安倍政権の「高プロ法案」強行採決を許していいのか! 実際は年収300万円にも適用可能、過労死続出は確実…

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加藤勝信公式サイトより

 “残業代ゼロ法案”こと「高度プロフェッショナル制度」を含む働き方改革関連法案が昨日、自民、公明、日本維新の会、希望の党による修正案の合意をえて、衆院厚生労働委員会での採決が秒読み段階に入った。

 愛媛県の「獣医学部いいね」文書の影響で採決は25日にずれ込むとの見方もあるが、一方では、政府・与党は委員会採決だけでなく、そのまま本日中に緊急上程して本会議での強行採決まで持ち込むのではとの見方まで流れている。

 周知のように、高プロは、年収1075万円以上の一部専門職を対象に労働時間の規制から除外するもので、残業や休日労働に対しても割増賃金が一切支払われないというシロモノ。長時間労働や過労死を政府自らが進める、人間の命を極めて軽視した悪法として批判があがっている。

 当然、立憲民主党や共産党などは強く反対してきたが、政府・与党は衆院厚労委での審議が目安の30時間を満たしたとして採決に踏み切る方針を打ち出した。しかし、そのなかには森友・加計学園問題等をめぐるずさんな政府対応から野党が審議拒否をしている最中にコッソリ審議入りさせ、空回しした時間も含まれているのだ。結局は、数の力にものを言わせた強行採決であり、政府・与党の国民軽視の国会運営の最たるものといっていいだろう。

 そもそも、安倍首相肝いりの働き方改革関連法案は、柱の一つだった「裁量労働制の拡大」を巡って厚労省のデータ捏造が発覚。念のため振り返っておくと、安倍首相が「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば一般労働者より短いというデータもある」と自信満々に示したデータが、実際には1日の残業時間が1カ月分より長いという異常値が大量に見つかるなど完全にデタラメだったというものだ。また、野村不動産で裁量労働制によって働いていた社員が過労自殺していた問題でも「しっかり監督指導を行っている」(加藤勝信厚労相)などの政府答弁が嘘で、政府が過労死を見逃していた実態があらわになった。

 結果、労働裁量制拡大は法案から削除されたが、しかし、同じく過労死を招く高プロについては、政府は頑として盛り込んだわけである。

 しかし、実は、例の厚労省の“捏造データ”は、高プロの創設を議論した厚労省の労働政策審議会で「議論の出発点」として提出されていたもの。つまり、高プロもまた捏造データから始まったものなのだ。本来ならば法案を直ちに取り下げ、一から労政審で審議をやり直さなければならないのに、政府はゴリ押ししているのである。

ヒアリングした労働者はわずか十数人、加藤勝信厚労相の“ご飯論法”

 しかも、政府は労働者の現状すらまともに見ようとしていない。それはもはや、意図的に無視しているのかと思えるくらいだ。

 たとえば、3月23日の衆院厚労員会では、共産党の高橋千鶴子議員が、高プロの要件のひとつとする年収1075万円以上の労働者も2011年からの3年間で過労による労災認定が73件にものぼっている(うち過労死が27件、過労自殺が12件)というデータを示し、年収要件は過労死の歯止めにならないと指摘したが、山越敬一労働基準局長は「新しい制度でございますので、現状において実態を把握することは困難」と述べた。また、5月9日衆院厚労委員会では、加藤厚労相が高プロの必要性について「いくつかの企業と働く人十数人から話を聞いた」と答弁したのである。

 ようするに、政府はろくすっぽ労働者の声も聞かずに、立法事実すらない状態で、長時間労働と残業代タダを可能にする高プロを推し進めてきたのである。愕然とせざるをえないではないか。

 さらに加藤大臣にいたっては、野党からの追及に対し、分けのわからないインチキ答弁を繰り返した。一例を挙げると、3月2 日の参院予算委では、共産党の小池晃議員が「理論的には4週間のうち最初の4日間さえ休ませれば、残りの24日間は24時間ずっと働かせることができる」と法案の欠陥を指摘、「私の言ったことが法律上、排除されていますか」とただしたのだが、加藤厚労相は「あくまでも本人が自分で仕事を割り振りして、より効率的で自分の力が発揮できる状況をつくっていくということ」と、まったく答えにならない答弁で逃げたのである。

 加藤大臣はこの間の審議で常時、このようなのらりくらり作戦を徹底しており、もはやまともに答える気がないのは明々白々だが、こうした厚労相の答弁には、ネットを中心に「ご飯論法」なる造語まで広がる始末だった。

 「ご飯論法」とはどういうことか。たとえば、例の厚労省の捏造データを暴いた上西充子・法政大学教授は、「Yahoo!ニュース 個人」(5月20日)で、〈論点ずらしによってあたかも「そういう仕組みになっていない」かのように答弁した〉と指摘。そのたとえとして、「朝ごはんは食べなかったんですか?」という質問に、本当は朝食としてパンを食べていたにもかかわらず「(パンなのでお米である)ご飯はたべていません」と答えるような詐術であると喝破している。

 まさに言い得て妙で、高プロをめぐる政府側の答弁は本質を突かれてもそれに答えず、子供騙しのようなごまかしを繰り返すものだった。ところが、テレビなどのマスコミは、こうしたトンデモな政府答弁をほとんど取り上げることはない。巷間でも、高プロが「一部専門職」で「年収1075万円を上回る人」が対象とされているため、自分には関係ないと思っている人が少なくない。

 だが、それは大きな間違いだ。高年収層でも過労死のリスクが減らないのは前述の通りだが、この年収要件そのものにもトリックが仕込まれている。

 すでに労働問題に詳しい佐々木亮弁護士(ブラック企業被害対策弁護団代表)が指摘してきたことだが、まず「年収1075万円」というのは「見込み」でしかない。そして、高プロによって労働時間の規制がとっぱらわれることで、たとえば理論上、1日の労働時間を17時間に設定して、労働者の休憩時間を「欠勤控除」として給料から差し引くなどすれば、実質的には年収300万円代の労働者も「年収1000万円超の見込み」にすることができるのである。

高プロ法案が成立したらほとんどの人が“働かされ放題”に

 しかも、いったん法律が成立してしまえば、その後に年収要件や対象職種は国会審議の必要ない省令等でいくらでも拡大できる。そもそも、裁量労働制拡大や高プロ導入は経済界の強い要望からなるものだが、経団連の榊原定征会長は2015年に「制度が適用される範囲をできるだけ広げていってほしい」と語っていた。また同年には、当時の塩崎恭久厚労相が経済界の会合で「(法案は)小さく産んで大きく育てる。とりあえず通すことだ」などと述べている。

 もともと限定的業種のみを対象にしていたはずの労働者派遣法がいまではほとんどの業種に拡大適用されたように、このまま働き方改革法案が通れば、いずれはすべての人が“働かされ放題”になるのは火を見るよりも明らかだ。

 他にも、この一括法案では高プロだけでなく、「時間外労働の上限規制」も問題視されている。一見、残業の時間を法規制するというのは労働者を守るように思えるが、実際の法案では、繁盛期の上限は「月100時間」とされており、これは労災認定の目安になる過労死ラインと同じだ。ようするに、この法案には労働者の目線が一欠片もなく、完全に使用者側=経済界の利益だけを追及する内容になっているのである。

 こうした欠陥だらけの高プロと上限規制を中心とする働き方改革法案に対しては、野党だけでなく、家族を過労で亡くした遺族たちも強く反対の声をあげている。過労死遺族の人たちでつくる「全国過労死を考える家族の会」は、昨日、官邸前で法案に反対する座り込みの抗議をおこなった。「過労死を考える家族の会」は安倍首相に面会を求めてきたが、いまだに返答はないという。

 衆院厚労委員会の参考人招致では、同会の代表世話人であり、自身も夫を過労自殺で亡くしている寺西笑子さんが、このように訴えた。

「そもそも働き方改革の関連法法案は、安倍総理大臣が委員長になり、政府主導で推し進めてきたものです。(中略)先進国日本と言われている、その政府の先頭に立っている方が、まさか命に関わる法案を、丁寧な審議をせず、過労死遺族の声を聞かず、教訓を学ぼうとしない。世論の大半が反対している法案を強行採決するという暴挙は、やめてください」

 安倍政権が謳う「働き方改革」とは、経済界だけに尻尾を振って、人々を過労死させる“働かせ方”に突き進むものだ。こんな法案は決して通させてはならない。野党は何が何でも強行採決を阻止するべきだ。

最終更新:2018.05.23 07:04

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