これで「特定秘密保護法」って…公文書を破棄しまくってきた日本政府

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 だが、もともとこうなんだから特定秘密保護法はあってもなくても同じ、という話にはもちろんならない。なんといっても、これからは最大で懲役10年という厳罰が課せられるのだ。これは、方々を萎縮させるには十分な年数となる。昨年12月の法律成立前後から多くの反発を受けているが、結局、「5年後に運用基準を見直す」程度の修正が加わった程度。情報保全諮問会議座長の渡辺恒雄・読売新聞グループ本社会長が「パブリックコメントを踏まえて国民の知る権利の尊重が改めて明記されたことを高く評価している」(9月10日)と、相変わらず新聞社の長らしからぬ戯言を吐いて「議論は済んだ」モードを紙面にバラ撒いているが、政府はそうした仲良しメディアに助けられつつ、施行の日を迎えようとしている。

 少し前になるが、8月24日、NHK「日曜討論」に出た映画監督・想田和弘の発言が印象に残っている。「(この特定秘密保護法は)人間観が混乱していると思うんです。漏洩する側、秘密を取得する側には厳罰で臨む。つまり、性悪説で書かれている。しかし、秘密を管理する側、指定する側に関しては性善説ではないか。そちらに対する罰則規定がない」。そう指摘する想田を、情報保全諮問会議委員の住田裕子弁護士が「既存の国家公務員法で事足りる」と牽制したが、この『国家と秘密』を読めば、想田の懸念が決して先走ったものではないことが分かる。

 隠す、捨てる、無くす、これまで繰り返されてきた多くの企みとミスは、国家公務員法が適用されるどころか放任されてきた。特定秘密保護法の施行において、扱う側・指定する側に新たな規定を作らないということは、これまでお片づけすらできなかった汚部屋の住人をまだまだ信じ抜くということ。「適性評価」で特定秘密を取り扱う国家公務員や民間人はあらゆる個人情報をまさぐられることになるが、適性評価で特例を弾き出した後は、扱う人間をやっぱり信頼しきるのだ。

 公権力はなぜ文書をなぜ隠すのか。著者のひとりである瀬畑は、マックス・ウェーバーの指摘を引用しつつ、「自分たちの専門知識や政策意図を秘密にすることで他の政治勢力よりも優位な立場を築き、他者からの批判を受けないようにする傾向がある」「専門的な情報を自分たちが独占することで、他者からの批判をすべて『素人のご意見』として跳ね返すことが可能になる」と書く。

 特定秘密保護法を推進する公権力側の人間は、必ず反対派を「そんなに過剰に反応しなくっても大丈夫」「騒ぎすぎですよ」と澄まし顔で牽制する。条文の一部だけを曲解して懸念を持たれても困る、熟知しているこっちからすれば検討に値しない、「素人のご意見」は聞くに値しないという態度。事実、パブリックコメントは形だけで済ませ、国民の声に効力を持たせなかった。長年、自分の部屋を整理整頓できなかった連中が、自分の部屋に入ってこようとする人たちの処分方法だけは厳重に整えたのである。あらゆる順番が狂っている。
(武田砂鉄)

最終更新:2015.01.19 04:53

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