大阪市長(「大阪都構想」公式ホームページより)


 5月9、10日の週末、在阪民放5局で「橋下徹のラストメッセージ」と称する大阪維新の会のCMが流れた。青空をバックに「CHANGE OSAKA! 5.17」と書いた白いTシャツ姿の橋下徹大阪市長が妙に晴れ晴れした表情でこう語りかける。

〈いよいよ住民投票が近づいてきました。いやあ、ほんっとにここまで長かった。まあ振り返ってみても、山あり谷あり、地獄あり。まあそれでも、ここまで来れたのはただ一つ、とにかく大阪を良くしたい。その思い、それだけでここまでやってきました。

 大阪にはいろんな問題があります。二重行政の無駄。税金の無駄遣い。改革が進まない。市長と住民が遠すぎる。このまま放っておいては、今の大阪の問題、何も解決しません。

 大阪都構想で大阪の問題を解決して、子供たちや孫たちに素晴らしい大阪を引き渡していきたい。ただその思いだけです。大阪を変えれるのは、このワンチャンスだけ。ぜひ、住民投票で新しい大阪を作っていきましょう。よろしくお願いします〉

 なんのことはない、従来の漠然たる主張の繰り返しで、「ラストメッセージ」などともったいぶる内容は何もない。自らのゴリ押しとずさんな協定書が招いた当然の異論・反対を「山あり谷あり」と、さも障害を乗り越えてきたかのように語る一方、前回記事で紹介した、二重行政の無駄は存在しない、特別区のほうが税金の無駄遣い、賛成多数でも「都」にならない……といった数々の指摘はすべて無視。「カイカク」の響きにくるんで甘い夢を振りまき、それを手にするには「ワンチャンスだけ」と性急な判断を迫る。詐欺商法そのままのやり口である。

 維新はこうした宣伝費に4億円もつぎ込んでいるというが、さすがにその胡散臭さに気づき始めた大阪市民も多く、橋下の録音テープで賛成投票を呼びかける無差別電話作戦には「気持ち悪い」「どこで電話番号を調べたんだ」とブーイングが上がっているという話もある。まあ政党の宣伝など所詮そんなものかもしれないが、橋下は大阪市長という公職の立場でも、こうした詐欺まがいの誇大説明や目くらましを一貫して続けてきたのである。

■市民を騙すためにグラフの目盛りを細工した「詐欺パネル」まで使用

 前回書いた通り、橋下と松井一郎府知事は当初、「都構想」の行革効果は「最低でも年間4000億円」と何の根拠もなくぶち上げていた。それが特別区設置協定書案では、976億~736億円に減少。ところが、これも橋下が府市の事務方に「もっとしっかり効果額を積み上げてほしい」「数字は見せ方次第でなんとでもなる」と指示して、市営地下鉄やゴミ収集の民営化、市民サービスの廃止を含む市政改革プランなど、「都構想」には何の関係もないものを盛り込んだ粉飾だったことが指摘され、最終的には「年間1億円」に落ち着いている。最初の4000分の1だ。

 しかも、特別区に移行後の庁舎建設(といっても、場所すら決まっていないが)やシステム改修などで最低600億円の初期費用や毎年20億円のランニングコストがかかることも前回記事の通りである。

 当初は「行政コストの削減こそ都構想のすべてと言っても過言ではない」と豪語していた橋下は、粉飾の指摘が相次ぐと、「僕の価値観は財政効果に置いていない」と手のひらを返し、議会や記者の追及にも「議論してもしかたない」「多様な算出方法がある」と逃げてきた。ところが住民投票が決まり、市主催の住民説明会が始まると、今度は「17年間で2762億円」という額を口にし始めた。

 いちおう市の試算に基づく「長期財政推計」と称しているが、毎年2%前後の経済成長が続き、市税収入が毎年度100億円以上増え続けるという夢物語を前提にした希望的観測に過ぎない。しかし、パンフレットではそのことには触れず、「特別区の財政運営は十分可能です」と太字で強調。さんざんムシのいい話を繰り広げたページの末尾に「粗い試算であり、相当の幅をもって見る必要があります」と申し訳程度に添えてある。「数字は見せ方次第」とは、要するに目くらましのことなのである。

 さらに、巷で「詐欺パネル」と呼ばれている、橋下の実績を誇張する説明図の数々。有効求人倍率のパネルでは、グラフの目盛を細工して伸び率を大きく見せたうえ、伸び率が大阪を上回る都県を比較対象から外す。府と市の借金の推移を表したグラフでは、前任者たちの実績と比較できないようその部分のデータを隠したり、先端部分だけを切り取って、さも橋下が劇的に改善したかのように見せかけたりと、やりたい放題である。

 このあたりは「新潮45」(新潮社)5月号で住民説明会をルポした適菜収が詳しく書いているが、それによれば、今や橋下は効果額を「無限」と言い始めたという。「二重行政をやめて、税金の無駄遣いをやめれば、大阪市には税金が入ってくるんですから。だから使えるお金は無限」と。もはや試算も論理も超越した、ただの誇大妄想である。

 どう言い繕っても、市民を騙す気満々としか見えない無茶苦茶ぶり。ほとんど「橋下信者」と化している維新関係者ならいざ知らず、加担させられる大阪市職員はたまったものではない。しかし、箝口令で縛られた職員たちは声を上げることもできないでいる。

 ある市役所OBは「現役の職員たちはみんな、『市民を騙す片棒を担がされるのはつらい』と泣いてますよ」と語り、現役の市幹部は親指を立てて「どう考えてもできるはずがないのに、これ(橋下)とその一派は、市の解体が正しいと本気で信じているようで、そのためにはどんな虚偽説明や詐欺的手法を駆使しても許されると考えているふしがある」と声を潜める。目的のためには手段を選ばず、というわけだ。

「住民説明会では本来、制度のメリット・デメリットをきちんと説明して判断材料にしてもらうべきなのに、職員からの制度説明は最初の10分程度。あとは市長が延々と『なぜ都構想が必要か』と自分の主張をまくし立てる。質疑の時間もほとんどなし。ひと通り終わって『都構想についてまだよくわからない人』と聞けば、結構な数の手が上がるのに、最後はなんとなく賛同の拍手が起こって終わり。維新関係者の動員がすごいので、どうしてもそういう雰囲気になってしまう、と職員が嘆いていました」

 これも現役市幹部の話である。根拠のない話で煽り、冷静な判断力や考える時間を奪って賛成へ誘導するやり方は、まさに催眠商法や悪質な新興宗教のセミナー会場と同じではないか。

■弁護士時代に培った詭弁、すり替え、恫喝のテクニックを全開

 こうした詐欺的弁舌の〝極意〟を説いた、一部では有名な本がある。橋下が「茶髪の弁護士」時代に書いた『最後に思わずYESと言わせる最強の交渉術』『図説 心理戦で絶対負けない交渉術』(いずれも日本文芸社)の2冊。詭弁、すり替え、前言撤回、責任転嫁などを〝交渉術〟として得々と披瀝する内容は、よくもまあこんな本を堂々と出したものだと感心するほど悪辣な記述に満ちているのだが、もう10年以上前から完成されていた彼のやり口を知るうえで興味深い。

 たとえば、橋下は「人を動かすには三通りの方法しかない」として、合法的に脅す、利益を与える、ひたすらお願いする、の3つを挙げたうえでこう説く。

〈そのなかでも、最も有効なのが〝利益を与える〟である。この場合の利益には二通りある。一つは文字通り相手方の利益。もう一つは、実際には存在しないレトリックによる利益だ。言い換えれば、不利益を回避できることによって生じる〝実在しない利益〟と言える〉

 橋下がよく使うので有名な「仮想の利益」の解説だが、「大阪都構想が実現しないと大阪はダメになる」と、それこそ「合法的に脅し」ながら、「実在しない利益」を強調するのは、まさにこれであろう。また、「交渉をまとめる基本は二者択一の姿勢」という項目は、大阪の抱える複雑な状況を制度の問題に単純化してすり替え、賛成か反対かを迫る今回の住民投票をそのまま表しているかのようだ。

「相手に考える間を与えないテクニック」の項目は、先述した住民説明会のやり方そのものだ。

〈相手方が、「お話はよくわかった。もう少し考えてみたいので、結論は来週まで待ってもらえないだろうか」などと言ってくるのも常套手段である。この場合も、絶対持ち帰らせてはいけない。その場で決断してもらう。持ち帰られると、こちらに不利な展開となることは必至だ。(中略)交渉には勢いが必要である。相手が揺らぎ出したら、考える時間を与えず、一気に結論までもっていくように努力すべきなのだ〉

 さらに、「感情的な議論をふっかけて交渉の流れを変える」の項目。自分の発言の不当性や矛盾に気づいてもポーカーフェイスで通し、知らないふりを決め込むべしと言ったうえで、こう書く。

〈こんなとき私がよく使うテクニックがある。相手方に無益で感情的な論争をわざとふっかけるのだ。いよいよ攻め込まれて、自分の主張が通らないというようなときには法外な要求をして、場を混乱させる。(中略)さんざん話し合いを荒らしまくっておいて、最後の決めゼリフにもっていく。「こんな無益な議論はもうやめましょうよ。こんなことやっても先に進みませんから」。自分が悪いのに、こう言って終わらせてしまうのだ〉

 これなどは、「都構想」の効果額をめぐる議会や記者とのやり取りそのものである。

 「都構想」という名の大阪市解体プランは、橋下徹という稀代の詭弁家の詐術的弁舌と、彼がまとっている「改革者」イメージのみに支えられた砂上の楼閣であることに、もうそろそろ大阪市民は気づいてもいい。
(安福 泉)

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