山口敬之事件だけじゃない、裁判所ではレイプを“被害者の落ち度”とする判決が横行! 背景にある司法界の女性蔑視

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下ネタを話しただけでセックスに合意とみなされた判決も

 たとえば、レイプ事件に際して必ずもち出されるのが、被害者の「落ち度」についてだ。「夜にひとりで歩いていたのが悪い」「一緒に酒を飲んだことが悪い」「部屋に招き入れたのが悪い」「車に同乗したのが悪い」といったものにはじまって、「露出した服を着ていたせい」「言動が誘惑的だった」といったもの、さらには「夜の商売をしていたなら仕方ない」「もともと性に奔放だった」といったもの。……いずれも性犯罪を犯していい理由にはけっしてならないものばかりだ。

 そして、山口氏自身も今回の疑惑について、この「レイプ神話」を振りかざしている。

 山口氏はまず手記のなかで、詩織さんが〈いろいろな種類の酒〉を〈ペースが非常に早く〉〈ぐいぐいと一気飲みのように飲〉んだと綴り、デートレイプドラッグの使用を否定しながら〈あのように泥酔したのは人生で初めての経験ということになりますね〉と述べ、詩織さんがホテルの部屋のなかやバスルームを〈ゲロまみれ〉にしたかを執拗に書き、〈本当に迷惑でした〉〈痴態に怒り呆れました〉とまとめている。

 その上、山口氏は、貸したTシャツを詩織さんが着用したことを〈私にレイプされたと思っていたのならば絶対にしないはずの行動〉としたり、事件後に詩織さんがビザの対応について問い合わせたメールの文面を取り上げ、〈これが、被害者がレイプ犯に送る文面でしょうか?〉と述べている。

 勧めたわけではない大量の強い酒を自発的に飲んでいた。レイプされた被害者が貸したTシャツは着ないし、冷静なメールなど送るはずがない。──こうしたもっともらしく並べ立てられた事柄はすべて被害者を貶める記述だ。自発的に飲んだ酒で酔っ払っていたからといって合意もなく性行為に及べばそれは犯罪であり、Tシャツやメールの問題は詩織さんも著書『Black Box』(文藝春秋)で自ら言及。〈他に着るものがなく、反射的にそれを身につけた〉だけであり、メールも〈これはすべて悪い夢なのだと思いたかった〉という、多くのレイプに遭った被害者がとる行動だ。

 しかし、この国の司法では、こうした山口氏のような攻撃が、実際に被害者の落ち度として採用されている現実がある。

 事実、『逃げられない性犯罪被害者─無謀な最高裁判決』(杉田聡・編著/青弓社)には、1994年のある性犯罪の判決において、〈被害者が初対面の被告人と飲食店で夜中の三時すぎまで飲んだこと、その際セックスの話をしたこと、野球拳で負けてストッキングを脱いだこと、そして被告人の車に一人で同乗したことなど〉を「大きな落ち度」とし、被害者の供述の信用性を疑って被告人に無罪判決を出している。

 言うまでもないが、悪いのは〈自由なる存在である一人の女性を自らの欲望の満足のために道具視し、その性的自由を踏みにじった加害者〉だ。だが、裁判所は判決のなかで「(被害者女性には)自らにも落ち度があったことの自覚が全く窺えない」と被害者を非難。「一緒に飲酒し、ゲームの中でセックスに関する会話までしていた」点から、被告人が強姦したと見なすことを「余りにも唐突で不自然であるといわざるを得ない」としているのだ。これは酒の席で女性が下ネタ話をしたことを“合意”の理由にあげていると言っていいもので、言葉を失うしかない。

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